1.杖
「ラントルが小さくなっていくと、なんか寂しいね」
「またいつでも来られるわよ」
カヨは、だんだんと小さくなっていくルミーノ王国の王都ラントルを馬車から見送る。
「鍛冶の街に行って、杖を作るんだよね?」
「そうよ、魔法士にとっては重要なものになるわよ」
「杖を使うと魔法が安定するんだったよね?」
杖は、魔法の転句と結句に大きく影響を与える。
転句では魔法式の展開を安定化させ、結句ではより指向性を付けやすくなる。
「ええ。特に無詠唱だとよりその効果をはっきするのよ」
「そうなの?」
カヨは今の杖なしでも、かなり魔法を扱えるようになった。それでも、杖を使うと式を安定させるのに使っていた時間の分、発動が短くなる。
「そういえば、杖ってマラザス商会とかじゃ扱っていないの?」
服や防具、小物類など旅に必要なものは、ほとんどマラザス商会で購入した。
「杖は使用者との親和性が大事なのよ。だから、職人に頼んだほうが良いのよ」
「だから、店に杖が少なかったんだ」
「そうだ、カヨ。どんな形状がいいか考えていたほうが良いわよ」
セイカのその言葉にカヨは、顔をぱあと明るくさせる。
「自分で考えられるの!? どうしようかなー?」
カヨはわくわくといくつか案を描き出していく。
❀❀❀
それから、休憩を挟みながら半日ほど経ち、馬車が停まった。
「着いたようね」
巨大な山脈のふもとに広がる鍛冶の街、ギヴィス独立都市。ラントルとは違う活気で栄えている。
「すごい……!」
「それじゃあ、行きましょうか」
セイカの案内で、彼女の知り合いの鍛冶師の工房へ向かった。
「ヘストス、いるかしら?」
セイカが工房の中へ呼びかけると、奥からずんぐりとした男性が出てきた。
「ガキが来たと思ったら、ガキじゃねえか」
「失礼ね、レディと言ってちょうだい」
「それで、今日は何の用だ?」
セイカは後ろに隠れているカヨを前に押し出した。
「私とパーティを組んでいるカヨよ。この子の杖を作って欲しいのよ」
ヘストスはカヨを眺める。
「お前、かなり強いだろ」
「え、えっと。セイカに教えてもらったので!」
素直なカヨに、セイカは思わず彼女の頭を撫でた。
師匠を褒める、いい子だ。
「まあいい。それより、杖の形は決まっているのか」
「こんな形にできますか」
ポーチから、移動中に描いた紙を取り出し、ヘストスに渡した。
「ちょっと待ってろ」
そう言って、奥へ入っていった。
「セイカ、あの人が鍛冶師さん?」
「ええ、ドワーフの鍛冶師ヘストスよ。私の剣もここで作ってもらったのよ」
「お前は、面倒な注文をしてきたがな」
ヘストスがいくつかの材料を持って、奥から戻ってきた。
「カヨと言ったか、杖の本体を選べ」
木材、金属、動物の骨、植物。あとは、よくわからない棒状のもの。
だけど、選べと言われても何がいいのかわかるわけもない。
「どんなのがいい、とかはあるのですか」
「本体は好きに選んでいい。材質、重さ、色など完全に好みだ」
いつくか手に取ってみる。
白い木材は、手に吸い付くような感じする。金属は少し重い。
「これは?」
何なのかよくわからないものだ。やわらかいが、硬さもあるという不思議な物体。
「それは植物のつるだ」
「カヨ、それはおおすめしないわ。だって、使用者の魔力を奪うものなのよ」
「えっ!?」
カヨはあわてて、手を引っ込めた。
「全く。ヘストス、どうしてこれまで持ってきたのかしら? これで作った杖なんて、私でも扱えないわよ」
「いつ、こいつの適任者が現れるかわからねえからな」
その間にもカヨは、ほかのものも確かめていく。
「これが1番しっくりくる。これにします」
美しい象牙色の木材だ。握ると手にしっとりとなじみ、重さも程よい。
「本体はこれだな。次は魔法石だ」
「魔法石?」
「なんだ、知らねえのか。セイカ、説明してやれ」
「貴方が説明すればいいじゃない」
しかし、ヘストスは面倒だというようにずんずんと歩いていく。
「カヨ、魔法石というのは、杖で最も重要なものよ。魔法石のおかげで、式が安定するのよ」
カヨはどんなにすごい石なのかと、楽しみに聞いている。
「ここが、石の保管庫だ」
ヘストスがドアを開いた。
「すごい……!」
ランプに照らされて輝く、色とりどりの石が並べられている。
「いいか、魔法石は親和性が重要だ。よく見て、よく感じて選べ」
「は、はいっ!」
1つずつ、丁寧に見ていく。
紅い、炎のように燃えているような石。
冷たく氷のように、凍てついている石。
全てを呑み込みそうな、漆黒の石。
光を一点に集めたような、純白の石。
「この石……」
色は澄んだ青空の碧。満天の星空を閉じ込めたようにきらきらとしている。
「綺麗な石ね。貴女によく似合っているわ」
「ヘストスさん、これにします」
「本体はこれで、石はこれ。完成図はこれでいいんだな?」
象牙色の木材と碧星の石、さっき渡した紙を持って、カヨに確認した。
「はい、お願いします!」
「すぐにはできねえから、また明日来い」
お待たせしました、新編開幕です!
ギヴィス独立都市編は、毎週日曜日20時半に更新します
毎週を予定していますが、できない場合もあります




