1-6「フィルスの昔話②」
「……じゃあその後、どうやって魔人軍に対抗したの?」
「そこで立ち上がったのが賢人ルドラだ」
フィルスの目が、遠くを見る。
「ルドラは《緋衣の十魔》のうち三柱を討った。
魔人軍が立て直しを余儀なくされるほどの打撃だった」
カルマはごくりと唾を飲む。
「……フィルスは、その弟子だったんだよね」
「ああ」
短い返答。だがそこに、誇りと――わずかな悔恨が滲んでいた。
「ルドラはな……強かった。だが、それ以上に――世界を救う覚悟を持っていた。」
カルマは知らず、拳を握っていた。
過去の戦い。
不老の神嶺。
消えた英雄。
それらが、どこか自分の人生と繋がっているような気がしてならなかった。
「私が奴の弟子となったのは、幹部の一柱を倒した後くらいだったかな」
「へぇ。賢人ルドラかぁ。」
カルマは目を輝かせる。続きをせがむ子どものように。
「私は二番目の弟子だった。私が入った時には、すでにアリディアという魔術士の娘がいた」
「え!? アリディアさん?」
「知っているのか?」
「前に、この目のことで街で騒ぎになった時に助けてもらって……」
「そうか。偶然だな」
フィルスは小さく鼻を鳴らす。
「まぁいい。あいつの話をしても面白くはない」
「仲悪いの?」
「あいつはいつも私の性格面のダメ出しばかりしてきたからな」
「喧嘩ばかりしてたんでしょ?」
「いや。奴は喧嘩を売っても、すかして受け流す。だから大した喧嘩にはならなかった」
「ふふ、仲良いんだね」
「ただの同僚だ」
言い切るが、わずかに目を逸らした。
「あと一人、弟子がいるんだっけ?」
「……ああ。ルドラには三人の弟子がいた。三番目はルドロス。魔術剣士だ」
「その人は今どうしてるの?」
その瞬間。フィルスの空気が変わった。
握りしめられた拳。静かな怒り。
「……奴のことはいずれ話す」
低い声だった。
カルマは聞いてはいけないことを聞いたのかと思い、それ以上踏み込まなかった。
「それで、ルドラのさいごは……?」
フィルスはゆっくり息を吐いた。
「私やアリディアは、それぞれ任務に就いていた。ルドロスも妻を娶り、独立していた」
淡々と語る。
「十六年前。ルドラは単独行動中を狙われた」
空気が冷える。
「緋衣の十魔が二柱。そのうち一柱は三大魔人――天魔ヴォレア」
……
「ルドラは一柱を討った。だが……天魔ヴォレアに殺された」
……
「私は間に合わなかった」
フィルスの声がわずかに震えた気がした。
「到着した時には、もう……」
フィルスはそこで言葉を止めた。怒りか、悔恨か、それとも両方か。
「フィルスは……緋眼の魔人と戦うの?」
静かな問い。その問いにフィルスは口元を歪めた。
「私は、師の復讐に燃えるほどできた弟子ではない。
だが、現役の間に相対することがあれば――斬る」
その言葉に迷いはなかった。
カルマはまっすぐ言う。
「なら、僕も戦うよ」
フィルスはその言葉を聞いて目を細める。
「兄さんに言われたんだ。僕はきっと、緋眼の魔人と戦う運命にあるって……兄さんも、フィルスも戦うなら――僕も一緒に戦う」
「ふっ。小僧のくせに大きなことを言う」
だが、その目はどこか嬉しそうだった。
「なら、もっと強くなれ。今のお前では足手まといだ」




