2-1「森の住人⑥」
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翌朝。
荷を背負い、家を出たところでカルマは足を止める。
「……お?」
扉の前に、カミルが立っていた。
「君に一つ、お願いがある」
「なに?」
「私と、もう一度戦え」
「え?」
「私は戦士ギルの妹だ。そんな私が、意識のないまま敗れたままでいいはずがない」
「勝つために戦ったわけじゃないし、君も正気じゃなかったよ?」
「だからこそだ。今度は意識ある状態で、正々堂々と」
「僕にメリットないよね……」
「確かにそうだな。なら、私が負けたら、君の従者になろう」
「お、従者ゲットのチャンスですね!」
「いらないよ従者……」
長老が苦笑する。
「申し訳ない。カミルは言い出したら聞かぬのだ」
カミルが長老の方へ振り返る。
「“アレ”はあるか?」
「ああ。持ってこよう」
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森の開けた場所。
向かい合う二人。
「それが“アレ”か」
「ああ。私の双刃弓だ」
大きな弓。その両端には刃が仕込まれている。
射撃も斬撃も可能な武器。
「戦うなら、本気でいくよ」
「望むところだ」
……
2人は集落の広場で武器を構える。
風が抜ける。
「――いくぞ」
カミルは双刃弓を構え、カルマへ一直線に走る。
「……!?」
そのまま、弓の両端についた刃を思い切り振り抜く。
カルマは後方へ跳び、間一髪でかわす。
「近距離はないと思ったかい?」
カミルは勢いのまま身体を回転させ、両刃で連続して斬りかかる。
それは鋭く速い刃であった。
カルマは足さばきで距離を保ちながら、ぎりぎりで避け続ける。
(確かに速い……けど、この距離は——)
腰の剣を強く握る。
「魔剣術
炎
抜ノ型
炎閃斬」
炎を纏った抜刀が閃く。
カミルは瞬時に双刃弓で受けるが——
衝撃に押し負け、大きく吹き飛ばされた。
何度か地面を転がり、膝をついて着地する。
「……さすがに重いな」
カルマは一気に距離を詰める。
その瞬間——
一本の矢が、頬をかすめた。
「!!?」
「気をつけないと、穴が開くよ」
いつの間にか弓を構えている。
放たれた矢は、他のゲド族のものとは明らかに違う。
速い。鋭い。視界に捉えることができないほどに。
「見えなかった……」
カルマは剣を構え直し、カミルの動きに集中する。
矢が放たれる。
今度は見切り、剣で弾く。
「ほう……私の矢を見切るか。なら、これならどうだ?」
強く引き絞る。
放たれる矢。
カルマはそれをも捉え、斬る。
「……がっ!?」
矢を切り伏せたはずが、カルマの肩が裂け、血が滲む。
「まさか……二本?」
「ふふっ。次は防ぎきれるかな?」
カミルは、再び二本の矢を同時に番える。
カルマは静かに剣を腰に納めた。
「なんだ? 諦めたのか?」
カミルは警戒しつつも、限界まで弓を引く。
指先から血が伝う。
「行くぞ!」
二本の矢が放たれる。
その矢は風を巻き込みながら鋭く回転し、カルマへと向かう。
(避けなければ、致命傷——)
だが、カルマは動かない。
「……!?」
すると、矢は突然、カルマに届く直前で凍りついた。
白い霜を纏い、軌道を逸らし、背後へと落ちる。
「魔剣フリージア……
魔剣術
氷
構ノ型
霜天の構」
「何が起こったかわからんが、矢がだめなら直接叩く!」
カミルは地を蹴る。
カルマは腰の剣を握り構えたまま動かない。
「隙だらけだぞ!」
双刃弓が振り上げられる。
「——!?」
その足元が、音もなく凍りついた。
氷は足から膝へ、腰へと一気に駆け上がる。
「くっ……なんだ……!」
次の瞬間、カミルの身体は完全に氷に閉ざされた。
そして——
カルマを中心に、周囲の地面、草木までもが白く凍りついている。
「ほいっ、終了。」
カルマは軽く手をかざし、カミルを覆っていた氷を溶かした。
「っ……はぁ……はぁ……」
氷が崩れ落ち、カミルはその場に手をつき荒く息をつく。
「悪かったな。氷漬けにして。」
「ふっ……私の負けだな。何だ、今の技は」
「魔剣術
氷
構ノ型
霜天の構。
僕を中心に強い冷気を放つ技だよ。近づけば近づくほど、瞬時に凍りつく」
「それで矢も私も、お前に近づいた途端に……か」
「まぁね」
カミルは悔しそうに笑う。
「では……約束通り、君の従者になってやろう」
「いや、だから従者はいらないって……」
「それでだ。私も君の旅についていこう」
「……はい?」
「従者なのだから主に付いていくのは当然だろう?
それに、君は戦士になるんだろ? ならば私の目的とも合致する」
「どういうこと?」
「カミルは兄のギルを追って、戦士になることを目指していたのです」
長老が静かに告げる。
「そういうことだ。それに、君についていけば暴走する危険も少ないだろう?」
「まあ……それは確かに」
「では改めて。カミルだ。ゲド族にミドルネームはない。十三歳だ。よろしく頼む」
「十三歳じゃ戦士になれないじゃん」
「君もそう変わらないだろう?」
「十二だけど……」
「何はともあれ、従者が増えて良かったですねボス!」
「よくないよ……」
こうしてカルマの一行に、弓使いのカミルが加わった。
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出立の日。
長老やゲド族の者たちが見送りに集まる。
「長老、お世話になりました」
「こちらこそです。カミルが迷惑をかけるやもしれませんが……」
「迷惑などかけんよ」
「カミル、本当にすまなかったな」
「私の未熟さのせいだと言っただろう」
「何かあれば、いつでも帰ってくるのだぞ。ここはお前の故郷なのだから」
カミルは照れくさそうに笑って背を向ける。
そのカミルを想う長老の姿が、カルマには自分が旅立った日のティリエと重なって見えた。
「じゃあ行ってきます。色々ありがとう」
「どうかご無事で。道中お気をつけください」
三人は手を振り、ラダの森へと足を踏み入れた。
新たな仲間とともに、ミルズ王国へ向けて——。




