1-5「応徳魔術②」
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(フィルスの回想)
フィルスがまだ八歳だった頃。
平原で木剣を構える少女フィルスと、同じく弟子の少年ルドロスが向き合っていた。
ルドロスは剣を振りながら、空いた手で氷魔術を放つ。
フィルスはそれを躱し、一瞬で背後へ回り込む。
「いたぁ!」
「ははは! 私の勝ち!」
「くっそー……」
「ルドロスは魔術を使うと隙ができるからな。気をつけた方がいいよ」
「うっさいわ! 怪力女!」
「なんだと! このへたれ男!」
二人はすぐに掴み合いの喧嘩を始める。
「ねぇ先生、またやってるよ」
少し離れた場所でその様子を見ていたのは、賢人ルドラと、もう一人の弟子――アリディアだった。
穏やかな声音とは裏腹に、その瞳は冷静に二人の動きを観察している。
「はは、まったく……」
賢人ルドラは苦笑しながら立ち上がった。
「こらこら、やめなさい」
ルドロスの肩に手を置く。
「フィルスは君のためを思って言ってくれたんだ。ひどいことを言ってはいけないよ」
「……はい」
次にフィルスの前にしゃがみ込む。
「フィルス、君も応戦しないことだ」
「でも本当のことだもん。ルドロスは魔術の後に隙が――」
ルドラは優しくフィルスの頭に手を置いた。
「フィルスは相手をよく見ているね。
将来、私のように弟子を取ることになったら、きっと良い師匠になるだろう」
「私は死ぬまで戦士だから、ししょーにはならないよ」
「はは、そうか。だが師匠も悪くないものだぞ。君たちの色んな表情が見られる」
「そんなの見てもつまんないよ」
「そうか。でも、きっとわかる時が来るさ」
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(回想終了)
フィルスはカルマの頭に手を置く。
「まぁ……確かに、悪くはないものだな」
「ん? なにが?」
「うるさい」
「いてっ!」
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それからも戦闘訓練の日々は続いた。
カルマの動きは、修行開始前とは比べものにならないほど洗練されていく。
それは修行の成果だけではない。
前世の記憶を取り戻したことも、大きく影響していた。
剣も魔術も存在しない世界だった。
だが、二十年近く身体を使って生きてきた感覚――走り、転び、踏ん張り、避けるという基礎的な身体操作の積み重ねが、今のカルマの肉体に重なっていた。
異世界の少年と、かつての小林涼太。
二つの人生が、少しずつ一つの動きへと融合していく。
その剣は、以前よりも確かに――重みを帯び始めていた。
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今日も、カルマとフィルスは向かい合い、剣を構える。
静寂。
先に動いたのはカルマだった。
「火の玉!」
複数の火球が一直線にフィルスへ放たれる。
フィルスはそれを最小限の動きで躱す。だが――
カルマは、避ける先を読んでいた。
炎を纏わせた剣を振り上げ、回り込む。
「魔剣フレイア!」
回避の着地点へ、炎の刃が迫る。
「ほう」
だがフィルスは地面へ魔力を流す。
瞬間、氷柱が地面から隆起し、その反動で身体を滑らせるように軌道を変える。
「あっ、くそ!」
刃が空を裂く。
直後、両者の剣がぶつかり合った。
炎と鋼が火花を散らす。
重い――
フィルスの剣は、まるで岩を叩いているかのような圧。
カルマも歯を食いしばり押し返す。
だがフィルスは一度距離を取る。
フィルスの足元に魔力が集中する。
嫌な予感が、肌を刺した。
次の瞬間。
フィルスの姿が視界から完全に消える。
「なっ――」
背後、横、そして正面からと、
超高速の移動と同時に、連撃が叩き込まれる。
「剣術:神速乱舞」
「ぐっ……!」
カルマは剣で急所を庇いながら耐える。
だが、最後の一突きが腹部に叩き込まれた。
衝撃が身体を貫く。
カルマの膝が静かに折れる。
――終わりだ。
……そう思った瞬間。
カルマの左手が、フィルスの剣を掴んだ。
「……やっと、隙ができた」
右手の剣には、既に炎が灯っている。
カルマは瞬時に右手を動かし、フィルスに向かって薙ぎ払う。
「ぐっ!」
フィルスは上体を逸らす。
静かに空転したかのように思えたが、フィルスの頬には一筋の赤い線が刻まれている。
少しの沈黙が二人を包む。
「あ……」
カルマの声が震える。
フィルスは指で頬を拭い、薄く笑った。
「終わりだな」
「え……?」
「私に一撃を与えた。合格だ」
「……や、やったー!終わったー!」
力が抜ける。
「まあ、実戦では使えん手だがな。刺される前提など論外だ」
「うん……でも、フィルスの隙を作るには、あれしか思いつかなかった……」
その言葉を言い終えると同時にカルマは崩れ落ちる。
「お、おい!」
その顔には苦悶の表情はない。
すー……すー……
「……寝ているのか」
フィルスは小さく息を吐く。その少年の寝顔は年相応の愛らしい寝顔だった。
「……ダグラスの奴が言っていたことも、あながち間違いではないか」
フィルスは小さく鼻を鳴らし、少年を担ぎ上げた。




