2-5「ミルズ王国動乱③」
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その頃。
ハウロスとカミルは三階へ続く階段を見つけていた。
「よし、見つけた。」
「順調……すぎる気もするな。」
「ボスの囮が効いてるんだろ。」
だが、カミルの言葉にハウロスはわずかな違和感を覚える。
静かすぎる。
「ふふ……見つけたわ。入り込んだ鼠が二匹と、小鼠が一匹。」
「!?」
背後から、女の声。
振り向いた先に立っていたのは、細長く歪に曲がった刀を持つ女だった。
艶やかな笑み。だがその目は獲物を前にした獣のそれ。
「何者だ!」
「それはこっちの台詞よ。」
「ハウロス、こいつ普通の兵じゃない。」
「ああ……」
二人は同時に身構える。
「普通の兵士と一緒にしてもらうのは心外ね。」
ゆらりと刀を構える。
「私はミルズ三傑――無限刀のラミ。」
「……!?」
嫌な予感が、確信に変わった。
「なんでこんなところにいる。」
「さあ? なんでかしらね。」
ラミは笑う。だがその足は、すでに間合いの内。
空気が切り裂かれる音が、先に聞こえた。
ラミはカミル達に向かって、歪な刀を振る。
すると、刀身がぐにゃりと伸び、鞭のようにしなる。
一直線にカミルへ。
カミルは反射的に双刃弓を構え、その刃で受け止める。
「ハウロス! バランを連れて先に行け!」
「……! ミルズ三傑だぞ! お前一人じゃ無理だ!」
「今回の任務はバランを四階まで連れていくことだ!
それに……どちらにしても三人来ているはずだ。」
「……!」
ハウロスは歯を食いしばる。
嵌められたのは明白だ。
ならば――各個撃破しかない。
「……わかった。気をつけろよ。」
「そう簡単に行かせると思って?」
ラミは刀を翻し、ハウロスとバランへ向ける。
その瞬間。
カミルの矢が、連続してラミの死角から迫る。
「……!」
ラミは身をひねってかわす。
「何をしている。君の相手は私だ。」
その一瞬の隙で、ハウロス達は階段を駆け上がった。
足音が遠ざかる。
廊下に残ったカミルとラミは互いに視線を外さない。
「まぁいいわ。あなたたちの作戦に乗ってあげる。」
ラミは愉しそうに笑う。
「でもね、あなたを殺すことなんてすぐよ。
時間稼ぎにもならない。後悔しなさい。」
ラミは刀を構える。
すると、その刀身が――二又に裂ける。
「……!?」
二本に増えた刃が同時に伸びる。
カミルは双刃弓で受け流し、後方へ跳ぶ。
(今の攻撃……)
「なるほど。刀身を操る応徳の技か。ハウロスの魔鋼に似ているな。」
「あら。似たような術を見たことがあるのね。
それなら、初見で二度防いだのも納得だわ。」
「私をあの程度で仕留められると思っているなら、
三傑とやらも大したことはないな。」
ラミの笑みが深まる。
「言ってくれるわね。なら――手加減は終わり。」
ラミの刀から魔力が溢れ出て、刀身が増える。
一本が二本に。
二本が四本に。
四本が八本に。
まるで生き物のように、刃が枝分かれしていく。
「言っておくけど……私の応徳剣術は“形状変化”じゃないわ。」
刃が空間を埋め尽くす。
「私の力は――“増殖”。」
一斉に振り下ろされる無数の刃。
(この数……!)
カミルは弓を回転させ、必死に防ぐ。
だが、防ぎきれない。
刃が肩を裂き、脇腹を掠め、脚を穿つ。
増殖した刀身が、ついにカミルの姿を覆い隠す。
金属音と肉を裂く音が交錯する。
「ふふ……終わりね。」
ラミが刃を収束させる。
床には、血を流し倒れ伏すカミル。
……
「これがミルズ三傑の力。」
ラミは静かに歩み寄る。
「あなたは仲間を捨てて逃げるべきだったのよ。」
その時――
床に落ちた血が、じわりと揺れた。カミルの指が、わずかに動く。




