83.涙の理由
バランはレミノアに近づこうとする。
「来ないで!」
レミノアのその叫びにバランの足が止まる。
「何で……?」
「勘違いしてるようだけど…
私は自ら望んでここにいるの。
だからこの場所を離れることはない。」
「そんな……」
「もう帰って…ここはあなたたちがいるべき場所じゃない。」
バランはレミノアの冷たい声を聞いて、俯く。
その声に昔の優しさは無かった。本心でそう言っているんだとバランは思った。
「ドルドスに支配されているんですか?」
カルマはそのやりとりを見て口を開く。
「私は陛下に支配されてなどいない。」
「大丈夫。あなたが心配するようなことにはならない。
なぜならドルドスはこの後、失脚する。」
「だから私は、支配されてなんて…」
「じゃあなぜ……涙を流しているんですか?」
「え……?」
バランはカルマの言葉を聞き、レミノアの足元を見る。
レミノアの足元には涙の跡が残っている。
「お母さん……」
「……」
「失脚するってどういうことですか……?」
そう聞き返すレミノアの声は震えていた。
「先王ゴードンの魔導符による遺言が、ドルドスの工作によるものだというのが判明したんです。
現在、ミルズ三傑のうち2人は戦闘不能、筆頭剣士のガーディスはドルドスに対して謀反しました。」
「そんなことが……」
「だからあなたがドルドスを恐れる必要なんてない。
ドルドスは遺言を捏造した反逆者です。俺たちが必ず捉えます。」
「……ごめんなさい……」
レミノアは震えた声で謝ると、ゆっくりと振り返る。
そして、涙を拭うと膝をつき手を広げる。
「お母さん!」
バランはレミノアに抱きつく。
「ごめんねぇ。バラン。ごめんね。」
レミノアは泣きながらバランを抱きしめている。
カルマは気づいていた。その涙に。その偽りの言葉に。
そして2人の姿を見て微笑んだ。
カルマが2人の再会に安堵している時、ふと窓の外に目をやると、とあるものが見えた。
「……!!」
カルマは急いで窓を開けると、窓枠に足をかける。
「え…!?ちょっとなにしてるの!」
カルマはそのまま外へと飛び降りる。
「!!」
バラン達は驚いて窓の外を見下ろす。
「ドルドス……」
そこには、慌てた様子で王宮から逃げ出そうとするドルドスと、そしてボルドーの姿があった。
カルマは空中を落下していく。
カルマはしまったと思った。急ぐあまり、王宮の4階から飛び降りてしまった。
これまでフィルスと共にいたため感覚が狂ってしまった。フィルスは高い門の上からでも、木上からでも飛び降りていたから。
「魔力を足に溜める…」
カルマは師匠の姿を思い出し、着地に備える。




