2-5「ミルズ王国動乱②」
_______
ハウロスとカミルはバランを連れて、王宮を囲う塀に沿って身を低くかがみながら進む。
そのとき、正門の方角から爆発音が轟いた。
「始まったか。」
それはカルマが正面から魔術で扉を打ち破った音だった。
王宮の裏側は人影がないとはいえ、内部の混乱ははっきりと伝わってくる。叫び声と衛兵たちの怒号が風に乗って響いていた。
「よし……この辺だな。」
ハウロスは魔鋼を鉤爪のように変形させ、塀に引っかけると素早くよじ登る。
「カミル、行けるか?」
「ああ、問題ない。」
カミルは軽々と塀に手をかけると、上からバランへ手を伸ばした。
「掴まれ。」
「こんな高さ、登れないよ……」
「大丈夫だ。任せろ。」
カミルはバランを引き寄せ、そのまま抱え込むと塀を飛び越えるように反対側へ降り立つ。
「ほらな。問題ないだろう?」
「……うん。」
「こっちだ。」
塀の裏側には、小さな勝手口があった。
「鍵がかかってるな。」
カミルがノブを回すが、びくともしない。
「蹴破るか?」
「いや、待て。」
ハウロスは魔鋼を細長く変形させると、鍵穴へ差し込む。内部で形を変えながら構造を探り――小さな音と共に鍵が外れた。
「開いたぞ。」
「便利なもんだな。」
中へ入ると、そこは炊事場だった。既に人の気配はない。カルマの派手な侵入により、使用人たちは逃げ出したのだろう。
炊事場の奥には二階へ続く階段がある。
三人は素早くその階段を上る。
二階は王族の居住区。ボルドーの話が正しければ、ここにいるのは王族と一部の警備兵だけのはずだ。
細い廊下を進む。ここはおそらく従者や召使いが使う裏通路だ。
「……隠れろ。」
カミルが足音を察知し、三人は壁際へ身を寄せる。
「侵入者が二階まで来たぞ!」
「急げ!」
兵士たちの足音が廊下の向こうへ駆けていく。
――カルマが強引に突破したか。
「ボス、ちょっと早いな……」
「予定より引きつけ過ぎかもしれない。」
ハウロスは奥を一瞬だけ見やる。
――どうかご無事で。
「急ぐぞ。」
「ああ。」
三人は再び走り出した。
___________
カルマは二階へと続く階段の兵を蹴散らしたあと、
火炎爆発で扉を打ち破る。
爆音とともに木片が吹き飛び、炎が廊下を焦がす。
「よし、囮役は十分果たした。俺も上を目指すぞ。」
カルマは向かってくる衛兵を魔剣で薙ぎ払いながら二階を進む。
二階に上がってから、衛兵の数は明らかに減っていた。
やはり一般兵は一階まで――。
だが安心はできない。
軍が動き出せば包囲は時間の問題だ。
「急がないとな……」
廊下の奥に、ひときわ巨大な扉が現れる。
「これは……何の部屋だ?」
カルマはゆっくりと扉に手をかけ、押し開いた。
――瞬間、空気が変わる。
そこに広がっていたのは、室内とは思えぬ光景だった。
草木が生い茂り、鳥が飛び、柔らかな陽光が差し込んでいる。
「……これが、宮内庭園」
天井は高く、陽光は本物の空のように降り注ぐ。
足元には土が敷かれ、風すら感じる錯覚を覚える。
「すごいな……」
「ようやく来たか。」
「!?」
奥から静かに響く声。
庭園の中央、木陰の先に一人の男が立っていた。
長身で背には三本の長剣。
ただ立っているだけなのに、空間そのものが張り詰めているように感じた。
――強い。
理屈ではない。本能が告げていた。
「誰だ!」
「私はミルズ三傑、筆頭剣士ガーディス。」
「……っ!?」
その名を聞いた瞬間、背筋が冷える。
あり得ない。三傑は今、国外のはず――。
カルマは瞬間的に思考を巡らせある一つの可能性に辿り着く。
嵌められた。
貴賓会の情報。三傑の不在。
すべて、こちらを誘い出すための餌。
(まずい……)
(だとしたら、ハウロスとカミルも――)
カルマは魔剣を握り直す。
ガーディスは静かに一歩踏み出した。
それだけで、庭園の空気が震える。
「侵入者。王に刃を向ける覚悟はできているのだろうな?」
その声に、余裕はない。ただ事実を問うだけの冷静さがあった。




