3-2「模擬戦闘試験⑤」
「なぜ、それを……」
「確かにお前の基礎魔術は凄い。上級魔術も高いレベルで扱える。でも、それだけで天級になれるほど、天級魔術士って軽いのか?」
「何が言いたい……!」
「何を隠してるんだよ。」
カルマが踏み込む。
「それが、周り人達を信じない理由なのか?」
「ちっ!」
ラディールは巨大な氷壁を周囲へ展開する。
カルマは飛び上がり、その壁を飛び越えた。
頭上から剣を構える。
「魔剣術
炎
下ノ型
地砕炎剣」
炎の剣が叩き落とされる。
ラディールは咄嗟に氷を生み出し防ぐ。
轟音と爆炎が周囲を駆ける。
氷壁が砕け散る。
「どうなったんだ……?」
「まさか、やられたのか?」
土煙が晴れる。
そこには一本の巨木が生えていた。
ラディールを守るように。
「その魔術……」
カルマが目を細める。
「お前、ベルナド家の人間だったのか。」
「あれは……」
「なに? どういうことなの? カルマは何を話してるの?」
観客席でリアがクレインへ問いかける。
「いや、俺もよく……」
そこへヤクモが歩いてきた。
「お前達は知らないか? あの応徳魔術は、魔創神グランの力の一つとされる術――
樹木創叢だ。」
「えぇ!? 魔創神様の魔術? それをなんでラディールが……」
「樹木創叢は、魔法大国のカイルディア帝国の貴族、ベルナド家が代々継承してきた応徳魔術なんだ。」
「子供に応徳魔術を継承? 応徳魔術って、その術者だけの魔術じゃないのか?」
「そういう応徳魔術もあるってことだ。」
ヤクモは腕を組みながら続ける。
「特に、魔創神グラン様の力の一部とされている三家――ベルナド家の樹木創叢、ガーヤック家の大地創造、グラミス家の天象創操は、代々継承されてきた応徳魔術として有名だ。」
「でも、それってすごいことじゃないの?」
「まぁな。だが、その力を秘匿し続けてきたことに反感を持つ者も多い。」
「どういうこと?」
「魔術っていうのは元々、魔創神様の力から広がったものだ。今の基礎魔術もその多くは魔創神様の力が大元とされている。」
「なるほど、ということは…」
「うん。つまり、“自分達だけで独占してきた”って考える奴らもいるってことだ。」
「なるほどね……」
「まぁ、応徳魔術なんて本来どれも秘匿されるもんなんだけどな。ただ、魔創神の時代から受け継がれてきた特別な力って部分が、余計に反感を買ってるんだろう。」
「ラディールって、おぼっちゃんだったんだ……」
リアがぽつりと呟いた。
⸻
カルマは剣を構えたまま、ラディールを見据える。
「だから、お前は俺の相手に立候補したのか?
基礎魔術だけで俺に勝ってみんなに認めさせるために。」
「うるさい!」
ラディールが怒声を上げる。
「お前に何がわかる!!」
大きく手を払う。
すると、カルマの足元から無数の植物が生え、蔦のように絡みつこうとする。
カルマはそれを避けながら駆け出す。
「なんで隠すんだ!その魔術も、お前の力だろ!」
炎を纏った剣で木々を切り裂きながら、ラディールへ迫る。
「うるせぇんだよ、お前は!」
次々と植物が生え、カルマの身体を拘束する。
ついに腕と足を絡め取られ、動きが止まった。
「お前は逃げたんだ。自分の運命から。」
カルマは拘束されたまま、ラディールを睨む。
「じゃあどうすればよかったって言うんだ!
この力が忌み嫌われるものでも、堂々と使えってのか!?」
「そうだよ。」
カルマは即答した。
「“お前らには教えてやらねぇ”って、鼻で笑ってやればよかったじゃん。」
「そんなこと……」
ラディールは顔を上げる。
そして、カルマの左眼を見る。
赤く輝く緋眼。
その瞬間、ラディールは気づかされる。
自分が恐れ、隠し続けてきたものなど、この目に比べれば遥かに小さいのではないかと。
「もし、それができないなら――」
カルマは身体を強引に動かし、魔剣フレイアで植物を焼き斬った。
拘束を断ち切り、ラディールの前へ立つ。
「さっさとその魔術を公開して、ベルナド家の歴史に終止符を打つくらいしかできないだろ。」
「……。」
ラディールはカルマから距離を取り、天を仰ぐ。
「俺は……何をそんなに悩んでいたんだろうな。」
自嘲するように呟く。
「よく考えれば、大したことじゃなかったのかもしれない。」
ラディールは静かに手を広げる。
「……見せてやる。俺の魔術の力を。」
「ああ。真正面から受けて立つ。」
「樹木創叢――大森林。」
闘技場全体へ、巨大な樹木が一斉に生え始める。
一本、二本ではない。
まるで本物の森そのものが誕生したかのように、木々が空間を埋め尽くしていく。
「なんという物量……」
「とんでもない魔術だな……」
観客席がざわめく。
カルマは笑っていた。
「だが、俺も負けられない。」
剣へ炎を灯す。
足へ魔力を集中。
「打ち破るには――一点突破しかない。」
カルマは森林へ向かって走り出した。
「魔剣術
炎
突ノ型
灼螺旋突・神速」
カルマは魔力を足に溜めて、大きく地面蹴り出す。
高速回転する炎の突撃。
周囲の木々を焼き払いながら、カルマは森を突き進む。
だが、大森林の増殖速度も異常だった。
木々は次々と再生し、カルマの姿を呑み込んでいく。
「この魔術は現代魔術の原点とも言える力だ!
お前の応徳魔術では突破できない!」
ラディールがさらに魔力を込める。
森はより深く、より厚く成長していく。
ラディールにはわかっていた。
木々がカルマの身体を裂き、傷つけている感触が。
「諦めろ!
止まらなければ、全てを失うぞ!」
「ボス……!」
「カルマ……!」
ハウロスとカミルが息を呑む。
やがて、ラディールは木々の増殖を止めた。
「……どうなった?」
「終わったのか?」
静まり返る闘技場。




