1-1「赤い瞳の少年④」
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それから数日。
二人は並んで本を開き、魔術の練習をしながら笑った。
彼女はイリーナといって、カルマによく懐いた。
カルマは少しだけ思う。
ノーリエさんの所にも行きたいな、と。
でもイリーナの嬉しそうな顔を見ると、まあいいかと思えた。
誰かの役に立てることが、嬉しかった。
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翌日。
今日はイリーナは来られないと聞いていた。
カルマは久しぶりに一人で街へ向かう。
——何かが違った。
最初は分からなかった。街の雰囲気か?なにかあったのだろうか。
でも、歩くほどに気づく。
誰も笑いかけてこない。声が小さい。視線が、刺さる。街の人たちの空気感が昨日までとはまるで違う。
いつもの魚屋の主人が声をかける。
「坊主……お前、緋眼なんだってな」
時間が止まったかのようにカルマの表情は一瞬にして固まる。
振り返ると、人が集まっていた。
その目は、昨日までと違う。
遠巻きに見る目。距離を取る足。囁き声。
「不吉な子供だ」
「魔人の仲間か」
理解が、遅れて追いつく。
——ああ。
知られたんだ。
次の瞬間、石が飛んできた。
痛みより先に、胸の奥が冷える。
どうして。
――ただ、目が赤いだけなのに。
カルマは腕で顔を覆い、地に伏せる。
痛みより、胸の奥が焼けるようだった。
民衆の腕の隙間から薄らと見えた。
人々の後ろで、あの少年たちが笑っている。
その瞬間、カルマは初めて思った。
——どうして、こんな目に生まれたんだ。
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その時だった。突然、音が消えた。
石の落ちる音も、罵声も。
世界そのものが息を止めたようだった。
カルマが顔を上げる。
いつの間にか、目の前に一人の女が立っていた。
黒いローブ。細い杖。
背中にかかる茶色味がかった長い黒髪。
カルマはその姿を見て何かを感じ取る。心が、魂が震える。この人を待っていたのだと。
「少し眠れ」
女は落ち着いた声でそう呟くと、杖を体の前に持ちゆっくりと地面に向かって降ろす。
杖が地面に触れた瞬間、波紋が広がる。
すると、人々が糸の切れた人形のように崩れ落ちた。
「な……にを?」
「安心せよ。眠らせただけじゃ。」
女は振り返らずに答える。
20代半ば〜30歳くらいに見える見た目の女は、その見た目に似合わず老人言葉を話した。
カルマはゆっくりと立ち上がる。
「どうして助けてくれるの?」
女は黙ってカルマの顔を見たあと、ふっと笑いかける。
「わしは戦士じゃからな。」
その一言にカルマは心を打たれたような気持ちになった。
カルマが目指す、理想の姿がそこにはあった。
......
女は眠りについた少年たちに近づくと、杖を向ける。
すると、杖が光り始める。
現実の綻びのように揺らめく淡い光。
何かが“書き換わる”。
そうとしか言えない感覚だけがあった。
「…これでええじゃろう。」
「何をしたの?」
「なに。大したことはしていない。ただ、おぬしの目のこと、彼らが目覚めた時には覚えておらんじゃろうな。」
「なっ...」
女はそれ以上は語ることはなかった。
「おぬしが、カルマ・ミラ・フィーランじゃな?」
「なんで僕の名を...」
女が近づく。
視線が、すべてを見透かすようだった。
「わしはアリディア、コロラド連邦、ルードミリシオンを拠点にしておる。何か困ったことがあれば、訪ねると良い。」
女はにこりとカルマに優しい笑顔を向けると、立ち上がり、歩き出す。
「強くなれ、運命の子よ」
意味は分からない。
だが、その言葉だけが胸に残った。




