3-7「交渉決裂④」
「それで、あいつが最初から協議する気がなかったって話、どういう意味なんだ?」
サジが先程の話を尋ねる。
「あいつ、元々はガルム・プラウド本部の人間だったらしい。それも幹部の一人。」
「なぜ支部に飛ばされたんだ?」
「二年前、西の大国エルドリアで起きた、魔人軍による召喚獣襲撃事件でヘマしたからだって。」
「エルドリアの襲撃……。
それって確か、エルドリアに本部を置くガルム・プラウドが事態を収束できず、ヘリオサマナが介入して魔獣を鎮圧した……。」
「そう。
その時、本部の幹部達は遠征中で、唯一残ってたジャックが指揮を執ってたらしい。」
「ガルム・プラウドは面目丸潰れだな。」
「だね。」
「確かに、あの一件以降、俺達ヘリオサマナは最大規模を誇るガルム・プラウドと横並びで扱われるようになった。」
「ジャックはその責任を取らされて本部から支部へ左遷。」
「逆恨みってことか?」
「そういうことになるね。」
「逆恨みだぁ……?
そんなんじゃねぇんだよ……。」
「……!?」「お前……!」
意識を失っていたはずのジャックが、壁へ手をつきながら立ち上がる。
「ふざけるなぁ!!」
ジャックは残った力を振り絞り、大量の幻影体を出現させる。
「あいつ、まだやる気か……!」
カルマは痛む足を押さえながらも剣を抜き、ジャックを睨みつけた。
「くそ……まだこれだけの力を……」
ジャックの幻影体達が剣を構え、じりじりと距離を詰めてくる。
カルマとサジは背中を寄せ合うように身構えた。
……
「うちのが随分と迷惑をかけているようだな……。」
低く響く声と共に、応接室の扉が開く。
そこに立っていたのは、巨大な体格の男だった。
背には大剣を携え、全身から圧倒的な威圧感を放っている。
「誰だ?」
「あれは……!」
男は無言で剣を抜く。
その瞬間、体中から凄まじい電流が放出され、床を焦がす。
次の瞬間には、男の姿はジャックの目の前にあった。
地面を蹴った衝撃で爆風のような風が吹き荒れ、放電した雷が周囲へ弾け飛ぶ。
その余波だけで、周囲にいた幻影体達が一気に霧散した。
男はジャックの頭を鷲掴みにし、そのまま持ち上げる。
バチバチと激しい電流が流れ、ジャックの体が痙攣する。
「団長……なぜここに……。」
「貴様の元へヘリオサマナの使節団が派遣されたと聞いてな。嫌な予感がしたのだ。
貴様、自分のしたことがわかっておろうな?」
「……。」
「この馬鹿者がぁ!!」
男はジャックを壁へ叩きつける。
轟音と共に壁が砕け、ジャックの頭が壁へめり込んだ。
「君達、本当にすまなかったね。大丈夫かい?」
「おっさんは?」
「お、おい! 馬鹿!
お前知らないのか!?
この方はガルム・プラウド団長、ガルム様だ!」
サジが慌てた様子でカルマへ耳打ちする。
「へー。」
「すぐにうちの回復術士隊を手配する。
君達も怪我をしている。到着するまで休んでいてくれ。」
「よかったな。とりあえず敵対しているわけじゃなさそうだ……。」
サジは小声で呟き、安堵の息を漏らした。
「ところで……。」
ガルムはカルマ達を見渡す。
「うちの支部長ジャックをここまで追い詰めたのは誰だい?」
「うっ……。」
「俺だけど。」
カルマは真っ直ぐガルムを見つめながら手を挙げた。
……。
ガルムとカルマの視線がぶつかり合う。
室内に緊張が走った。
だが次の瞬間――。
「ふっ、わはははは!!」
ガルムは豪快に笑い出した。
「君がか!? これは面白い!
ヘリオサマナにこんな少年がいたとは!」
「何がおかしいの?」
「わはは……いや、これは失敬。
ジャックがそちらに敵対意識を持っていたことは気づいていたが、やつはうちの戦士の中でも手練れだ。
まさか、それを追い詰める戦士が君みたいな少年だとは思わなくてね。君、名前は?」
「カルマ・ミラ・フィーラン。」
「フィーラン……そうか、君が……。」
ガルムはその名を聞いた瞬間、僅かに表情を変えた。
「おっさん。こいつのボスなんでしょ?
この件、どうするつもりなんだ。」
「お、おいカルマ!
すみませんガルム様! こいつはヘリオサマナの協力関係にある少年でして、礼儀がなっておらず……!」
サジが慌てて頭を下げる。
「いや、気にするな。
それに、少年の言い分の方が正しい。」
ガルムは静かに言った。
「ヘリオサマナからこの支部への会談要請が来たと聞き、万が一を考えて急いで来たのだが……間に合わなかった。
申し訳ないと思っている。」
ガルムはカルマ達へ向き直る。
「この件については、改めて私からアリディア殿へ連絡する。そう伝えてくれないか?」
「わかりました。」
ガルムは頷くと、気絶したジャックを掴み上げる。
「そいつはどうするんだ?」
「うむ……まあ、何らかの処分は必要だろうな。」
「そいつが失敗したっていう、西の大国の襲撃事件についてさ。
その経緯、ちゃんと調べた方がいいんじゃない?」
「……? どういう意味だ。」
「いや、他にもまだ何か思惑がありそうだったから。」
ガルムはカルマを黙って見つめる。
そして――。
「ふっ……わかっているさ。そんなことは。」
そう言い残し、ジャックを連れて部屋を出て行った。
「カルマ、最後のあれどういう意味だ?」
「ん?深い意味はないよ。
それより、みんなのところに!」
「あ、ああ! そうだな!」




