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第197話 強き者

 身も蓋も無い言い方をすれば、光速を越えるとその余波だけで惑星が軽々と滅ぶ。

 空想科学実験で、『光速で小石を投げたらどうなるか?』という話題があるが、投げた石どころか、投げた瞬間の衝撃だけで凄まじいことになるのは、神人のアーカイブにある古のミームにて語られている。

 故に、その戦いは矛盾の塊だった。


「ふふふっ。あはははははっ!」


 哄笑と共に、ギンカが放つのはクリスタルの光。

 ――――否、竜銀のエネルギーそのもの。

 それが大気を焦がしながら、トーマを貫かんと突き進んでいるのだ。

 文字通り、光の速さで。


「しゃあっ!」


 大気が弾けるほどの気合の声と共に、トーマは光速を越えた拳を振るう。

 光速で到来する、竜銀のエネルギーを殴って消し去る。

 何度も、何度も、神技を越えた異常を、平然とやってのける。


 ――――この光景は明らかに、物理法則を超越したものだ。


 ギンカが放つエネルギーの一つ一つで、大陸が滅ぶ。

 トーマが振るう拳の余波だけで、軽々と惑星が割れる。

 だというのに、二人の戦いの余波は限りなく少なく、周囲に多少の衝撃波を撒き散らすだけ。

 その戦いが内包するエネルギーは、幾多の惑星が滅んでもおかしくないほどだというのに、二人の超越者の意識の合致により、この惑星は滅んでいないのだ。

 ある意味で、お行儀が良い戦い方だ。

 あるいは、『余波に割かれるエネルギーすら完璧にコントロールできないような弱さは持ち合わせていない』という証明かもしれないが。

 どちらにせよ、この戦いを繰り広げる超越者には、物理法則、魔法、それらの常識は当てはまらない。

 二人の前では、軽々と法則は頭を垂れる。

 真空だろうとも音は鳴るし。

 銃弾を切り裂けば、進むことなくその場で落ちる。

 光速で動き回っても、その余波で惑星は滅びない。

 さながら、極まったバトル漫画のご都合主義の中にあるように、二人の意志は、あらゆる法則をねじ伏せ、自分たちの都合の良いように書き換えていた。


『《おいおい、我らが銀の指導者様は、あそこまで強かったのかよ?》』

『《オレ、頭でもおかしくなったのか? 光速で戦って、なんでオレたちは無事なんだ?》』


 超越者の中でも極まった二人の戦いに、エジソンとソラは感嘆を禁じ得ない。

 自らの世界の代表であるギンカが、何かしらの力を隠していたのは理解していた。

 ひょっとしたら、自分たちよりも強いかもしれないとは思っていた。

 だが、ここまでとは想像していなかったのである。

 何より、そんなギンカの力についていけるトーマの存在に、もはや強者であるという自負は粉々に砕け散っていた。


「ヨハン、準備は?」

「万全だ」


 一方、メアリーとヨハンの顔色は変わらない。

 目の前で起こっている異常なバトルには、流石に内心では驚いているが、今はそれよりも優先すべきことがあるのだ。


「トーマが必ず隙を作る。その瞬間、私が補助するから、あっちの世界へのルートを繋げて」

「ああ、仕込んでおいた目印は正しく起動している。後はニュクスの『夜』で上手く門を構成する」


 メアリーとヨハンにとっての勝利条件は、三番勝負の勝利とイコールではない。

 銀の悪竜が何か悪辣な真似をする前に、シラサワの術式を発動させる。

 かつて行った浄化の火と同じように、異世界に満ちる竜銀を焼き尽くす。

 世界衝突現象を回避する。

 それに伴い、数多の問題は発生するかもしれないが、銀の悪竜の目的を防ぐことが最優先。

 発生した問題のフォローは、この作戦を成功させてから行えばいい。

 故に、二人は虎視眈々と、異常な戦闘を観察する。

 光速を越えた戦闘を、それでも超越者の知覚で正しく読み取る。

 ――――今のままなら、この戦いはトーマの優勢で勝利できると。


「おるぅうううらぁあああああ!!」


 光速を越えた戦闘だというのに、吠え猛るように声を出すのは、単なる感情の発露ではない。

 無意味ではない。

 吠え猛る声に魔力が含まれているため、音速という、光速以上に比べれば気の遠くなるほどの遅さでも、確かに意味はある。正確に言うなら、声を出そうと思った瞬間に効果を発揮する。

