04.軽蔑
それから半年程の時間が過ぎた。
7歳になったカルマは、今日もノーリエに借りた本を抱えて街の中を走る。そしてノーリエの家の扉を開ける。
「ノーリエさん!聞いてよ」
「ああ、君か、今日はどうしたの?」
そういうとカルマは本を机に置き、ノーリエの前で手を上向きにかざす。
「見ててね……」
カルマの体から魔力の高まりをノーリエは感じる。
するとその瞬間、カルマの手から炎の玉が現れる。
「こ、これは……初級基礎魔術フレアボールじゃないか!」
「へへ、ようやく出るようになったんだ」
「君は本当にすごい少年だ、わずか7歳で魔術を扱えるとは……」
ノーリエは驚いた後、嬉しそうに笑顔を見せた。
その帰り道、カルマはノーリエに褒めてもらえた喜びでスキップしながら帰る。
「……っろよ!」
商店街を抜けたところでカルマと同じ年頃の子供達が集まっている。
カルマが何かあったのかと近づいてみると少年たち数人が
少女を取り囲んでいる。
「アラモのくせに生意気なんだよ!」
「っちょっと、やめなよ。」
カルマは少年達を制止する。
話を聞くと少女はイリーナ・アラモ・トリスというらしく、"アラモ"の血族なのだそうだ。
この世界では過去に使われていた階級制度の名残がある。それは姓名と間にある名、いわゆるミドルネームというやつだ。
この世界でのミドルネームは3種類グラン・ミラ・アラモだ。魔創暦600年頃までは階級別に使われており、グランは当時の王侯貴族の位、ミラは商人や兵士などの一般庶民〜下級貴族の位、そしてアラモは農民〜下僕までの下位の位として使われていた。
カルマはそれを聞いてとてもくだらないと思った。そして心の底から怒りの感情が湧いてきたのだ。
「おい!その子から離れろ!」
「っつ、なんだと!おまえ!」
少年の1人がカルマの顔をはたく。
その時、カルマのつけていた眼帯が外れ飛んでいった。
咄嗟に左目を手で押さえ、そのまま少年を睨みつける。
「なんだよ……その目は」
少年はカルマの目に威圧されながらも反抗的な姿勢を変えない。
カルマはそれを見てゆっくりと左手を下ろし、その両目で相手を睨みつける。
「ひっ……緋眼」
少年達はその目を見て怯え出し後退りをする。
カルマも緋眼の魔人のことは知っている。現存する最悪の魔人であるうえに、いくつもの創作の物語の悪役にもなっているのだ。当然知っている。
だからこそ父はその目をひたすらに隠させた。それは誰のためでもないカルマのためだということをカルマ自身わかっていた。
だが、今はそんなことはどうでもよかった。
とにかく目の前にいる少年達が憎く怒りが湧いてくるのだ。
カルマは拳が出そうになるのをグッと堪えた。
ここで殴り返してはこの者達と変わらない。なら何が一番効果的か……
カルマは"その眼"が今は最も効果的だと思った。
カルマはその両目で相手を睨みつけながら、左手に炎の玉を作り出す。
「許さないぞ、お前達」
「ひっ、ひぃぃ」
少年達は恐怖におののき散り散りとなって逃げ出していった。