第31話 溺愛の呪いは終わらない
エリーゼの手違いからアゼルの溺愛を倍増させてしまったが、アゼルを服従させる目的としては成功していた。
今日の二人はサイベリア国の王城に来ている。ウィリアム国の隣国で、以前の侵攻によりアゼルが実効支配した国だ。
玉座の間にて、玉座に座るサイベリア国の王に向かってアゼルは調印書を差し出す。
「我が妻、エリーゼの要望だ。我がデヴィール国軍は撤退しサイベリア国と和平条約を結ぶ」
「う、うむ……同意する」
初老の国王は不可解な顔をしながらも同意した。侵攻されはしたが負傷した兵が少なかったのも幸いした。
アゼルはサイベリア国の実効支配を解いて、今後の国交も良好なものにすると約束をする。
その様子を隣で見ていたエリーゼは、こうも和平が上手く行くなんて予想外で奮い立ってしまう。
(そうよ、これなら世界平和と世界征服は同義よ! いける、いけるわ!!)
和平によって世界を制する。アゼルに全世界と和平を結ばせる事で、それを世界征服と成す。
これこそが、エリーゼの願望『世界平和』とアゼルの野望『世界征服』を同時に叶える方法だと言える。
その後、カインからアゼル宛てに書簡が届いた。その内容は、第一王子であるカインが王位を継承してウィリアムの国王となった事。
そして、セレンと結婚したとの知らせだった。
それから数日後、アゼルとエリーゼはウィリアム国の王城を訪れた。玉座の間にて玉座に座るカインは、すっかり国王の風格を纏っている。
隣の王妃の席に座っていたセレンは立ち上がると、エリーゼに向かって片手を差し出す。握手の催促だ。
「その……今までは悪かったわ。これからは両国の王妃として仲良くしましょう」
「もう、セレンったら、当然よ。結婚おめでとう。カイン様と幸せになってね」
「……ありがとう。お姉様もね」
バツが悪そうにしながらも上から目線のセレンだが、エリーゼは分かっている。自分にそっくりな妹のセレンは、やっぱりツンデレなのだと。
握手を交わすと、急にセレンの足元がふらついて倒れそうになる。咄嗟にカインが玉座から立ってセレンの体を抱いて支える。
「セレン、大丈夫? 急に立ち上がるからだよ。ほら座って」
「えぇ、カイン様」
あまり顔色の良くないセレンを見てエリーゼは不思議に思った。セレンは特に体が弱い訳ではない。
エリーゼの隣で黙って見ていたアゼルは、なぜかニヤニヤと笑っている。
「なるほど。結婚を急いだのは、そういう事か」
「え……?」
セレンとカインは元から婚約していたが、まだ結婚式の日程も決まっていないのに結婚したという事後報告のみが伝えられていた。
その事実が示すのは1つしかない。エリーゼは遅れて、ようやく気付いた。
(なによ、セレンとカイン様ってば、結局は熱愛だったのね)
競ってはいないが、先を越されてしまったような敗北感を覚えるのはなぜだろうか。
そんなエリーゼの横に立つアゼルが急に一歩前に出てきた。
「ならば良い機会だ。オレたちと貴様らの合同で結婚式を挙げようではないか」
「え? アゼル!?」
アゼルの唐突な提案にエリーゼは驚きの声しか出ない。確かに結婚式は挙げていなかったが、全く手順を踏んでいない気がする。
それでも国王として国交を深めようとするアゼルの提案は素直に素晴らしいものだと思う。
さらにアゼルは後ろを振り返って話を繋げる。
「そうだ。貴様も一緒に式を挙げるとしよう」
アゼルとエリーゼの背後には、護衛として同行した軍隊長・アーサーが控えている。
アーサーの返事よりも早く、急展開に驚いたエリーゼがアーサーに問いかける。
「え!? アーサーさんとレミアルさんって、もうそこまで!?」
「……はい、婚約してます。しばらく戦も無さそうですし、そろそろ私も身を固めて良い頃かと……」
照れて歯切れが悪いアーサーなんて初めて見た。今までは戦の事しか頭にない戦バカだったのに、今のアーサーの心を占めているのはレミアルだった。
ちなみにロイアルにも恋人ができたらしい。新しく副将軍になった年上の女性で、レミアルに似たしっかり者と聞いて納得した。
そうして強引に三組の合同結婚式の予定を取り付けると、アゼル一行はデヴィール国へと帰って行った。
玉座の間のカインとセレンは、今までの事を笑い話にして今後の事を語り合っている。
「それにしても驚いたよ。アゼル様はエリーゼ様の言いなりなんだね。呪いでも使ったのかな」
「私もそう思って密かに確認してみたんだけど、アゼル様にもお姉様にも呪いは感じなかったわ」
「セレンが言うなら確実だね」
大聖女であるセレンは呪いを感知できる。しかしアゼルにもエリーゼにも呪いはかかっていないと判断した。
……つまり、二人にかかっていた『溺愛の呪い』は、今は解けてしまっている。
あの時、戦場でエリーゼとセレンが放った合わせ技『浄化と治癒』の効力により、アゼルとエリーゼにかけられた溺愛の呪いまで一緒に消え去っていた。
しかし、当の本人たちはそれに気付いていない。真実を知らない二人の『溺愛の呪い』という自己暗示は永遠に終わらない。
結局はエリーゼもアゼルも、誰もかれもがみんな『バカ』なのであった。
エリーゼとアゼルを繋ぐ溺愛の呪いは、真実の愛へと変わっていた。




