11.宿屋
宿屋に帰ると、多くの人で賑わっていた。
「あ、セイカさん。今満席でして、大浴場も準備中なんです」
「じゃあ、ティナ悪いけれど、空いたら呼びに来てくれるかしら?」
「わかりました」
「カヨ。部屋に行って、荷物の整理よ」
奥の階段で2階に上った。
「ここが私たちの部屋よ」
そう言ってセイカが扉を開けた。
「広いね!」
初めて見る景色にカヨは大はしゃぎだ。そのまま部屋の中へ駆けて入った。
ベッドが2つ、しわ一つなくきれいに整えられている。
他にも、風呂とトイレ、簡易キッチンなどがある。
「セイカ、セイカ! この部屋すごいよ!」
セイカが荷物を置いている間に、部屋を見て回っていたカヨが、これまた大はしゃぎな様子でセイカに伝えた。
もうすでに知っていることにセイカは、淡く笑うしかない。
「そうね」
「ねえ、ねえ、セイカ。さっきティナさんが大浴場って言っていたけど、それってわたしも入れるの?」
「ええ、もちろん入れるわよ。でも、準備中って言っていたからもう少し時間がかかるかもね」
「本当に!? 入っていい?」
「いいわよ。大浴場は開いている間はいつでも入れるわ。部屋の風呂ならいつでもいいわよ」
大浴場も開いている時間は長く、ほぼいつでも入れる状態だ。
「カヨは大浴場に入る?」
「入りたい!」
「私は先にここの風呂に入るから、1人でいい?」
「いけるよ、場所は教えてね」
セイカは着替えなどを持って風呂へと入っていった。
「あ、カヨ。壁側のベッドを私が使っているから、貴女は窓側でもいいかしら?」
「うん、いいよ」
セイカが風呂場に入ってしまうと、カヨは急に手持ち無沙汰になった。
カヨはベッドを見た。しわもなく、ふわふわとしている。
「あっ……!」
腰掛けると、ほどよい弾力で押し返される。
緊張と不安で疲れていた彼女を、どこか暖かな匂いが包み込んだ。
まばたきが次第に緩やかになっていく。
❀❀❀
「――ヨ。カヨ!」
セイカが風呂から上がると、ベッドでカヨが寝ていた。
気持ちよさそうな様子に起こすのがためらわれたが、先ほどティナが席が開いたと呼びに来た。
客は多いため2人分とはいえ、長時間席を確保することはできないだろう。
「……んぅ」
「カヨ、起きて!」
「あとちょっと……」
「大浴場、入らないの?」
「……はいる」
「なら、起きなさい」
もぞもぞとカヨが起きた。
「でも、先にご飯よ」
一階に降りると、すでに食事の準備がされていた。
「本日の夕食は、牛ステーキ定食でーす!」
カヨはその料理に目をきらきらとさせるが、まだどこか眠そうだ。
「早く食べてお風呂に入って、寝ましょう」
セイカの言葉にうなずき、食べ始めた。
昼食のときとはまた違うスパイスが効いている。
そして、また一瞬で食べてしまった。
「それじゃあ、大浴場に案内するわ」
一度部屋に戻り、着替えを取ると3階に行った。
「ここが大浴場よ」
「広い!」
眠気も吹き飛んだような歓声を上げた。
「中も広くて、驚くわよ? ゆっくり入って疲れを癒やすといいわ。帰りはわかる?」
「うん! 帰りは階段を登ってすぐだよね?」
「ええ、そうよ。私は先に戻っているわね」
今の時間帯はあまり人がいない。ゆっくりとすることができるだろう。
階段を降り部屋に戻ると、セイカは荷物の整理を始めた。
それからしばらくすると、ガチャリと部屋のドアが開いた。
その音のほうを見ると、少し頬が上気したカヨがいた。
「ちょっと、浸かりすぎちゃった」
セイカは水差しから水をよそうと、コップに入れたそれをカヨに渡した。
「これでも飲んで落ち着くといいわよ」
「ありがとう」
水を飲んでいるカヨを椅子に座らせ、セイカはまだ濡れている彼女の銀髪を乾いたタオルで拭き始める。
「貴女の髪、綺麗ね」
「そうかな?」
少し照れながらも、褒められたことを嬉しそうにしている。
「そうよ。だから、大事にしないとだめよ」
よく水気を拭き取った髪に香油を付ける。
ふわり、と柔らかな香りが辺りに満ちた。
「いい匂い……」
「リラックス効果もあるのよ」
カヨが小さなあくびをもらした。
「今日は疲れたでしょうから、早く寝ましょう。明日は早いわよ」
ベッドに入り、電気を消した。
「おやすみ、カヨ」
「おやすみ、セイカ」




