2-1「森の住人④」
⸻
その頃。
ハウロスは落ち着かず、長老の家を訪ねていた。
「長老、うちのボスは……」
「ああ、あそこですよ。」
木上の家を指差す。
「あそこに何が?」
「ミドの家です。魔導書を探しておられたのでな。」
(なぜ魔導書を……?)
「ゲド族にも魔術士が?」
「いや、ミドは魔術士ではありません。魔術を“学んでいる”だけです。」
「どうして?」
「ギルを探すためです。」
「……カミルの兄でしたか。」
「ええ。十年前に旅立ったきり、消息不明。ミドはギルの幼馴染でした。」
長老は静かに続ける。
「最近は部屋にこもり、魔術の知識ばかり集めております。」
戦士になる者は多い。
だが、名を上げる者はほんの一握り。
ギルほどの腕があっても、埋もれてしまうことはある。
ハウロスは木上の家を見上げた。
(ボス……何をしようとしているんだ)
だが、あえて踏み込まず、部屋へ戻ることにした。
⸻
カルマは陽が落ちてから戻ってきた。帰るなり借りてきた魔導書を広げ、灯りの下で黙々と読み続ける。
「ボス、まだ寝ないんですか?」
「ああ、ごめん。うるさかった? もう少ししたら寝るから、先に休んでて」
⸻
翌朝。
ハウロスが目を覚ますと、外が騒がしい。
嫌な予感がして横を見るが、カルマの姿はない。
「……まさか」
急いで外へ飛び出す。
集落の中央に人だかりができていた。ざわめきの中心にいたのは――カルマと、牢から解き放たれたカミル。
カミルはカルマに今にも飛びかかりそうな姿勢で、白目を剥いたまま唸っている。
「長老! これは……!」
「カルマ殿が朝早く来られてな……カミルを出してほしいと」
「なぜそんな……」
「悪魔を祓える、と」
「え?」
ハウロスは息を呑む。
(ボス……悪魔祓いなんて、どうやって――)
カルマは剣を抜かず、素手で構えている。
次の瞬間、カミルが地面を蹴った。
一直線に突っ込み、拳を振り下ろす。
拳が地面に叩きつけられた瞬間、轟音とともに土がえぐれた。
「……すごい威力だな」
カルマはカミルの上空へ跳躍し避けている。
空中で体勢を整え、手をかざす。
「炎の玉」
二発の炎弾が一直線に飛ぶ。
「うがぁぁ!」
カミルはそれを拳で弾き飛ばし、再びカルマに向かって跳躍する。
「炎の鞭」
カルマのてから炎が紐のように伸び、カミルの体を絡め取る。勢いを殺し、そのまま地面へ引き戻す。
着地と同時に左手を地面へ。
「範囲氷結」
足元が瞬時に凍りつき、動きを封じる。
「氷の鞭」
炎の鞭が凍り、強固な氷となって体を固定する。
完全に拘束。
それでもカミルは唸り、暴れ続ける。
「よし……これで」
カルマはゆっくりと歩み寄る。
ミドから借りた魔導書を取り出し、剣を抜く。そしてカミルの足元の地面を、一定の形で削り始めた。
「ボス! 何を――!」
「大丈夫。……まぁ、見てて」
集落の者たちが固唾をのむ。
カルマの刃が地面に刻むのはただの線ではなかった。
何かの図形を描いている。
静まり返った空気の中、カミルの唸り声だけが響いていた。
カルマが剣で削った跡は、魔法陣だった。
カミルを囲うように、正確な線が地面に刻まれている。
「あれは……結界術の魔法陣?」
カルマは一歩下がり、手をかざす。
「――抗魔結界」
足元の魔法陣が淡く光を放つ。
光は円を描きながら立ち上がり、やがて水晶のような半透明の殻となってカミルを包み込んだ。
「うぅ……う……」
暴れていたカミルの動きが、徐々に鈍くなる。
やがて力が抜けるように、その場に崩れ落ちた。
眠るように、意識を失う。




