14.依頼1
「カヨ、緊張しているの?」
マラザス商会への道中、カヨは緊張と不安が混じり合ったような表情をしていた。
「ちょっとだけね。でも、初依頼楽しみだよ」
「なら良かったわ。何かあったら些細なことでもいつでも言ってね」
その言葉に少し迷うような素振りを見せた。
「とうかしたの?」
「あのね、夢を見たの」
「そうなの、どんな?」
「あんまり覚えてないんだけど、何が燃えていたような気がするの」
カヨはさらに不安そうにするが、セイカは努めて明るく言った。
「大丈夫よ。きっと新しい環境になったから、不安が夢に現れたのよ」
「そうだね」
カヨは気持ちを切り替え、明るく前を向いてまた一歩踏み出した。
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商会の前に着くと、すでに会長が待っていた。
「よく来てくれたね。待っていたよ、カヨ、セイカ」
「今日は、よろしくお願いしますっ!」
まだ幾分か緊張はしているようだが、元気よくカヨは挨拶をした。
「いい挨拶だ。中で具体的な説明をしようじゃないか」
店内は商品が丁寧に陳列されており静かだ
会長に連れられ、店の奥にある応接室に入った。
「さて、カヨ。今回は我がマラザス商会の依頼を受けてくれて感謝しているよ。改めて挨拶をしよう。アタシはマラザス商会の会長、ヘルメア・マラザス。今後ともよろしく頼むよ」
「カヨです。よろしくお願いします」
カヨの言葉にセイカは小さく耳打ちした。
「こういう時は、冒険者ランクなどの所属と名前を言って、こちらそこよろしく頼む、でいいのよ」
こくり、と小さく頷く。
「今回受けてもらう依頼は、昨日も言ったが、この新店舗の接客だ。完璧さなんてものは求めてやいやしないから、そこは安心するといい」
「客寄せってわけね」
ヘルメアのあからさまな下心に、セイカは呆れたようにため息をついた。
「人聞きの悪いことを言うな。使えるものは使うのが商人ってもんだよ」
豪快に笑うが、否定はしない。
「具体的には何をしたらいいのですか」
「まずは、店頭での呼び込みだ。素通りされようが、宣伝をし続けるんだよ。ここに商会ができたってことをしっかりと伝えるんだ」
「そんなことをしなくても客は来るし、宣伝も既にしっかりとできているでしょうに」
どこまでも商人気質な彼女にセイカは呆れるしかない。
「ほらほら、もうすぐ開店するよ。カヨは制服を用意しているから、それに着替えてくれ」
「マラザス商会の新店舗が開店しました。どうですか……」
それから数十分後、商会の店頭でカヨの消え入るような呼び込みの声があった。
「あ、あの……マラザス商会です。どうですか……」
前を通りかかった1人に声を掛けるが、見向きもされず過ぎていった。
「あの……あの……」
もう声を掛けることすら、ままならなくなっている。
客が全く来ないというわけではない。
さすがマラザス商会と言うべきか、客足は途絶えていない。しかし、カヨの声を聞いている者はいない。
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「全く、気にするなと言ったんだがな」
「だからカヨには荷が重いと言ったのよ」
店の奥からカヨを見守る、セイカとヘルメアの2人だ。
「失敗が人を経験させるんだよ」
「一体何を名言かのように言っているの?」
「だが、その通りだろ?」
セイカがヘルメアの方を向いた。さっきまでの軽口と反対に、真剣な表情である。
「会長、私を雇って」
「理由を聞こうか」
ヘルメアも会長としての顔つきになった。
「カヨ1人では、この依頼は難しいわ。私があの子の助けに入る」
「それでカヨは成長するのかい?」
「それ以前の問題よ。人には向き不向きがあるわ。カヨはもっと向いている仕事で成長できるわ」
セイカとヘルメアの2人は無言で見つめ合い、自らの意見を相手にぶつける。
「妥協案がある」
「聞くわ」
ヘルメアはもう一度カヨを見た。
一生懸命に、道行く人に声を掛けている。
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「銀髪の女?」
「ええ、そうです。今、マラザス商会の依頼を受けているらしいので、彼女を私の前まで連れて来てください」
「これでオレを侮辱したあの女を……!」
三者の笑い声がその場に響いた。




