43.牢獄の女
カルマとハウロスは使われていない家屋を借りた。
陽が落ちるまでの間、カルマは外に出て散策をしていた。
集落には弓を練習している子供達や、木材や食材を運ぶ人達、談笑している人達、いろんな人達が平和に暮らしている。
カルマが集落の外れの方まで歩いてくると、奥に木にぶら下がった建造物が見えてくる。
気になって近くまで歩いてくると、それは木材でできた牢のようなものだった。
中には部族の者達と同じ格好をした女が閉じ込められている。
女はカルマに気がつくと、うーっうーっ、と雄叫びを上げながら今にも飛びかかりそうな態度でカルマを威嚇している。
「すみません。変なものを見せてしまって。」
長老がカルマの隣にやってくる。
「あの人は?」
「あやつはカミルといってここで育った者なんですが、昔に母親を亡くしてから手がつけられないほど暴れ回るようになりまして…」
「なんで牢に繋がれているの?」
「あやつが"悪魔憑き"だからです。徐々に凶暴になっていて、今では人の言葉すら理解しようとしません。」
「悪魔憑き…」
「さ、あまり近づくと危険が及ぶかも知れません。戻りましょう。」
「....はい。」
カルマは集落に戻り、ハウロスと共に長老達と食事をとった。
ゲド族の食事は森の実りと狩猟での獣の肉を豪快に焼いたものだったが、それは美味であった。
「長老、さっきのカミルって子の話聞いてもいいですか?」
「気に掛かられてしまいましたかな。」
「あなた達にとっては暴れ回るあの子は脅威なんだろうと思うけど、僕と同じくらいの年頃の子がああやって繋がれると思うとね…」
「まあ。確かに。いいでしょう。お話しします。
カミルは昔は元気の良い普通の女の子でした。
母親と歳の離れた兄の三人暮らし。
そのうち、カミルの兄 ギルが戦士になると言って集落を旅立つことになったんです。
一族から有名な戦士が出るかも知れないと、当時、ゲド族の皆でギルを送り出す時にお祝いしたものです。
それからしばらくしてカミルの母が病で亡くなりました。まぁ、医者もいないこんな所ですからそういうこともあります。
ですが、カミルにとっては家族がいなくなり一人になってしまったのですからそれは辛かったでしょう。
それから私の家にカミルを引き取ったのですが、カミルは塞ぎ込み、部屋から出てくることはありませんでした。
そんな生活が続いたある日、カミルが集落に出てきて暴れ出したのです。まるで何かが取り憑いているように白目を剥いて…
その時は一族の男達が総出でカミルを取り押さえましたが、それがまたものすごい力で
それからカミルは正気に戻ったのですが、定期的に暴れ出すようになったのです。それもどんどん高頻度になってきていた。
つい先日のことですが、カミルが子供を襲ったのです。幸い命は無事でしたが、部族の者達はカミルには何かが取り憑いていると隔離することになったのです。」
「それであの牢に繋がれているのか…」
「はい。今では寝てるか暴れているかで…」
長老の計らいでその日はもう休むことにし、カルマとハウロスは部屋に戻りそれぞれの寝床についた。
「ボス、可哀想だとは思いますが、ゲド族の問題ですしあまり考えても仕方がないと思いますよ。」
「うん。そうだね。」
カルマは天井を見つめながら何かを思案していた。




