第34話 死神と討伐依頼
村長が女性だった。そして、彼女を見たノブトシの感想が〝綺麗な人〟だったというだけで、私の心がチリチリと痛む。何なんだろう、これ……
「カッツ! よく無事で……!」
カッツと握手したあと、村長はノブトシに気付いたようだ。
「こちらの方は?」
「この人はノブトシさん。俺の命の恩人です」
「そうでしたか! カッツがお世話になりました。本当に有難うございます!」
満面の笑みでノブトシの手を握る村長。
「いえいえ、当然のことをしたまでです」
ニヤニヤと、イヤラシく、締まりのない顔で、だらしなく挨拶するノブトシ。
まったく、なんでこんなにイライラするの……?
ノブトシ、いつまでデレデレと手を握っているのだ?
『……ん? 死神、なんか言った?』
……コホン。い、いや、何でもない。
当然だけど、私がとやかく言う事ではない。分かっているけど、なぜか腹立たしさとモヤモヤが止まらない。
……そうこうしている内に、村人たちも集まってきた。
「カッツ、怪我はないか? ……他のみんなは?」
「助けは……王都から助けは来たんだろ?」
村人は次々と話しかけてくる。
カッツは、少しうつむいたあと、申し訳なさそうな表情を浮かべ、こう言った。
「すまないみんな。王都までは行けなかったんだ。俺以外、全員死んだ。俺も、この人がいなければ……死んでいた」
この、カッツ・ガリアフルという男、ノブトシが助けなければ、今ごろ魔物の腹の中で、良い具合に消化されていた事だろう。
「そ、そんなあ! それじゃオラたち、もう……!」
「ダメだ。おしまいだ」
村人たちから、悲鳴にも似た落胆の声があがる。
そのままヘタりこむ者もいた。皆、疲労と空腹で、限界のようね。
『大丈夫ですよ。兵士さんたちが、来てくれていますから!』
そう言って、ノブトシは村人たちに微笑みかける。
『……それに、イザとなったら、死神と僕でやっつけてしまおう』
私の耳元で、ボソリと呟くノブトシ。や、ちょっと! くすぐったい!
おいノブトシ! 獲物が死神に囁かれるなら分かるが、なんでお前が死神に囁くのだ。
……だいたい、どうして私が率先して魔物の討伐なんかしなきゃならないのよ?
『へへ……まあ、僕たちがやらなくても、王都から救援が来るから心配ないけどね』
実は、私たちがここを目指すと同時に、数名の兵士が王都に向かっていた。
バドたちが魔物を全滅させられれば良し。もしダメな場合は、この集会場に立てこもって、王都からの救援を待つという作戦なのよね。
『……というわけで、数日後には、王都から助けが来てくれるハズです』
「食べ物も、たくさん持って来てくれているんだ。もう少しの辛抱だぜ!」
でもね。あれぐらいの敵なら、カッツだけで、充分に勝てるんじゃない? だって、ノブトシの〝移譲〟で、カッツは〝攻撃力〟〝守備力〟〝敏捷性〟が、人間の域を遥かに超える数値になっているんだから。
『死神。食べ物を出してくれる? えっと……僕の買ったヤツから先にたのむ』
私を倉庫か何かだと思ってるんじゃないでしょうね。
……えっと、ノブトシの買った食料は、ハムとパンとチーズ。果物もあったはず。
「おおお! どうなってるんだ? それ!」
「わあっ! 食べ物だ! 助かったぞ!」
村人から歓声が上がった。
「ねえ、なんで食べ物が、どんどん出てくるの? お兄ちゃんは神さまなの?」
小さな子どもが、私の無限袋を見て言う。
『あはは。違うよ? でもね、神さまはちゃんと、みんなの事を気に掛けて下さっているんだ』
この世界の神は、人間の悲惨な状態を憂いている。だからこそ、ノブトシをこの世界に喚んだのだ。
……問題は、コイツが私の獲物だったという事。おかげで私まで、こんな所まで連れて来られてしまった。いい迷惑よね、まったく。
「いいえ、ノブトシさんは神さまですよ! 俺にスゴい力をくれましたし!」
『わわわ! カッツさん。違いますよ! それは例の〝呪い〟の仕業なんです!』
……私は〝呪い〟という事になっていて、都合の悪いことは大抵、私のせいという事にされてしまう。無限袋から食料が出てくるのも、ノブトシを襲う魔物が勝手に真っ二つになるのも、カッツが命拾いしたのも、ぜーんぶ私のせい。
……困ったわね。マイナス要素が無いわ。
おいノブトシ。お前はどういうつもりなのだ。
『ん? 何が?』
まったく! 自分の力を、惜しげもなく分け与えおって……! お前に死んでもらっては困るのだぞ。
……残った能力と、今後、手に入れる能力値は、一切、譲渡するな。
『えー……だってさ、誰かがピンチの時は、仕方ないじゃないか』
コイツ、このまま放っておいたら、またやるわね。
……ん? 待って、もしかして!
ノブトシ、お前まさか、以前にも、誰かに能力を与えたか?
『あ、えっと……バドさんにも〝運〟を400ちょい?』
バカなの? こいつバカなの?!
……400の〝運〟って、絞首刑のロープが切れて、100回は助かるレベルじゃない!
お、お前というヤツは! ノブトシ!
『な、なんだよ! しょうがないじゃないか……! バドさん、危ない所だったんだぞ?』
だ・か・ら! 他人の事ばかり考えおって! お前はもっと自分の事を考えて行動しろ。そんな事では、命がいくつあっても足りぬ。
『ちぇ……他人の事ばかりって、そんなはず無いじゃないか……あ! 忘れてた! ここに無事たどり着いたことを知らせなきゃ!』
バタバタと集会場の2階へと続く階段を駆け上がっていく。
……っていうか、それを遠目に見てってワケにもいかないのよ。私は獲物から、この鎌の届く距離以上、離れられないのだから。
おい、落ち着けノブトシ! 私を引きずるな。
『ああ、ごめんごめん。急がないとバドさんたちが心配するからさ』
……やっぱ、他人の事ばかりじゃない。




