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第13話 偽りの聖女は愛されない

 エリーゼがウィリアム国の王城に監禁されてから5日が経過したが、アゼルが迎えに来る気配はない。

 それでもエリーゼは同年代のメイドや従事者たちと仲良くなって、それなりに楽しい日々を送っている。

 昼時の休憩時間、今日もエリーゼは中庭で3人のメイドたちと共に談笑していが、ふと我に返った。


(って、私がカイン様に懐柔されてどうするの!?)


 ここでの生活も悪くないと思い始めたが、溺愛の呪いによって常にエリーゼの心身はアゼルの温もりを求めてしまう。もはや禁断症状だ。

 すっかり打ち解けたメイドの一人が小声でエリーゼに話しかける。


「アゼル様って、どんなお方なのですか? 魔王って呼ばれるくらいですから、やっぱり……」


 城の者たちは、エリーゼはアゼルに虐待されたから逃げてきたと思い込んでいる。これはアゼルの残虐性を問う質問だった。 


「え? あ、そうなのよ、魔王だからすごいのよ、昼も夜も激しくて……」


 エリーゼは質問の意図を勘違いして、アゼルの情熱的な溺愛の激しさを語ってしまう。

 アゼルの残虐性を語っていると勘違いしたメイド3人は、揃って顔を真っ赤……ではなく青ざめて反応に困っている。

 やがて一人のメイドが目を潤ませながらエリーゼの両手を握る。


「エリーゼ様、大変だったのですね……」

「え、えぇ、まぁ……大変ではあるわね」


 エリーゼとしてはアゼルに溺愛されすぎて大変であった。

 そんな噛み合わない会話が続く長閑な中庭に突然、カインが堂々とした足取りで近付いてくる。そしてメイドたちの間に割り込んでエリーゼの手首を掴んだ。


「エリーゼ様、ちょっと来てほしいんだ」


 そう言うカインはいつもの爽やかな口調と笑顔だが、どこか強い圧を感じる。それはカインの手首を掴む力の強さで分かる。

 カインに引っ張られるようにして、そのまま城の裏側へと連れて行かれる。木陰で薄暗い城壁の隅の地面に、地下へと続く階段がある。


「カイン様、ここは……?」


 エリーゼが不安げにカインに問いかけるが、カインは無言でエリーゼを引っ張って階段を下っていく。

 地下は照明が設置されているが昼間でも薄暗い。埃とカビ臭さに顔をしかめながら進むと、やがていくつもの鉄格子が見えてくる。ここまでくればカインに問わなくても分かる。


(ここは地下牢……なんで、こんな場所に私を?)


 空き部屋の牢獄が並んでいる通路を進むと、1部屋だけ扉が開いている。その扉の前には二人の兵が待機していて、エリーゼの姿を見ると両側から強引に腕を拘束した。


「えっ……ちょっと、なにっ!?」


 そのまま牢屋の中へと押し込まれてしまい、エリーゼは冷たい石の床に倒れる。同時に扉が閉められて施錠されてしまう。完全に投獄されてしまった。

 訳も分からないままエリーゼは上半身だけを起こす。鉄格子の外ではカインの冷たい銀の瞳が鈍く光り、エリーゼを見下している。


「知らなかったよ。エリーゼ様は最強の聖女じゃなかったんだね」


 淡々としたカインの口調には感情が見えない。しかしエリーゼは動じない。それは隠す必要もない真実なのだから。


「……そうよ。私には聖女の能力はないの。やっと分かってくれた?」

「うん、分かったよ。フェーリス公爵家に確認したからね」


 実家の名を出された途端に強気だったエリーゼの顔色が変わる。

 自分を虐げてきたあの家族に今の状況を知られてしまった。もう実家に戻る事はなくても、思わぬ繋がりができてしまった事に恐怖と不安を感じる。

 しかし最強の聖女ではないと分かった途端に投獄するとは、カインの恐ろしい本性が次々と見えてくる。


「それなら私はもう不要でしょう。デヴィール国に帰してくれない?」


 エリーゼとしてはアゼルの所に帰りたい。しかしカインは冷たい微笑みを浮かべ続けている。


「帰すわけないでしょ。アゼル様にはエリーゼ様が最強の聖女だと勘違いしたままでいてもらう」


 つまりアゼルが勘違いを続けている以上、彼は他に聖女を探して再婚しようとは考えない。聖女を持たないアゼルは最強の魔王ではない。カインはアゼル以上の戦力を備えて、いずれデヴィール国を侵略しようとしている。


(カイン様の、このアゼルへの敵対意識……やはり前世が干渉してるの……?)


 前世の記憶はないはずのカインだが、潜在意識にはアゼルへの憎しみが残っているとしか思えない。

 だが、愛という意味ではエリーゼに不安はない。アゼルは確かに勘違いをしてはいるが、聖女の能力が欲しい訳ではない。


(甘いわね、カイン様。アゼルはあなたとは違う。私を溺愛しているのよ)


 そこがカインとの決定的な違いで、エリーゼが聖女であるかなんて関係ない。そして悔しいがエリーゼもアゼルを溺愛している。二人の愛を繋げているのは呪いとはいえ、それは聖女の能力に勝る最強の力を生み出す。


「……私を幽閉すればアゼルが黙っていないわよ」

「アゼル様は来ないよ。エリーゼ様は『人質』だと伝えたからね」

「なんですって……!」


 すでにカインはデヴィール国に通達していた。人質の扱いなら、エリーゼを溺愛しているアゼルは手が出せない。


「……私をどうするの?」

「それを決めるのは僕じゃないよ」


 その時、カインの後方に誰かの姿が見えた。暗がりの中で見え辛いが、長い金髪の女性。そのシルエットは先日、城の屋上でカインとキスをしていた女性に似ている。

 女性が前に出てきて鉄格子の隙間から目を合わせる。エリーゼと同じ金髪碧眼、白いドレスの貴族女性……彼女が誰かを認識した時にエリーゼは目を疑う。


「セレン……!?」


 その女性はエリーゼの妹セレン。状況が理解できないままのエリーゼは反射的に一歩後ろへ下がる。カインは、にこやかに隣のセレンの肩を抱いて寄せる。


「紹介するよ。彼女は本物の最強の聖女、セレン。僕の婚約者だよ」


 カインはすでにセレンと婚約していた。それなのにエリーゼとも結婚しようとしていた。

 その事実が意味する意図を予想したエリーゼは、浮気以上に恐ろしいカインの思惑に身を震わせるしかなかった。

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