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第35話   死神と偽りの魂

 無事に村人と合流した事をバドに知らせるため、ノブトシは発煙筒(はつえんとう)に点火した。

 すさまじい量の煙が出て……何やってるのよノブトシ。いま、思いっきり吸い込んだわよね?


 ……間抜けめ。大丈夫か?


『ケホッ! ゲホッ! ああ。それより、バドさんたちは平気かな? ……ケホッ』


 ふん。お前の〝俯瞰(ふかん)〟で確認すれば良かろう。


『あ、そっか。えっと、居た! 1、2、3……良かった! 全員無事に戦ってる』


 やっぱり、あの〝小鬼〟っていう魔物は、大したことないみたいね。

 ……でも、それじゃなぜ、この村はここまで被害を受けているの?


「ノブトシさん、俺、抜け道の入り口を見張ってる兵士さんたちを、呼びに行ってきます!」


 同行していた兵士たちには、私たちが通ってきた抜け道から魔物が入ってこないよう、見張ってもらっている。万が一、避難所が全滅していた場合〝挟み撃ち〟になるのを防ぐためよね。


『カッツさん、僕も行きます!』


 この避難所が無事だと分かったら、あの場所を守る意味はないわ。

 ……あと、ノブトシがついて行く意味もない。だって、カッツはこの村にいる、誰より強いのよ。


 おい、ノブトシ。お前はここで待て!


『何でだよ、危ないじゃないか!』


 ふざけるな。カッツは死なぬ。そして、お前が死んだら私が困るのだ!


『僕は死なないよ。死神が一緒だからね』


 にっこり微笑むノブトシ。もう、調子狂うわね……!

 ……? なんで私、ドキドキしてるの? 何なのよ、これ!


『あと、バドさんたちが来たら〝バリケード〟と〝防壁〟を準備しないと』


 住民を守りつつ安全に敵を倒すため、この集会場の周りに簡易的な〝防壁〟を張り、正面の入り口を、バリケードで強化する。かなり大掛かりな設備や資材が必要だけど……それらはすべて、私の無限袋(むげんたい)に入っている。この男、私を運搬係だと思ってるわ、絶対!


『死神?』


 私の目をじっと見つめて、首をかしげるノブトシ。

 やだ……ちょ! 何よ。なんで私、いま口から出そうになった文句を、引っ込めちゃったの……?


 ……ええい! 兵士を迎えに行くのだろう! 早くしろこのノロマ!


『あはは。ありがとう、死神!』


 その笑顔で、私の毛羽立(けばだ)った心は平静を取り戻す。いえ、それどころか、潤い、満たされてしまう。

 さすがに、いくらなんでもオカシイわよ、私……






 >>>






 重くて大きな〝バリケードの土台部分〟を、次々に取り出す。次に、数百の麻袋(あさぶくろ)と、大量の土を取り出し、うず高く積み上げると、兵士が次々に〝土のう〟にして、土台の隙間を埋めて行く。


 見事な手際だな……しかし、なぜお前まで手伝っているのだ?


『……? 大勢でやった方が早く済むじゃないか』


 ああ、そ(・)う(・)だ(・)ろ(・)う(・)と(・)も(・)。

 そこに突っ立って見ているだけなら、手伝った方が効率的だ。

 ……だがそ(・)う(・)で(・)は(・)な(・)い(・)。なぜ私の言う事を聞かず、外に出てきているのかと聞いているのだ。


 こいつはホントにもう! 私を外に置いて、集会場の中に入れと言ってるのに!


『……お前だけ危険な目にあわせる訳にはいかない。僕はお前と、ずっと一緒にいるから』


 はわわわ?! なに? なによ! ……心臓がヤバいわ? 顔が熱い!


『死神……大丈夫か? そろそろ、バリケードの本体部分を出してくれなきゃ……』


 はわわわわわわ……

 え? あ、えっと……コホン。


 ふん、言われずとも分かっておるわ! それ!


 無数の〝鉄の支柱〟と〝木の板〟を取り出す。これを土台の上に組み立てて、簡易式バリケードの出来上がり。

 ……無いより、ちょっとだけマシって感じよね。あくまで〝簡易式〟だわ。


「バリケードの設置、終わりました」


「よし、交代で、殲滅を続けろ。気を抜くんじゃないぞ! ……ノブトシさん、次は〝防壁〟の準備を」


『はい、了解です!』


 なんだか、ノブトシまで、隊員みたいなノリになって来てるわね。

 あ、おいコラ、待て、引っ張るなノブトシ。






 >>>






『建物の、内側からで大丈夫なんですか?』


「はい、もともと、そういう使い方をするための物ですので」


 集会場の4隅に、かなり大きい、奇妙な形のオブジェが置かれる。

 私の〝無限袋〟から出した、30種類以上の部品を組み立てて出来上がったそれは、簡易的な〝防壁〟を作り出すことが出来るらしい。


『……あれ? そういえば、なんでこれを村の防壁が壊れた所に、使わなかったんですか?』


「ああ、実はですね、これ、すこぶる燃費が悪いので、本当に短期の場合しか使えないんですよ」


 そう言って、バドは懐から紫色の小石を取り出した。

 ……? 何だろう。ちょっと不思議な存在感の石ね。


『バドさん、それは?』


「これは〝ディクリウム〟という物で、魔法道具の動力として使います。とても高価なんですよ」


 バドは、4つのオブジェに〝ディクリウム〟をセットしていく。

 ……ふーん? そんな石ころが動力ねえ。


『電池みたいなものかな? なあ、死神?』


 ……馴れ馴れしいぞノブトシ、私に聞くな。お前たちの使う〝電池〟も、私にとってはよく分からぬものだ。


「ちなみに、このサイズの〝ディクリウム〟ひとつで、金貨5枚はします。出力にもよりますが、この集会場を、安全に囲って守れる厚さと高さを維持するのでしたら、丸一日、保つかどうかです」


『という事は、1日防壁を張るのに、金貨20枚?! そ、それは本当に緊急用ですね』


 驚いた! 確か、交易所で色々と売って、ノブトシがもらったのが金貨20枚ぐらいじゃなかった?


「はは。困った時はお互い様ですからね。この〝ディクリウム〟は、ウチの隊の備蓄と、村の集会場のを集めて、持ってきたのです」


 バドがオブジェを弄(いじ)りながら笑う。


「どなたが直して下さったのか分かりませんが、ウチの村は〝防壁〟が完璧に修復されましたから。同時にその方は、この村も救ってくれた事になりますね」


 まあ、なんていうか……ノブトシなのよね、その〝防壁を修理した人〟は。

 それに飽き足らず、こんな所まで来ちゃってるし。


 まったく。お前というヤツは、お人好しの極みだな。


『へへ。それほどでも……』


 褒めてはおらん。

 それよりノブトシ、落ち着いたら、兵士を伴って、小鬼どもの死体を回収に行くぞ。


「あ、そうか〝偽造魂(ぎぞうたましい)〟を集めなきゃ」


 そうだ。お前の能力を強化せねばな……その調子では、命がいくつあっても足りぬ。


 ……そのためには、次に神が現れるまでに、チョットでも多くの〝偽りの魂〟を集めておかなきゃ。

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