16.記憶のこと②
カルマはその頃、森の奥地にて剣を握り魔獣の屍の山の上に立っていた。
「もう少しなんだ……」
カルマはフィルスの元を離れてから魔獣を倒し続けていた、フィルスに言われた剣の重さを得るために。
カルマは少し眩暈がし魔獣の上で足を滑らす。
「うわっ」
疲れ切ったカルマは地面に落ちていく。
目を開けるとそこは以前にも来た白い世界で倒れ込んでいた。
「よう」
声の先にはカルマと同じ顔の青年の姿が
「思い出したか?」
「いやわからないんだ。」
「そうか。」
「君の名前は?」
「俺?……」
青年はそういうと口籠る。
「……?」
「俺はリョウタだ」
「リョウタ……?」
カルマは目を覚ました。魔獣の上から足を滑らしたカルマは地面に膝をついていた。
「涼…太?」
カルマは目を見開き、地面を見る。カルマはぼんやりと思い出した。
彼はきっと僕だ。いや、僕になる前の…前世の記憶。
「僕は生まれる前、違う世界に住んでいた…」
カルマは頭の中にある、自分ではない自分の記憶に驚いた。だが、同時になぜか冷静だった。
生まれる前の記憶を思い出した話など聞いたことがない。そもそも生まれ変わりや前世などが他の人にも存在するのか、自分だけのことなのか。
だが、どんなに前世の記憶を思い返しても、カルマはカルマだった。まさにその記憶は自分のものではない他人の記憶でしかなかった。
だがしかし、何だろうこの記憶は、強い後悔を感じる。
あの夢に出てきた女の人は、多分母親だ。
この気持ちはきっと母親に対する強い謝意と後悔だった。
カルマの頭にバトロフとティリエの顔が思い浮かぶ。
「ちゃんと親孝行しないとな…」
そんなことを呟きながら疲れ切った体を休めるため、
カルマはそのままその場で目を閉じた。




