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第198話 影が世界を覆う日

 巨大さが必ずしも強さに繋がるとは限らない。

 無論、生物学的な話をするのであれば、基本的には巨大な方が強い。

 可愛らしい小動物が人間を襲わないのは、単純に自分よりも大きくて強いからだ。人間がその小動物よりも小さければ、あるいは逆であれば、その小動物は獰猛な怪物として扱われることだろう。

 だが、魔法が絡む話になるのならば、巨大さが必ずしも強さと繋がるわけでは無い。

 どれだけ巨大でも、内包する魔力が薄ければ、自分の足元ほどの大きさの魔物に殺されることだってある。

 更には、ただ巨大なだけでは、知恵を持つ生物には敵わない。

 あらゆる手段によって、巨大なだけの生物は、知恵を持つ生物の食料として狩られてしまうだろう。


 そして何より、超越者同士の戦いに於いて、巨大さなどはもはや無意味だ。

 どれだけ巨大であったとしても、超越者の中には世界を破壊することが可能な力を持った者たちが居るのだ。

 そういう者たちを相手にするのならば、巨大さなどは単なる被弾面積を広くするだけの欠点でしかない。

 むしろ、小さくて強い怪物の方がよほど、超越者同士の戦いでは有利にことを運べるだろう。


 ――――しかし、だ。それはあくまでも『戦う者たち』の理屈である。


 大多数の戦う力の無い者たちにとっては、巨大さとは一種の『暴威』だ。


「…………う、あ、ああああああ!!?」


 君臨した世界竜アクパーラ――ギンカの姿に、王国の多くの民は正気を消し飛ばされた。

 だが、それも無理のないことだ。

 空の果てまで続くような長大な肉体は、規格外の怪物であるという証明。

 その上、その肉体から降り注ぐ銀光は、人々の精神を容易く捻じ曲げるほどの力を持っているのだ。

 意図的ではない。

 今のギンカは、そこに居るだけで、常人の精神を破壊する怪物と成り果てたのだ。


「あ、ああっ! もう終わりだ!」

「やだぁ! 死にたくない! 死にたくない!」

「ひ、ひひひっ! 世界が潰される……銀、銀色に!」


 ギンカの威光に、人々は正気を手放す。

 そうしなければ、精神が絶えられないが故に。

 次々と、戦う力の無い者から発狂して行って。


「想定した通り、銀の悪竜との戦闘になった! 各員、可能な限り民への被害を抑えろ!」

「「「了解!!!」」」


 けれども、即座に王国の空が真っ黒な暗幕によって閉ざされる。

 アルスが発動させた大規模魔術により、視界を遮る簡易結界が敷かれる。

 これにより、王国に住まう者たちの精神はギリギリのところで崩壊を免れた。


「頼むぞ、トーマ……お前が勝たなければ、何もかもが終わりだ」


 ギンカの顕現によりパニックに陥った王都の中、アルスは僅かな間だけ動きを止めて空を睨む。結界の向こう側に存在する、災厄の如き怪物を睨む。

 力が足りず、託すだけしかできなくとも、せめて友の勝利を願って。



●●●



 ドラゴンブレス。

 竜が用いる基本技にして奥義。

 己の口内から魔力を打ち出し、相手を屠る技術。

 この時、撃ち出す魔力は己が最も扱いやすい属性の魔力である場合が多い。

 【原初の青】ならば水。

 【原初の黒】ならば嵐。

 そして、竜状態となったギンカの場合は、『銀』である。


『ガァッ!!』


 吠えるような声と共に放たれるギンカのドラゴンブレスは、銀光の奔流。

 人間形態の時よりも遥かに図太く、まるで国家を横断する大河の如く、トーマを飲み込まんと放たれる。


「しゃらくせぇ!」


 当然、トーマの対応は迎撃。

 ギンカの戦いに於いて、回避など考えるだけ無駄だ。

 何故ならば、トーマが回避してしまえば、流れ弾で軽々と大陸が滅ぶのだから。

 従って、トーマが取れる戦闘方法は一つ。

 ギンカの攻撃を全て迎撃し、その上でギンカの巨体を殴り砕くこと。


「おらぁああああああっ!」


 気合の声と共に渾身の拳を振るったトーマは、見事にギンカのドラゴンブレスを弾き飛ばす。

 その余波で、大気が鳴動し、近くの地面が揺れてしまったが誤差だ。

 本来ならば、惑星を砕くような一撃を打ち消したのだ、この程度の余波で済んだことが御の字である。


「……ちっ」


 しかし、トーマの表情は明るくない。

 苛立ちが込められたその視線の先にあるのは、先ほど振るった右手。

