2.ローブ
「杖、楽しみだね!」
「ええ、そうね。きっとカヨに似合うすばらしい杖ができるわ」
ヘストスの工房を出てから、カヨはずっとにこにことしている。周りまで明るくなるような、そんな笑顔だ。
「まずは宿を取って、町を見て回りましょう」
「うん!」
工房が密集したここから少し離れた、町の中心にある広場の近くに向かう。
「そうだったわ。ここには宿が1つしかないのだわ」
ギヴィスは、そもそもとして町の規模は大きくない。さらに加えて、ここに来た者は長期滞在することがない。
だから、結果としてこの大きな宿1つで事足りるのだ。
「でも、きれいそうだよ?」
「前に来たときはもっと古かったから、修繕したのね」
宿の中に入ると、受け付けに1人の少年がいる。
「2人で1泊、お願いするわ」
「銀貨2枚。飯はない」
セイカが銀貨を2枚出すと、鍵を渡された。そして、早く行けというように階段を指差した。
「ありがとう」
部屋に入り荷物を置くと、再び外に出た。
「とりあえず、いろいろ見てみましょう。ここなら、ローブも売っているわよ」
「本当!?」
杖と同じくローブもまだ用意していない。
後衛となる魔法士は重い鎧などは着けない。そのため、軽防具に加えローブを着用することで、防御力を強化する。
そしてローブも職人に頼んだほうが、より本人に合ったものをあつらえてくれるのだ。何より、デザインも特注できる。
「どんなのがあるかなー? セイカもここで買ったんだったよね?」
「ええ、そうよ」
今にも飛び跳ねそうなほど、嬉しそうだ。そんなカヨをセイカは優しく見つめる。
そのまましばらく歩いていると、店先にいくつかの服を吊るしている商店に着いた。
「ここね」
「いらっしゃいませ。何をお探しですか」
セイカがそっと、カヨの背中を押した。
「ロ、ローブを注文したいです!」
「奥へどうぞ」
彼女についていく。店内には色とりどりのローブが置かれている。
「どのような機能性、デザインにいたしますか」
ふと、店員の女性がセイカの服装を見た。
「そちらのあなたのコートは、当店でご購入されたものではないですか」
「ええ。数年前だけれど、ここで買ったものよ」
カヨもセイカのコートをじっと見つめた。
「同じデザインにされますか」
「えっ? えっと……」
「私は貴女と同じデザイン、良いと思うわよ」
隣のセイカを見ながら迷うそぶりを見せていたカヨは、真っすぐに前を見た。
「同じデザインのローブお願いします!」
その後細かいデザインなどを決めること、2時間。
「では、こちらで制作いたしますね。完成は明日の朝以降となりますが、いつ受け取りに来られますか」
「明日の昼頃に受け取りするわ」
「承知しました。また明日お待ちしています」
彼女に見送られ、店を出た。
すでに陽は傾き、辺りは薄暗い。
「杖もローブも明日かあ。楽しみ!」
「今日はもうご飯を食べて、宿に戻りましょう」
カヨに釣られて、セイカもわくわくと心が躍る。
どこからか、香ばしい匂いが漂ってきた。
「いい匂い……。どこからだろう?」
辺りを見回す。
「あの店ね」
多くの人が集まり、食事をしている。鉄板で肉を焼いているようだ。
「セイカ、あの店にしない?」
カヨの目は鉄板の肉に釘付けだ。
「いらっしゃいませ! 2人ですか」
「ええ」
「あちらのお席へどうぞー! 当店、メニューは1つだけとなっていますので、しばらくお待ちくださーい!」
席に座ると、すぐに生肉が出てきた。
「こちらの鉄板でよく焼いてお召し上がりください。今、火を付けますね」
タレのよく絡んだ赤身肉だ。
熱々の鉄板に乗せると、ジュウと音を立てながら、焼けていく。
「もういいかな?」
「まだよ」
カヨが肉を取ろうとすると、セイカがすかさず止めた。
「いい、お肉はちゃんと焼かないとだめよ。生焼けだと明日お腹が痛くなるわよ」
いつか経験したようだ。
焼けていない面を下にして、しっかりと焼く。
「いただきます!」
かぶりつくと、肉のうまさと濃いタレが口いっぱいに広がる。
「おいしい!」
「思ったより、悪くないわね」
筋もよく処理されていて、噛み切りやすい。
「なあ、嬢さんたちよ。1つ賭けをしねえか」
近くの席にいる集団の1人が話しかけてきた。
「賭け?」
「ああ、そうだ。腕相撲をして、負けたほうが奢るんだ」
「おいおいお前何言ってんだ? さすがにかわいそうだろ?」
目の前の大柄な男と少女。どちらが勝つか、一目瞭然だ。
「いいわよ。でも私が勝ったら、この子と2人分奢ってちょうだい。負けたら、貴方たち全員分奢るわ」
「強気に出たな。いいぜ、それでいこう」
まさかのセイカの申し出に、場は熱くなった。
「それじゃあ、よーい始めっ!」
「うぐっ」
合図の直後、手が机に叩きつけられた。
「えっ、もう終わったの? セイカすごい!」
「なんて力だ……」
負けた男は呆然としているが、周囲の人々は大爆笑だ。
「約束通りちゃんと奢ってよ、2人分」
「嬢さんいや、姉御らの好きなものを食うといい」
男は周りの数人の肩をがしりとつかんだ。
「お前ら全員、財布出せー!」
その後、店員に閉店だと追い出されるまで、大騒ぎは続いた。
宿に戻るとすぐに着替え、ベッドに入った。
「おやすみ、セイカ」
「おやすみ、カヨ」




