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5周目の人生で異世界を救った話   ~5人目の転生者を英雄へと仕立て上げる兄と、仕組まれた運命に抗う少年~  作者: MINMI
一章 平和の国カストリア編

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1-5「応徳魔術②」


_____

******

(フィルスの回想)


 フィルスがまだ八歳だった頃。


 平原で木剣を構える少女フィルスと、同じく弟子の少年ルドロスが向き合っていた。


 ルドロスは剣を振りながら、空いた手で氷魔術を放つ。


 フィルスはそれを躱し、一瞬で背後へ回り込む。


「いたぁ!」


「ははは! 私の勝ち!」


「くっそー……」


「ルドロスは魔術を使うと隙ができるからな。気をつけた方がいいよ」


「うっさいわ! 怪力女!」


「なんだと! このへたれ男!」


 二人はすぐに掴み合いの喧嘩を始める。


「ねぇ先生、またやってるよ」


 少し離れた場所でその様子を見ていたのは、賢人ルドラと、もう一人の弟子――アリディアだった。


 穏やかな声音とは裏腹に、その瞳は冷静に二人の動きを観察している。


「はは、まったく……」


 賢人ルドラは苦笑しながら立ち上がった。


「こらこら、やめなさい」


 ルドロスの肩に手を置く。


「フィルスは君のためを思って言ってくれたんだ。ひどいことを言ってはいけないよ」


「……はい」


 次にフィルスの前にしゃがみ込む。


「フィルス、君も応戦しないことだ」


「でも本当のことだもん。ルドロスは魔術の後に隙が――」


 ルドラは優しくフィルスの頭に手を置いた。


「フィルスは相手をよく見ているね。

将来、私のように弟子を取ることになったら、きっと良い師匠になるだろう」


「私は死ぬまで戦士だから、ししょーにはならないよ」


「はは、そうか。だが師匠も悪くないものだぞ。君たちの色んな表情が見られる」


「そんなの見てもつまんないよ」


「そうか。でも、きっとわかる時が来るさ」


***

(回想終了)



 

 フィルスはカルマの頭に手を置く。


「まぁ……確かに、悪くはないものだな」


「ん? なにが?」


「うるさい」


「いてっ!」


 ______


 それからも戦闘訓練の日々は続いた。


 カルマの動きは、修行開始前とは比べものにならないほど洗練されていく。

 それは修行の成果だけではない。


 前世の記憶を取り戻したことも、大きく影響していた。


 剣も魔術も存在しない世界だった。

 だが、二十年近く身体を使って生きてきた感覚――走り、転び、踏ん張り、避けるという基礎的な身体操作の積み重ねが、今のカルマの肉体に重なっていた。


 異世界の少年と、かつての小林涼太。


 二つの人生が、少しずつ一つの動きへと融合していく。


 その剣は、以前よりも確かに――重みを帯び始めていた。


______

 

 

 今日も、カルマとフィルスは向かい合い、剣を構える。


 静寂。


 先に動いたのはカルマだった。


火の玉(エドラー)!」


 複数の火球が一直線にフィルスへ放たれる。


 フィルスはそれを最小限の動きで躱す。だが――


 カルマは、避ける先を読んでいた。


 炎を纏わせた剣を振り上げ、回り込む。


「魔剣フレイア!」


 回避の着地点へ、炎の刃が迫る。


「ほう」


 だがフィルスは地面へ魔力を流す。


 瞬間、氷柱が地面から隆起し、その反動で身体を滑らせるように軌道を変える。


「あっ、くそ!」


 刃が空を裂く。


 直後、両者の剣がぶつかり合った。


 炎と鋼が火花を散らす。


 重い――


 フィルスの剣は、まるで岩を叩いているかのような圧。


 カルマも歯を食いしばり押し返す。


 だがフィルスは一度距離を取る。


 フィルスの足元に魔力が集中する。


 嫌な予感が、肌を刺した。


 次の瞬間。


 フィルスの姿が視界から完全に消える。


「なっ――」


 背後、横、そして正面からと、

 超高速の移動と同時に、連撃が叩き込まれる。


「剣術:神速乱舞」


「ぐっ……!」


 カルマは剣で急所を庇いながら耐える。


 だが、最後の一突きが腹部に叩き込まれた。


 衝撃が身体を貫く。


 カルマの膝が静かに折れる。


 ――終わりだ。


 ……そう思った瞬間。


 カルマの左手が、フィルスの剣を掴んだ。


「……やっと、隙ができた」


 右手の剣には、既に炎が灯っている。


 カルマは瞬時に右手を動かし、フィルスに向かって薙ぎ払う。


「ぐっ!」


 フィルスは上体を逸らす。


 静かに空転したかのように思えたが、フィルスの頬には一筋の赤い線が刻まれている。

 

 少しの沈黙が二人を包む。


「あ……」


 カルマの声が震える。


 フィルスは指で頬を拭い、薄く笑った。


「終わりだな」


「え……?」


「私に一撃を与えた。合格だ」


「……や、やったー!終わったー!」


 力が抜ける。


「まあ、実戦では使えん手だがな。刺される前提など論外だ」


「うん……でも、フィルスの隙を作るには、あれしか思いつかなかった……」


 その言葉を言い終えると同時にカルマは崩れ落ちる。


「お、おい!」


 その顔には苦悶の表情はない。


 すー……すー……


「……寝ているのか」


 フィルスは小さく息を吐く。その少年の寝顔は年相応の愛らしい寝顔だった。


「……ダグラスの奴が言っていたことも、あながち間違いではないか」

 

 フィルスは小さく鼻を鳴らし、少年を担ぎ上げた。



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― 新着の感想 ―
基礎魔術は研究され尽くしているから応徳魔術が必要という考え方が、とても納得がいきいいと思いました。
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