2-5「ミルズ王国動乱④」
_______
場面は変わる。
宮内庭園。
カルマはミルズ三傑筆頭剣士ガーディスと対峙し、剣を構えている。
ガーディスもまた、背の三本のうち一本を抜き、静かに構えた。
「広範囲凍結」
踏み込むと同時に放たれた中級魔術が、ガーディスの足元を凍らせる。氷は太腿まで一気に這い上がり、その動きを封じた。
「魔術剣士か……」
身動きの取れないガーディスへ、カルマは魔剣フレイアを振り上げ迫る。
「悪く思うなよ。あんたが相当ヤバい相手だってことくらい、わかってる。」
炎を纏った連撃がガーディスに叩き込まれる。
固定された体勢のまま、ガーディスは剣一本でそれを受け続ける。
だが――
カルマが大きく振り抜いた一撃で、ガーディスの剣ははじき飛ばされ、地面に突き刺さった。
「もらった!」
振り下ろされた炎の刃。
「……?」
しかし、そこにいたはずのガーディスの姿が消えている。
次の瞬間。
背後から気配。
「なに!?」
地面に刺さった剣を手に、ガーディスが振りかぶる。
豪快な一閃。
カルマは咄嗟に炎の剣で受けるが、凄まじい衝撃に吹き飛ばされ、庭園内の木へ叩きつけられる。
(今のはおかしい……不自然だ。)
ガーディスの足を覆っていた氷は、そのままの形で地面に残っている。砕けてもいない。
まるで本体だけが抜け落ちたように。
カルマは立ち上がり、剣を構える。
その瞬間、ガーディスが一本の剣を投げ放つ。
「!!」
カルマはそれを弾く。
弾かれた剣は宙で回転する。
刹那――目の前にいたガーディスが消え、次の瞬間、宙を舞っていた剣を掴んでいる。
「なっ……」
ガーディスは固まるカルマへと剣を振り下ろす。
カルマの肩が裂け、血が噴き出す。
「がはっ……」
膝をつくカルマ。
「ミルズ王宮に侵入した罪、軽くはないぞ。」
「……お前の技……まさか、剣から剣への瞬間移動か?」
「ふっ、察しがいいな。
私の応徳剣術は“武具転移”。三本の剣、そのいずれかの位置へ移動できる。」
ガーディスは三本の剣を地面に突き立て、瞬時に位置を入れ替えてみせる。
「さすがに……とんでもないな。けど……」
カルマは肩を押さえながら、ゆっくりと立ち上がる。
「……まだやるのか?」
「あたりまえだ。」
血に濡れた手で剣を握り直す。
「お前を倒して、バランを母親の元へ連れていく。」
「なぜそこまでする?」
一瞬の沈黙。
カルマは真っ直ぐにガーディスを見据える。
「なぜかって? ――俺が戦士だからだ!」
「ふっ、戦士とは本当に馬鹿な生き物だ。」
「なんだと?」
「私は戦士を辞めた身だからこそわかる。
依頼主を変え、主人を変え、都合よく正義を掲げて暴れる理由を探す。
そんな連中を嫌というほど見てきた。……だから辞めたのだ。
お前も同じだ。子供のためなどと、それらしい理由を並べているだけに過ぎない。」
「それは違う。」
「……?」
「確かに、お前が見てきた戦士も“戦士”の一つなのかもしれない。
でも、俺が知っている戦士は違う。
信念や目的のために、自分が傷つくとわかっていても人を守る。
それが戦士だ。」
「理想論だ。現実を知らぬ子供の戯言だ。」
「違う!」
カルマの声が庭園に響く。
「剛剣士ダグラスは魔人軍から人々を守るために世界を駆けた。
狂戦士フィルスは強大な魔人に一人で立ち向かい、他の戦士や兵を退かせた。
お前こそ、自分の見た世界だけが全てだと決めつけるな!」
「……まあいい。」
ガーディスは静かに剣を抜く。
「お前を倒し、世の厳しさを教えてやろう。」
両手に剣を構えるガーディス。
カルマも炎を灯した剣を構え、同時に踏み込む。
中央で刃がぶつかる。
だが、二刀を操るガーディスの連撃は淀みがない。
流れるような斬撃が次々と繰り出され、手数で圧倒される。
「っくそ!」
押し込まれるカルマ。
ガーディスは一本を地面に突き刺し、もう一本で間合いを詰める。
カルマは迎え撃つ。
「魔剣術
炎抜ノ型
炎閃斬」
炎の半円が庭園を裂く。
――だが。
そこにガーディスの姿はない。
地面に刺した剣の位置へ瞬時に移動していた。
「くそっ、そんなんありかよ。」
隙を晒したカルマへ、連撃が降り注ぐ。
「ぐあっ!」
身体に浅く深く、幾筋もの傷が走る。
「まだ……だ!」
血を流しながらも、剣を構え直す。
「温存は無しだ……!」
一直線に踏み込む。
「魔剣術
炎
突ノ型
灼螺旋突」
剣から噴き出した炎が渦を巻く。
カルマ自身を包み込み、巨大な火炎の螺旋となって突き進む。
ガーディスは無造作に三本の剣を空へ放った。
次の瞬間、姿が消える。
宙に浮いた剣の位置に現れたガーディスが、超高速で斬撃を浴びせる。
「天旋剣」
「がっ……!(速さが段違いだ……)」
背を裂かれながらも、カルマは空中の剣の配置を見る。
ガーディスが次の剣へと移動し、とどめを振り下ろす――
「!?」
振り下ろされた刃を、カルマが素手で掴む。
掌から血が滴る。
「姿が追えなくても……移動先がわかれば予測はできる。」
歯を食いしばり、もう片方の手で剣を振り上げる。
「魔剣術
炎
下ノ型
地砕炎剣」
炎を纏った刃が、大地を叩き割るように振り下ろされる。
轟音。
庭園の地面が、炎とともに爆ぜた。




