17.誘拐
「兄貴、こいつ起きないっすよ」
男の1人が靴の先で少女をつついた。
「強めの薬で眠らせたからな。しばらくは起きないだろう。これでしっかりと縛っておけ」
もう1人の大柄な男が縄を投げ渡した。
「了解っす」
そのとき、大きな足音が響いた。こちらへ向かってくる。
バン! とドアが開き、さらに大きな男が入ってきた。その後ろには、被り物をした人物もいる。
「おい、あの女は連れてきたか」
男は辺りを見渡す。
「どこにいる? 銀髪の女だ、目立つだろうが!」
「ここにいるだろうが」
指差された先を見た男は怒りに顔を染めた。
「こいつじゃねぇ! 閃華だ。オレを侮辱したあの女だ!」
「それを言うならボスに言ってくれ。俺らは銀髪の女とだけしか言われてねえんだ」
男たちの後ろから、笑い声が聞こえてきた。
「面白い。面白い。非常に面白い。まさか銀髪の女が2人もいるなど、考えもしませんでした。これは私どもの落ち度ですね。これは謝罪しましょう、オルセイン」
男たちの内の1人は、冒険者ギルド前でセイカに一蹴されたオルセインだった。
「おいおい、ボス。こんな奴に謝罪なんて必要ねえよ。それよりどうするんだ、こいつ」
「そうですね。オルセイン、この女は必要ですか」
「いるわけねぇだろ! 早く閃華を連れてこい! 無様に泣いて謝るまで痛めつけてやる」
下卑た笑みを浮かべるオルセインをボスと呼ばれた人物は冷めた目で見ている。
「では、この女はこちらでいただきますね。あなた達2人は閃華をお願いします」
❀❀❀
「一体どこに行ったの、カヨ……」
あれから、ほかの店にも目撃していないか聞きに行った。衛兵にも連絡した。
カヨのことを多くの人が見たと言っていたが、肝心の場面は誰も見ていないという。どの店も客が増える時間だった。
「セイカ、一度休むといい。ずっと走りっぱなしだろう?」
「私が休憩するだなんて……。今カヨは心細いでしょうに」
「だが、カヨを助けた後にお前さんが倒れたら、それこそカヨは悲しむんじゃないか」
そう言われてしまっては、強く拒否することはできない。
「ええ、そうね。少し休むわ」
それから、しばらく経った。
陽はすでに傾き始めている。
「セイカ、起きろ」
ヘルメアの声にすぐに目を覚ました。
「何かわかったの!?」
「カヨを誘拐した男たちの目撃情報だ。衛兵も来ている」
「すぐに向かうわよ」
応接室に着くと数人の衛兵と、目撃者であろう2人の婦人がいた。
「貴方たちは……」
昼間、カヨの呼び込みに応えてくれた婦人たちだった。
「集まりましたか。では、お願いします」
衛兵の言葉に婦人たちは話し始めた。
2人はあの後も辺りを歩いていた。
そして、彼女らも2人組の男たちがカヨに話しかけたところを見ていた。急にカヨが倒れ、男たちが担いだ。そのときは、体調が悪くなって医者に診せに行ったのだと思っていた。様子がおかしいと思ったのは、男たちがカヨに被せ物をしたときだった。
カヨを誘拐した男たちはそのまま、市民区へ去っていった。もちろん、すぐに衛兵にも連絡をした。だが、情報が不確かということで衛兵が動くことはなかった。
「私たちが見たのは、ここまでよ」
「貴重な情報ありがとうございます。情報提供があったにも関わらず、信じずに出動せず、大変申し訳ないことをしました」
衛兵は婦人たちとヘルメア、セイカに向かって感謝と謝罪の言葉を口にし、頭を下げた。
「それで、その男たちの足取りは掴めたのかしら?」
「現在、捜索網を広げ徹底的に捜しています。彼女が誘拐される理由に心当たりはありますか」
「それは、私が聞きたいぐらいよ」
部屋の中に沈黙が下りた。
「緊急緊急! 誘拐犯がいると思われる場所を発見しました」
新たな衛兵が入ってきた。
「本当かしら!? どこなの!?」
「セイカ、落ち着け」
「落ち着いているわ。場所を教えて」
セイカは掴んでいた衛兵の服を離し、再び問いかけた。
「当該場所は、第4区と歓楽区の境にある、廃倉庫です」