 ――――銀色が浸食し、手の半分ほどが動かなくなった被弾箇所だ。


『当然、対策をするわ。そのためにじっくり仕込んだ世界を一つ消費したんだもの』


 ギンカは銀光を口内に収束させながら語る。


『私の光は全て、貴方に対する特攻となる。受ければ浸食し、やがて心身を破壊するわ』


 いわゆるオーダーメイド。

 世界一つというリソースを支払い、ギンカはトーマに対する特攻の属性を作り上げたのだ。

 触れれば浸食し、破壊する銀の光という属性を。


『避けてもいい。でも、貴方がようやく耐えきれるような攻撃、果たしてこの惑星が耐えきれるかしら?』

「タイマンで負けたから、今度は小細工か?」

『ええ、小細工よ。本命は別にあるから、安心して凌駕してきなさい』


 銀光の奔流が放たれる。

 一度、二度だけではない、幾度も、世界全ての空を塗り替えんばかりに。

 その度に、トーマは両の拳で迎撃する。

 何度も、何度も、拳が銀色に染まり、動かなくなっても、歯を食いしばって迎撃を続ける。


「っづぅううううあああああああああ!!」


 それだけではない。

 銀光の奔流をこじ開け、何度も打撃をギンカへと叩き込んでいる。

 世界一つ分のリソースを使った嵌め技を受けているというのに、なおも荒々しく拳を振るい、ギンカの血肉を弾き飛ばして行く。


『生憎、貴方と私では蓄えたリソースが違う。我慢比べならこちらの勝ちよ』


 けれども、ギンカの命が潰えるよりも先に、トーマの全身が銀色に覆われる方が先だった。


「ぐ、が……く、そ」


 固まる。

 まるで血肉が全て銀に置き換えられたかのように、トーマの肉体は段々と銀の光に蝕まれ、そして、その心臓まで浸食が及ぼうとして。


「――――慣れてない形式の魔術だから、解析するのに手間取ったじゃねーか!」


 次の瞬間、浸食していた銀光が全て弾け飛んだ。


『…………やはり、超越したわね、トーマ』

「おうとも。まさか、この程度で俺を殺せると思ってねぇよな?」

『当然』


 世界一つをリソースとして使った特攻の攻撃。

 されど、それでもトーマを殺すには至らない。

 攻撃を受けながらもその属性を解析、分解し、既に対策を生み出していたのだ。


「さぁ、行くぜ!」

『まだまだこれからよ』


 だが、それはギンカも織り込み済み。

 何故ならば、ギンカには銀の悪竜本体から共有された情報があるからだ。

 トーマが今よりもずっと弱かった時、単独で銀の悪竜本体を撃退した時の情報が。

 故に、ギンカは侮らない。

 浸食する銀光だけではなく、その場で即興に魔術を作り上げる。

 トーマを殺すためだけの魔術を、己のリソースが尽きるまで作り続ける。


「は、はははははっ! 調子に乗って来たぜぇ!」


 けれども、トーマは止まらない。

 魔王を乗り越えた時から、トーマの成長は加速し続けていた。

 むしろ、特攻の攻撃などはトーマを成長させるための糧でしかない。

 どんどんとトーマはギンカからの攻撃を解析し、見切り、それを超越して強く育っていく。

 強く、強く、ひたすら強く。


「――あぁ、これが狙いか」

『ご名答』


 ただ、存在しているだけで周囲の空間が歪むほど強くなってしまった。


『私の勝利条件は、貴方を殺すことだけじゃない』


 トーマは強い。

 強すぎるほどに強い。

 そしてついに、存在しているだけで世界を壊すほどまで強くなってしまった。


『貴方を怪物に仕立て上げ、大切な者を自ら破壊させる。貴方の強さで破壊させる。その結果、たとえ私が消滅するとしても――――貴方の絶望が見られるのなら、本望よ』


 今まで、数多の理不尽を超越して来たトーマは、そのツケを払う時が来たのだ。

 自分一人だけが強くなり、相手を凌駕する。

 そのやり方はシンプルで揺るがなく、とても強い者の在り方だ。

 けれども、それに頼り過ぎてしまった所為で今、トーマの在り方は真っ当な生命から外れてしまったのである。

 故に、トーマに用意された末路は、ギンカの言う通り、自らの大切な者を自ら破壊してしまう、『超越の怪物』となって絶望することだ。



「さて、私たちの出番のようね」

「今まで眼中に無かったおかげで、自由に動かせてもらった」



 もちろん、そんなバッドエンドは、トーマが一人だけだったのならば、という在りえない仮定に過ぎないが。

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