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第12話 偽りの聖女は役立たず?

 まずは模擬試合で兵士と戦うカインの動きや様子を注意深く見つめる。そこで審判役の兵が片手を上げて試合の終了を告げる。


「勝者、カイン様! 次の対戦者、前へ!」


 カインは試合相手の兵士を次々と倒して勝利を重ねていく。素人のエリーゼが見てもカインの剣さばきは華麗で一流だと分かる。

 銀髪のカインは、まるで銀色の風のように素早く流れるようにして敵を叩き斬る。その強さ自体は決して疑わない。しかし別の部分で何か不自然さを感じる。


(何かがおかしい……カイン様ではなく対戦者たちが)


 兵団に所属する兵士たちも精鋭の手練れであるはず。それなのに剣術の精彩に欠けていて詰めが甘い気がする。


(そうか……みんな、わざとカイン様に負けているのね)


 それは主従関係を思えば当然の配慮であった。しかし、これでは鍛錬の意味がない。

 そして対戦相手が手を抜いている事はカインも分かっている。勝利しても清々しい笑顔はなく、不満そうに口を尖らせている。


「次はレミアル将軍、相手してよ」

「……はい」


 カインに指名されたレミアルは静かに歩み出ると、カインの前方に立って木刀を構える。仮面を装備していない素顔のレミアルは凛として立ち姿も美しい。

 試合を始める前にカインはレミアルに強く忠告する。


「遠慮はしないで、本気で来てね。これは命令だよ」

「はい、分かりました」


 剣術の手練れの王子と、軍を統べる将軍。エリーゼにはこの対戦の勝敗が全く予想できない。

 そして試合開始の合図と共に木刀を構える二人は同時に動き出す。

 疾風のように素早く相手に迫ったかと思えば、強く打ち込んだレミアルの刀をカインが斜めに構えた刀で受け止める。レミアルの力はカインの片足の靴が地面の土の上を滑るほどに強い。エリーゼには剣の動きが見えなかった。


(レミアルさんは手加減していない……本当に強い!)


 本気で戦ったらカインよりも強いのかもしれない。レミアルの力で押されて鍔迫り合いとなったカインは、歯を食いしばっていて劣勢に見える。

 そんな時、ふとカインが対戦を見守るエリーゼの方に顔を向けた。


「エリーゼ様、来て!! 僕に『強化』を!!」

「……え?」


 唐突に呼ばれたエリーゼは気の抜けた声だけを出して戸惑う。

 カインは、わざと劣勢になってエリーゼの聖女の能力を試そうとしている。強化の能力は抱きつく事で発動するが、エリーゼには聖女の能力がない。それをカインに分からせるために、エリーゼはあえてカインの側へと歩み寄る。

 レミアルの刀を受け止めて両手が塞がっているカインの腰に手を回して抱きつくが、当然ながら何も起こらない。


「エリーゼ様、どうしたの!? 早く強化の能力を使って!」

「カイン様、ごめんなさい。能力は使えないの」


 エリーゼがカインの顔を見上げると、劣勢とは別の意味で口元を歪めている。彼の色を宿さない銀色の瞳は凍てつくように冷たい。

 エリーゼが危機を感じるよりも先にレミアルがそれに気付いた。

 優勢だったレミアルはカインの木刀の力に急激に押されて、体ごと後方に弾き飛ばされた。地面に尻餅をついたレミアルは、片手で額の汗を拭いながら前方のカインを弱々しく見上げる。


「さすがですね、カイン様。私の負けです」


 すかさず審判役が前に出てきて片手を上げる。その顔はどこかバツが悪そうで堂々とはしていない。


「勝者、カイン様!!」


 エリーゼはカインに抱きついたままで呆然とレミアルの姿を見ている。

 聖女の能力なんて発動していない。おそらくレミアルは能力が発動したかのように演技して、わざと負けた。

 しかし勝者のカインは喜ぶどころか顔を歪めて明らかに怒気を滲ませる。レミアルの演技など見抜いてはいるが、その矛先はエリーゼに向けられた。

 抱きついていたエリーゼを突き飛ばす勢いで強引に引き離す。エリーゼはバランスを崩して倒れそうになるが、カインは手を差しのべない。


「なぜ能力を使わなかったんだよ!」

「使わないんじゃない、使えないのよ……!」

「これが戦場なら僕は死んでるぞ。自分から結婚を求めてきたくせに僕を愛してないのか!?」


 カインはエリーゼの話を聞かない上に、わざと能力を使わなかったと勘違いしている。レミアルは、密かな協力関係にあるエリーゼのためを思って演技をしたが裏目に出た。

 このカインの激情から察するにエリーゼの能力の有無は関係ない。何事も思い通りにならなければ気が済まないだけだった。


(カイン様を愛せるはずない。私はカイン様の浮気相手になりたくない。それに私はアゼルを……)


 エリーゼが口を噤んでいると、落ち着きを取り戻したカインが手を伸ばして正面から優しく抱きしめてきた。


「あぁ、ごめんね、エリーゼ様。愛してるよ。少しずつでも僕を愛してくれたら嬉しいな」


 もう、そんな優しい抱擁にも甘い言葉にも騙されない。エリーゼは必ずカインの偽りの溺愛から逃れると心に誓った。

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