それぞれの転機 1
「これはどういうことか? ブリューチス大隊長」
地下牢から上がってきたノース達を待ち受けていたのは、バンダス騎士団長とミューカス第二大隊長だった。彼らの脇で、カーナフ分隊長が青い顔をしている。
「これはお揃いで。どうなされたのですか?」
ノースは平静を装って訊いた。しかし、握りしめた掌が汗でびっしょり濡れている。
「どうもこうもあるか、ブリューチス大隊長。勝手に女官を尋問するなどと、何を考えている」バンダスが言った。
バンダスの背後では、ミューカスが脂ぎった顔をしかめている。おそらく、カーナフが小隊に確認を取り、巡り巡ってミューカスにまで話が通ったのだろう。そして、騎士団長まで確認がなされた。正直なところ、ノースが予想していたより随分と迅速に話が回った。普段の騎士団では考えられない迅速さだ。
「何か申し開きはないのかね? このままでは、君も魔術師の一味と見なさざるを得なくなるぞ」
「ええと……、実は特命を受けまして……」ノースは、可能な限り確認に時間を要するような話をでっち上げようと試みた。
「ほう? それは誰からだね? 騎士団からはそんな命は出ていないぞ。女王陛下か? それとも刑部尚書辺りか?」
「特命ですから……」
「それで通ると思うのか?」バンダスが詰め寄った。
ノースが進退窮まったと思ったとき、意外なところから声がした。
「私が命じたのだ」
入り口にがっしりした体躯の男が立っていた。短い銀髪を撫でつけ、豊かな口ひげを蓄えている。そして、部屋の中を睨み付ける鋭い眼光。港湾候ゴース・アプセン二世だった。
「私がブリューチス大隊長に依頼をしたのだが、まずかっただろうか?」
港湾候は、有無を言わせぬ迫力でバンダスとミューカスに向き合った。バンダスがしばし呆気にとられた後、弱々しく抗議を試みた。
「閣下。騎士団は陛下のものです。御自重いただかないと……」
「ふむ。しかし、私は今陛下のお手伝いをしている。私の命は陛下のお言葉と取っていただいて結構だと心得るが?」
これには、バンダスとミューカスだけではなく、ノースも絶句した。自分は王と同じだと、そう言っているのだ。しかし、意図はよくわからないが、港湾候がノースに助け船を出してくれたことは確かなようだった。
「そうなのか? ブリューチス大隊長」バンダスが訊く。
「はい」とノースは神妙に頷いた。
バンダスとミューカスは顔を見合わせると、乱暴に扉を開いて出て行った。




