↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ピンクウサギの言うことなんか聞けるかっ  作者: ひろゆき


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
20/60

 第二章  ~  これは救済なのです  ~  (7)

 ふ~ん。ふ~ん。ふ~ん。

            7



 冷たい風が頬を撫でるなか、鼻を刺激するものがあった。

 鼻を擦りながらも、「またか」とどこかで受け入れてしまっている。

 ここは、ウサギの言う“領地”なんだろうと。

 辺りを見渡すと、何気ない街の光景。

 夜、月が見下ろすなか、普段よく通る街の一角に立っていた。

 そこはいつも学校の帰りによくふらついている場所であった。

 大きな車道と歩道が続いており、街路樹が仕切りとして植えられている。

 少し強めの風に街路樹の葉が揺れ、葉音の響く何気ない通路だけれど、現実ではないと実感させられる。

 人通りがなかったから。

 普段、この通りには様々なショップが並んでいて、人通りも多く、人がすれ違うことがないのは、ほぼ皆無であった。

 それなのに一人しかおらず、車も一台として通過していない閑散としていた。

 左側に続くショップも明かりが消され、暗闇が伸びるなか、奥に一カ所だけ明かりが洩れている店があった。

 自然と体が誘われてしまい、胸が締めつけられていく。

 その店が、問題のコンビニであるために。

 現状が奇妙な空間ならば、この先で起きることが予想できてしまう。

 ウサギが、と。

 それでも足が吸い込まれるように、店へと近づいていく。

 コンビニの手前まで進み、煌々とした光が歩道に洩れるなか、入口の自動ドアが開いた。

「止めろっ、くそっ」

 開くのと同時に、叫び声が木霊し、一人の人影が地面に這いつくばるように出てきた。

 出てきたのは男。その姿を見て息を呑んだ。

 池脇正孝である。

「止めろっ、止めてくれっ」

 立ち上がろうとする池脇だけど、恐怖に襲われているのか、横顔は引きつり、腰が抜けているのか、尻餅を着いている。

 そのまま後ずさりして街路樹まで下がると、行く手を塞がれ、街路樹に凭れた。

 ずっと怯えた眼差しをコンビニの入口に向けて。

 視線をコンビニに向けると、照明は灯されているけれど、店内に人影はなかった。いつもクレームの対応に追われている店員の姿も。

 首を傾げて視線を戻そうとしたときである。自動ドアが開いた。

「ふ~ん。ふ~ん」

 開くのと同時に、音のズレた鼻唄が聞こえる。辺りが静寂しているからこそ、より耳障りでしかない。

 ウサギが姿を現した。

 手には日本刀を握っており、刃先を池脇へと向けて揺らしている。

「さぁ、さぁ、早く私に切られましょうよ。その方が楽ですよ」

「ふざけるなっ。なんなんだ」

「まったく、ワガママなんだから。いいですか、この刀は誇り高き名刀。早くその錆になるのが…… っと少年」

 そこでウサギの耳がアンテナみたくピンッと伸び、こちらに振り向いた。

 こちらに気づくと、ウサギは「よっ」と軽く挨拶をしてきた。

「いやぁ、感謝しますぞ、少年。今回は選択が早かっただけに、仕事が順調に進みそうです。ではっ」

 と、刀を両手に握り、構え直した。

 刀を振り上げると、そのまま池脇へと突進し、「やぁっ」と間抜けな声とともに振り下げた。

 刀は見事池脇を…… 斬りつけることはなかった。

 刀が池脇に落とされる瞬間、咄嗟に横に転がることで回避したのである。

 刃が斬りつけたのは、池脇が凭れていた街路樹であった。

 勢いつけて飛びついたせいなのか、刀は木にめり込んでしまった。しかも、引き抜けないのか、めり込んだ刀にウサギがブラブラとぶら下がっている。

 ぶら下がりながらも、懸命に刀を抜こうとする姿は、見事に無様であり、つい笑ってしまった。

 ウサギの醜態に気が紛れていたけど、不意に誰かに足音を掴まれ、背筋に悪寒が走った。

「た、助けてくれ」

 池脇であった。

 池脇は這いつくばりながら、必死の思いで足を掴んできた。

「なぁ、助けろ、助けてくれよっ」

 一気に現実に引き戻された。池脇は体を伝い、立ち上がろうとすると、ずっと目を逸らそうとしない。

 言葉では助けを請うているのだけど、池脇の眼差しからは、人を蔑んだ気持ちが漂っている。

「おい、聞いてんのかよ」

 池脇は立ち上がると、肩を掴んで揺らした。必要以上に力がこもっていて痛い。

 身勝手な言動に苛立ちながらも、ウサギを眺めた。

 ウサギは刀を諦めたのか、ピョッンッと地面に飛び降りた。刀は街路樹に刺さったままで、和み惜しそうに眺めたあと、ポンッと手を叩いた。

 すると、また大きな“鎌”を出現させた。

「ふむ。やはり私はこれが馴染んできたみたいですな。刀は諦めましょう」

 と、高々と言い、一度一回転、鎌を振り回した。

 刃が胡を描くのと同時に、ズンッと鈍い音がし、続けて軽い地鳴りが足元を響かせた。

 瞬きをした瞬間、ウサギのそばの街路樹が車道に向けて倒れたのである。

 ウサギの一撃によって。

 池脇が短い悲鳴を堪えているけれど、まったく恐怖を感じない。

「う~ん。やっぱり、しっくりきますね」

 ウサギは嬉しそうに腰を振っていた。

 ウサギはそこで標的である池脇に、手招きをする。すると、池脇は僕の後ろに回り込み、背中を押す。体を盾にしようとして。

 軽い既視感に襲われた。

 あれはいつだったか、前にもウサギに襲われる人物が僕を犠牲にして己を守ろうと、身代わりに差し出されたことを。

「あ、あれは三上だったっけ」

 溜め息交じりに吐き出した。湧き上がる嫌悪感とともに。

「おい、バカウサギ。一つ頼みがある」

「ーーはいっ?」

「こいつを殺すのは、僕が背中を向けてからにしてくれ。こんなクズの死ぬところなんて見たくないから」

「それはたやすいことですよ、少年」

 と、敬礼するウサギ。そこで戸惑う池脇の腕を振り払い、後ろに回り込んだ。

 そして、池脇の背中をドンッと押した。

「なっ、お前っ」

 血走った池脇の眼差しがずっと睨んでくるなか、ウサギの前に倒れ込む。

「ーー知るか」

 池脇に背中を向けた。

 ぬぉっ、失礼。

   ちょっと力が入ってしまいました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。