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07:誤算(1)


 馬車の中と良く似た作りの、小さな部屋の中。


「―――本当にもう、チセ様は…!」


 そう言って声を詰まらせ、両手で千瀬の手を握り締めるジゼルの手は冷たく、小刻みに震えていた。


「……ごめんなさい」

「ごめんなさい、じゃすみませんよ! どうしてドラクーン行きをお一人で決めてしまわれたんですか!」

「それは、」

「理由は先程チセ様ご自身から聞きました。でも、そんな取引を飲む程思い詰めていらっしゃったのなら、せめて、皇子の取引に応じる前に一言ジゼルに話してくださっても……」

 涙に潤んだ目で握った千瀬の手をぶんぶんと振るジゼルに、言葉を返そうとしたその時。

 ぱさりと布を捲る音がして、皇子―――クラウスが現れた。

「――随分と賑やかだな、侍女殿は。普段からこのように?」

「ああ、いえ、これは……」

 説明しようとした千瀬の言葉に続けるように、

「沢山喋って恐怖を紛らしているのです!」

 自分で答えたジゼルに、千瀬は「やっぱり」と苦笑する。

「恐怖? 何が怖いんだ?」

「何って、何もかも……!」

「ジゼルはあまり、高いところが得意ではないので」

 苦笑混じりに説明して、千瀬は震えるジゼルの手を宥めるように撫でる。

「大丈夫よ、ジゼル。落ちないから――…多分」

「多分じゃ困ります! た、ただでさえ、竜の背だなんて恐ろしい場所に……」

 言い掛けたところで、部屋が小さく揺れ、ジゼルは「ひい」と悲鳴を上げた。

 今、千瀬達がいるのは、巨大な竜の背に据えられた箱型の小部屋のような空間だ。

 竜騎士は竜の首の辺りに特殊な形の鞍を付けて跨るのだが、これは竜に乗り慣れない者や一度に複数の人間を乗せる為に作られた、屋根のある荷台のようなものらしい。

「……侍女殿。竜は決して恐ろしい生き物ではないし、落ちることも絶対に無い」

 苦笑混じりにそう言って、クラウスは千瀬の向かいに腰を下ろす。

 ダークブラウンの髪に、紫色の瞳。

 目の前に座った男は、間違いなく王宮のホールで対峙したドラクーン皇国第一皇子だ。


 ――……私、本当にこの人の「取引」を受け入れたんだ。


 皇子の取引に応じてドラクーン皇国行きを決断したのは自分自身だというのに、未だに現実味が薄いように感じるのは、話が決まってからの展開があまりにも早かったからだろうか。




 記念式典に突然現れたドラクーン皇国第一皇子、クラウス。

 彼に耳打ちされた取引に千瀬が頷いてからの展開は、とにかく早かった。


 そうと決まれば今から国へ、と言い出した皇子に、まず傍にいたジゼルが「チセ様お一人で行かせる訳にはいきません」と言い出し。

 自分も付いて行くと言い張るジゼルを、皇子は二つ返事で「構わない」と受け入れた。

 元々、千瀬が望めば従者も同行させるつもりだったらしい。


 千瀬の事を気に入ってくれていたイサベラ妃は、拍子抜けしたような表情で顔を見合わせるばかりの三人の王子達に「チセがドラクーンに奪われても良いのですか」と腹を立ててくれたが。

 まあ、一度は寵姫として王宮に囲い込んだものの、今となってはどうでも良い存在となった千瀬のことは王子達も扱いに困っていたのだろう。

 だから、クラウスの要求は渡りに船というやつだったのかもしれない。


 ―――無理強いはしない。お前が嫌だと言うのなら、我々も要求を飲まずに済むようドラクーンと話し合おう。


 何の感慨も感じられない声で投げられた第二王子アドルフの問いに、千瀬は、ご迷惑は掛けられませんのでドラクーンへ行きます、と答えた。

 王子達は、千瀬とクラウスの間で交わされた取引を知らない。

 自国の為に千瀬が犠牲になる道を選んだと思ったのか、千瀬の答えにほんの少しだけ気まずそうな顔を見せたが、やはりその表情に浮かぶのは、安堵の色の方が強かった。







大変お久し振りで恐縮です(汗)


短いですが、少しだけお話を進めさせて頂きました。

8月中には連載を再開出来れば良いなと思っております…(>_<)

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