 トーマの魂からの発露である、超越の理で空間を満たす。


「ごふっ!?」


 トーマの拳はいつの間にか、ギンカを捉えていた。

 今までは数多の銀光を殴って消し飛ばすだけだったというのに、今では銀光を消し去った上で、ギンカの肉体へと痛烈なる打撃を叩き込んでいる。


「うぉおおおおおっ!!」


 ラッシュ、ラッシュ、ラッシュ。

 理不尽を乗り越えるトーマの在り方は、ギンカが扱う銀の光すらも超越した。

 降り注ぐビームを全て殴り飛ばして。

 竜銀による堅牢な守りを貫いて。

 呆れるほどに強靭なギンカの肉体へ、ダメージを与えるだけの威力を叩き込む。

 戦いを始める前とは、もはや別次元へと飛躍したトーマの強さは、ギンカを殺しうる段階まで近づいていた。


「ふ、ふふふふっ」


 だが、当然の如く、この程度でギンカは終わらない。

 銀の悪竜は、この程度の戦況を窮地だとはカウントしない。

 そして、それはトーマも理解していた。

 何故ならば、ここまで打撃を叩き込んでおいてなお、眼前のギンカには隙が無い。

 仲間たちが作戦を実行させるだけの隙が見えない。


「素晴らしい」


 ギンカは戦う手を止めずに、けれども愉悦に満ちた笑みを浮かべる。


「それでこそ、トーマ・アオギリね」


 銀の指導者としての被った皮が剥がれそうになるほど、邪悪な笑みを浮かべる。


「なら、私も応えないと」


 そして、ギンカは銀の悪竜が持つ数多の端末の一つとして、悪意のままに動き始めた。




 トーマたちの推測通り、世界衝突現象を引き起こしたのは銀の悪竜の仕業だ。

 正確に言うなら、銀の悪竜の端末であるギンカの仕業だ。

 けれども、その目的は世界の破滅ではない。

 二つの世界を衝突させて、トーマを倒そうなどとは思っていない。

 そもそも、今のトーマなら世界同士の消滅現象に巻き込まれても、生存してしまう可能性があるため、わざわざそれを攻撃手段にしない。

 そんなものは非効率極まりない。

 だが、トーマを倒すために世界衝突現象を引き起こしたのは間違いではない。

 要は距離の問題だ。

 別に、一つの世界を蹂躙し、全てのリソースを奪ってから到来しても良かった。

 けれども、それだと以前のやり方と変わらない。かつて、撃退された銀の悪竜は、リソースだけは潤沢に兼ね備えていたのだから、それでは過去の二の舞だ。

 そうならないためにも、仕込みは必要だったのだ。

 竜銀で浸食し尽くした世界が、トーマの住む世界の近くまで接近するという仕込みが。


「銀化兵装――――世界竜アクパーラ」


 銀の光が降り注ぐ。

 空の上――異世界から銀の光が降り注ぐ。

 世界全てが、眩いほどの銀の光に変換され、この場に降り注ぐ。


『《がぁ!? なん、だ、こりゃあ!?》』

『《う、うわぉあ!? オレの体が!?》』


 エジソンとソラもその銀化現象に巻き込まれ、為す術無く存在が銀の光に変換される。


「対抗対象を指定――――トーマ・アオギリ」


 そして、ギンカがトーマを指差した次の瞬間、銀の光が空を焼いた。


「ちぃっ!?」


 トーマですらも、視界を確保できないほどの銀光の中、それは悠然と現れた。


『ふふ、ふふふふふっ』


 ギンカの嘲笑を響かせながら、世界の全てを覆い尽くすほどの巨体を晒した。

 要塞の壁の如き堅牢な鱗を持ち、胴体は果てしなく長く、暗雲の如く空にある。

 その顔は、かつてトーマが見た銀の悪竜に酷似しており、常人ならば直視しただけで発狂するほどの悍ましき威圧を発していた。


『さぁ、始めましょう。貴方と私、最後の遊びよ』


 それは、銀の悪竜がトーマのためだけに一つの世界を使い潰した姿。

 己の因子を浸透させ、世界全てを己の兵装と化した姿。

 トーマという超越者に対してのみ、優位を得られる形態。

 ただ強いのではなく、トーマだけを殺すための必殺形態。

 ――――世界竜アクパーラ。

 どこかの世界の遥か昔、世界全てを背負うとされた怪物の名を冠する魔術は今、長きに渡る因縁を終わらせようと、トーマに牙を剥かんとしていた。

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