それぞれの転機 2
「一応、お礼を申し上げます」
「一応か……。ふふふ、ははははは」
ノースと港湾候は王宮の庭園の中を歩いていた。すでに日は暮れて、庭園は夏の宵闇に包まれている。地下牢から出たふたりは並んで歩き、ここまでやってきた。ベルルは第八大隊長室へと戻っていった。
「あの、何かおかしなことを申し上げましたか?」
「ブリューチス大隊長、まだ若いな。そんな風に不審を露わにしては、何かを知っていると言っているようなものだ」
「私が無理に牢に入った時点で、閣下はそれを承知していらっしゃるのでは?」
「うむ。しかしまあ、間に合って良かった」
「改めてお伺いいたします。何故私に助け船を出してくださったのですか?」
「女王陛下のためだ。もちろん、本物のな」
ノースは絶句した。港湾候は今、王宮にいる女王が偽者だと認めたのだ――この男は王子の手先ではないのか?
庭園を吹き抜ける生暖かい風がノースのうなじを撫でていく。それだけのことで、ノースは驚いて飛び上がりそうになった。
「……それは、王子殿下を裏切るということですか?」
「どういうことかな?」
王子の名を持ち出したのはノースの賭だった。ここが分水嶺になると、彼女の直感が告げていた。星明かりの下では、港湾候の表情ははっきりとしない。
「あなた方三諸侯は、王子殿下の意向を受けてパパマスカ王に退位を勧め、ララサララ殿下を王位につけた。魔術師の襲撃を演出して〈金翠の歌姫〉を捕らえた。王子殿下がお戻りの後は、陛下を玉座から下ろして、王子殿下が玉座に座る予定になっている。当初は継承権の逆転を楯にするつもりだったのかもしれない。陛下が逃れてしまったから、偽者だと断じる計画に変えたのかもしれない。そして、本物の陛下は早急に探し出す。後は、陛下と〈金翠の歌姫〉を犠牲にして、再度の守護魔法を行う……。そういう計画ではないのですか?」
港湾候は興味深そうにノースに訊いた。
「大隊長。仮にその通りだとして、私が王子殿下を裏切るつもりなどなく、単に探りを入れるためだけに貴殿を助けたのだとしたら、どうするね? この場で切って捨てられるかも知れぬぞ」
港湾候ゴース・アプセン二世は剣の腕が立つことで知られている。
「そのときはそのときです。騎士たるものは決断が肝要。私は閣下がお味方であることに賭けます」
港湾候は感心したように息を吐いた。
「もちろん、賭に負けた場合、黙って切られるつもりはありませんけれど」
「なるほど」港湾候は楽しそうに笑った。「機をみるに敏、結構だ。どうだ大隊長、これから一鞍付き合わぬか?」
港湾候は馬駆けをしないかと誘っているのだ。すでに日は暮れているというのに。しかし、ノースは躊躇せずに答えた。
「いいでしょう。お付き合いいたします」




