8.装備1
「ここは?」
第5地区にある、大きな通りに面した商店を見上げる。
「私の行きつけの店よ。必要なものはほとんど買えるわ」
店名は、
「マラザス商会本店……っえー!」
今さっき話していた件の商会の名前と同じだ。
「言ったでしょう? ルミーノ王国では大きな商会だって。この王都内でも、大小合わせて十数店舗あるわよ」
いつでもどこでもあなたの隣にマラザス商会、これがこの商会のモットーだという。
朝早くから夜遅くまで営業しており、ゆくゆくは一日中営業するのではと噂されている。
「もしかして、ここで会長さんと会ったりしてね」
カヨがのほほんとそんなことを言うから、セイカは慌てて彼女の口を塞いだ。
「カヨ、だめよ。特に本店で会長なんて言ったら、どこからともなく現れるんだから」
「アタシが何だって?」
二人同時に固まった。
恐る恐る振り返ると一人の茶髪の女性が立っていた。
「か、会長。久しぶりね」
セイカが引きつった笑みを浮かべながら挨拶する。
「何言ってんだい。お前さん先週も来ただろう。ところで、隣のお嬢さんは誰なんだい?」
会長がカヨを値踏みするように見ながら聞く。しかし、その視線に嫌な感じはしない。
「私のパーティメンバーのカヨよ」
その言葉に会長は驚いたような表情になった。
「今までソロだったあの閃華がパーティを組んだだって? これはおもしろいことになったじゃないか」
体を揺らしながら大きく笑い出した。
「閃華?」
「おや、お嬢さんは知らないのかい? この生意気なガキの異名だよ」
カヨは隣のセイカを見上げた。苦い表情をしている。
「そんなことはいいのよ。今日はカヨの装備を買いに来たのよ」
「確かに、そんなぺらぺらな装備じゃ何もできないからね。生地は良さそうだが……これはセイカの服じゃないか」
カヨの装備。それは白いワンピース1枚だけだった。
「確かに、これわたしのじゃないような気がしていたんだよね。セイカのだったんだ」
「ごめんなさいね、貴女が着ていた服は汚れていたから勝手に着替えさせてもらったわ。今は洗濯してもらっているから」
「ううん、ありがとう!」
「さてと、カヨはどんな装備が欲しいんだい?」
2人の会話を邪魔しないように黙っていた会長が、話を再開させた。
「とりあえず、日常用と戦闘用一式は欲しいわね」
「なら、好みもあるだろうから、しっかりと見て決めな」
商会の中に入るように促される。会長自ら案内してくれるようだ。
「ここが日常用の服だよ」
「カヨ、好きな服を選んでいいわよ」
そう言われて近くのをいくつか見ていたが、すぐにセイカの方を振り返った。
「値段がすごく高いよ……?」
少し青ざめながら言うカヨに、優しく微笑んだ、
「気にしなくていいわよ。貴女さっき言っていたじゃない、私はお金持ちって」
「そうじゃなくて……」
聞きたかったこととは違う返答だったが、一着当たり銀貨5枚から8枚ほどする服は、日常用と言っていいのだろうか。
「これは冒険者になったカヨへのプレゼントよ。さあ、受け取りなさい!」
なおも何か言いたげな表情をしていたカヨだったが、セイカの言葉で受け入れざるを得なくなった。
「遠慮なんてしたら、私が勝手に買うからね」
「……え、選びます。しっかりと」
そして、悩みながらも10着ほど選んだ。
柔らかい生地でできたワンピースが2着。ひとつは淡い水色で、随所にフリルがあしらわれていて、動くたびにふわりと揺れる。
もうひとつは、アイボリーのキャミソールワンピース。カヨが現在着ているものにデザインが似ている。
「このワンピース、かわいい……」
「あら、可愛いわね。貴女に似合いそうだわ」
そんな会話をしながらも、カヨは次の服に手を伸ばした。
ひざ丈のふわりと広がるスカートを3着、セイカのアドバイスを受けてズボンを2本。
トップスはリボンやレースが使われたものや無地のものなど3着。
「やっぱり、カヨは良いセンスをしているわね。これに着替える?」
「うん、着たい!」
カヨは水色のワンピースを持って、近くの試着室へと入っていった。
セイカが持っているフリルのついた服を見て、会長がおもむろに口を開いた。
「セイカもフリルのついた服を着たらいいんじゃないか。カヨが着ているワンピースだって数年前に買ったものだろう?」
「それは私が選んだものじゃないわ」
彼女が現在着ているシンプルなパンツスタイルからは想像ができない。
「ま、そういうことにしておこうか」
そんなことを2人で話している内にカヨが出てきた。
「どうかな?」
「可愛いじゃない。とても似合っているわよ」
生地は淡い水色で、薄布でドレープされている。襟や袖、裾にはフリルが付いていて、カヨの可憐さを際立たせている。
また、背中には柔らかなレースでできた大きなリボンが付いていて、それが動くたびにふわりと揺れている。
カヨの銀髪と碧い瞳を引き立てる、見事な一品だ。
「ありがとう」
カヨははにかみながら、嬉しそうに言う。
「それじゃあ、次は戦闘用の装備よ」
「カヨは職業は決まっているのか」
会長の言葉にカヨは不思議そうな顔になった。
「職業……?」
「いいえ、決まっていないわ」
それを見たセイカが助け舟を出した。
「なら、後々決められるような装備がいいな。ついておいで」
そして案内されたのは店の一角。全身鎧や重さのある武器などが置かれた、重厚感漂う場所だ。




