第二章 ~ これは救済なのです ~ (8)
罪悪感?
そんなもの、必要ありませんよっ。
8
目が覚めたとき、天井が最初に飛び込んできた。
「……終わったのか」
横に体を傾かせると、窓のカーテン越しに朝日が洩れている。
朝になっていた。
胸に手を当てていると、心臓が軽く脈打っていた。悔しいけれど、ちょっと興奮していた。
あの領地での光景がよぎり、頭を抱えた。ウサギの姿、あの男の姿がよぎるたびに、鼓動が激しくなるのだけれど、不思議と罪悪感はなかった。
「だめだろ、それじゃ」
額を押さえ、嘲笑するしかなかった。
領地のことをしっかりと確かめてみたかったのだけれど、目覚めたときにウサギの姿は部屋になく、確かめることはできなかった。
夢が覚める直前、池脇の叫び声が聞こえた気がしたけれど。
冷静になり、それが現実になれば、と恐怖があるはずなのに、時間が流れるほどに、胸を締めつけていた苦しさが弱まっていた。
登校する間は、ふとしたときに息を呑む瞬間もあったけれど、二時限目が始まるころには、気持ちは鎮まっていた。
それは単純にどんな夢でも目が覚めると、曖昧になっているのと同じで、いつもの生活に戻っていた。
昼休みになるまでは。
「何、見てんだ?」
弁当を食べ終え、緑茶を飲んでいると、横で優太は真剣な表情でスマホを睨み、「う~ん」と唸っていた。
「いや、これってあのコンビニの場所だよなって思って」
「ーーコンビニ?」
明の問いに、優太は見ていた自分のスマホを見せてきた。スマホには誰かが投稿した画像が映し出されていた。
「なんだ、これ? 昨日の夜ってそんなに風、強かったか?」
「いや。それにこれにも書いてあるけど、切ったみたいだぞ」
「切った? 夜中にノコギリでわざわざ? 暇人だな」
明と優太、画像を挟んで口論し合っているなか、緑茶を飲み続けて沈黙を守っていた。
面喰らいそうなのを、必死に耐えながらも。
見せられた画像に見覚えがあった。
場所は領地で見たコンビニの前。街路樹はウサギが鎌を取り出し、威嚇で振り回したとき、勢いで街路樹を斬っていた。
あれは現実だったのか?
……わからない。
でも実際、街路樹は切られている。
「でも、わざわざ切る? 切ったって意味ないじゃん。ただのきなんだからさ」
「酔っ払いなんじゃないの。「酔ってぶつかったから、腹が立った」とか」
酔っ払いではない。バカではあるだろうけども、この犯人は。
街路樹を切った犯人像を描いていく明と優太。話は大きくなり、どう切ったのかまでを手振り身振りで口論していく。
言えるわけでもなく、唇を閉ざし、沈黙を守っていた。
そもそも、あれは夢であり、現実に影響……。
緑茶のボトルをギュッと握ってしまった。
影響はある。荒木小春に三上が消えているのだから。
実際、明が荒木小春について、嘆いたり落ち込んだりしていることはなくなったのだから。
興奮して盛り上がっている二人を眺めていると、
「行ってみる?」
「ーーはぁっ?」
急に提案したのは明。
意外な反応だったので、間の抜けた声が洩れてしまう。
犯人って、何、私を悪者みたいに扱うのです?
……まったく。




