第二章 ~ これは救済なのです ~ (6)
クレーマー。
クレーマー。
ふむ、クレーマー。
6
迷いはまだある。
ウサギの言い分にはどこか矛盾を感じてしまう。だからこそ、気持ち悪さが残っていた。
「さぁ、では待ちに待った標的はこちらですっ」
両手に掲げて現れたのは、大きめの写真。今回はフレームに入れられ、丁寧さがあった。
「今回は初心に戻り、標的の選択からしようではないですか。まずは一人目、池脇正孝」
「あれ? こいつは……」
つい、眉をひそめる。
「おっ? 少年、この罪人をご存知か?」
「うん。こいつは知っている」
写真に移るのは一人の男。
二十代半ばと見える、小太りの姿で、短髪の髪は少し茶色に染められ、目尻が吊り上がっている。
あたかも犯罪者の顔に見えてしまう。
「こいつ、クレーマーだろ」
実は、こいつを何度か目撃したことがあった。
場所はコンビニ。
学校帰り、雑誌を立ち読みしようと寄ったとき、この男はレジの店員に向かい、大声で怒鳴っていた状況に何度も遭遇していた。
お菓子を買おうと、レジに並ぶのだけれど、レジを占領して動こうともせずに居座られ、商品を返して帰ったことも一度や二度ではない。
なかには、男を注意する勇敢な人もいたけれど、すぐにけんか腰で敵意を剥き出しにする危うい人物であった。
こいつは店員に叫んでいるのは理不尽なことばかりで、ただの暴言でしかなかった。
しかも、こいつはコンビニによく居座っていたため、店を敬遠している者も少なくない。
さらに言えば、以前、優太がバイトを諦めた店舗もこのコンビニであった。優太が嫌がったのも、この男が原因である。
「そう。少年の言う通りである。この男を救う必要があるかは難しいことである。店が被る損害をわかっているのか、と高々と問いたくなる」
こいつに関しては、ウサギの言い分に逆らう気はない。
男に対する嫌悪感に唇を噛んでいると、ウサギは手をポンッと叩いた。
「では、次です。次に現れますのはこの人物、高梨ーー」
「ーーこいつでいいんじゃないか」
ウサギが新たな写真を出現させ、耳を楽しそうに揺らしていると、静かに呟いた。
ウサギの片耳が傾く。
「ん? 今、なんと? 少年?」
「だから、消す奴はこのクレーマーでいいんじゃないのか?」
池脇正孝を迷わず選んでしまう。
嫌悪感は敵意に近い。だから、今回だけは罪悪感が強まらなかった。
不思議な感覚に頭を抱えていると、急に静かになるウサギが気になってしまう。
視線を移してみると、ウサギはテーブルの上で土下座をしており、頭を天板にくっつけていた。
「……何、やっているんだ、お前」
「いやはや、まさかこれほど早く決断してくれるとは思っていなかったので。やっと私の仕事の重要性を理解してくださった。ありがとうございます」
「別にそんなことはない。ただ、あの男が嫌いなだけだよ」
「いやいや。それでも前進でありますぞ、これは」
ウサギは声を弾ませ、クラッカーを鳴らす次第であった。
「では次ですな。さ、では武器を選ぼうではないですか。どうします? 少年は大鎌が好きそうですな。やはり、これになさいますか、ん? ん?」
「それは好きにしてくれればいい」
そこまでは判断したくなかった。
ウサギは「うん、うん」と頷き、これまでみたいに怒ることはなかった。実行を認めただけで満足しているのだろう。
これでいいんだ、と納得するしかない。
心が落ち着かないままテレビを眺めた。まだニュースのままであったけれど、プロ野球の試合結果になっていた。
放っておくと、また違う犠牲が出てしまう。それならば、被害者を出さない選択をするべき……。
それだけである。
おぉ、やる気になりましたか?




