2-1「森の住人⑤」
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しばらくして、カミルはゆっくりと目を開けた。
「……ここは」
「おお、カミル。わかるか?」
「あれ?……長老?」
混乱した様子で周囲を見渡す。
長老は、これまで自我を失い暴れていたことを静かに説明した。
「私は……取り憑かれていたのか?」
驚くほど落ち着いた声だった。
「いや、取り憑かれてなんかいないよ」
カルマが答える。
「ボス、カミルはどういう状態だったんです?」
「昔、知り合いの魔術士から聞いたことがある。
悪魔憑きや呪いって言われるものの多くは、魔術か――魔力の暴走だって」
「魔力の暴走……」
「ハウロス、君は魔力のコントロールが上手いよね?」
「まあ……それくらいしか取り柄がないので」
「魔力は魔術士だけのものじゃない。誰の体にもある。
魔術士はそれを意識的に使うけど、普通の人も無意識に少しずつ放出してる。余った魔力を自然に逃がしてるんだ」
「それが……?」
「カミルは体内の魔力量が、たぶん普通よりかなり多い」
「私が……?」
「でもコントロールができていない。
発散が追いつかないと、魔力は溜まり続ける」
「……やがて?」
「限界を超えると、暴走する。
戦士の間では“狂人化”って呼ばれてる」
ハウロスの顔が強張る。
「英雄レインの……」
「うん。最終的には石化する」
集落の空気が凍る。
「だから急いだんだ。石化が始まる前に、魔力を抜く必要があった」
長老がその場に崩れ落ちる。
「カミルを悪魔憑きと決めつけ……石にしてしまうところだったのか……」
「ここは魔術が広まってないんだ。知らなくて当然だよ」
「ああ、長老のせいではない。これは私自身の未熟さだ」
「あの結界は?」
「あれは基礎結界術の抗魔結界。
対魔術士用で、内部の魔力を徐々に奪う結界だよ。本来は広範囲に張るものだけど……今回はカミルから魔力を奪えれば十分だったからね。」
「言ってくだされば俺も――」
「時間がなかったんだ。ごめん」
「助けてくれて、本当に感謝する」
「……ありがとう」
長老とカミルが、深く頭を下げる。
カルマは少し照れくさそうに笑う。
「うん。間に合ってよかった」
ハウロスが横で小さく息を吐く。
「さすがですね、ボス」
「たまたまだよ」
でもその目は、少しだけ誇らしげだった。
「カミル!」
駆け寄ってきたミドが、勢いのままカミルに抱きつく。
「心配をかけたようだな、ミド」
「……間に合ってよかった。あなたを失っていたら、ギルに顔向けできないわ」
「すまない。ありがとう」
「僕が一日で結界術を使えたのは、ミドさんのおかげなんだよ」
「どういうことです?」
ハウロスが首を傾げる。
「ミドさんは、この集落で唯一カミルの症状に気づいていた。そして対処法も知っていた。でも……」
「私は魔術士じゃない。結界を張れるほどの技量はなかった」
「そこにボスが現れた、と」
「そういうこと。ミドさんの知識と、僕の魔力コントロール。どっちかだけじゃ無理だった」
ミドが静かに頭を下げる。
「カルマ君。ありがとう」
「大丈夫だよ。役に立ててよかった」
カルマは少し照れたように笑った。
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その晩、ゲド族は宴を開いた。
焚き火がいくつも灯り、肉が焼かれ、酒が回る。
歌声と足踏みの音が森に響いた。
引きこもっていたミドまでもが杯を掲げ、顔を赤くして笑っている。
「ボス、旅って悪くないですね」
「そうだね」
カルマは火を見つめながら、小さくうなずいた。




