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「では改めて。ここに誕生した才溢れる宮廷画家と この心優しき幼子は、余の大切な孫娘と曾孫だ。皆の者、以後よろしく頼む」
国王が私とミカエルのもとへ歩みを寄せる。
「アトレイア、ミカエル。其方らが良ければ、今後は王宮で共に暮らさないか?
これからは我が妻や娘との思い出話を語り合いながら、王国の繁栄に想いを馳せよう。
もちろん、アトレイアにはこの国の良い面も正さなければならないことも、絵に記録してもらいたい」
彼はそう言って、私たち二人の頬に手を添えた。私はますます胸が熱くなる。
「ひっ、ひいおじいさま!」
「! おお、どうしたミカエル」
「僕、お母さんのことをしっかり守れる強い男になりたい。下町に住む貧しい人たちを助けてあげられるような、立派な大人になりたい!
だから、たくさん勉強させて下さい。強くなる方法を、ロイドさんたちからたくさん学ばせて下さい。厳しくても、弱音は絶対に吐かないって約束します……!」
「…………本当に、この子は」
国王は穏やかな笑みを浮かべながら、ミカエルの頭を優しく撫でた。
「よし、男に二言はないな?
アトレイアに絵の才があるように、ミカエルには人の上に立つ素質がある。余のもとでしかと学び、弱き人々を導き守れるような立派な人間になりなさい」
「はいっ……!」
ミカエルは満面の笑みで、国王に思い切り抱き付いた。
息子の言葉に成長を感じ、喜ばしく思っている反面、国王の懐に飛びつくのはさすがに失礼ではないだろうかと、少々冷や汗を垂らす私。
「ミ、ミカエル。陛下に失礼よ……!」
「良い良い。可愛い曾孫の温もりを感じられる日が来るとは、本当に夢のようだ」
「国王陛下……」
「アトレイア。其方にも "陛下" ではなく、"お祖父様" と呼んでもらいたいのだが?」
「?! ……お、お祖父様」
「うむ」
国王はとても満足そうに頷いた。
緊張の糸が解けた後は、鏡の間は大歓声に包まれる。
皆が新たなロイヤルファミリーの誕生を祝う中……
「して、ロイド」
国王は両手で私たち母子の肩を抱き寄せると、今度はロイドに向き直った。
「其方、アトレイアに何か伝えたいことがあるのだろう?」
国王の言葉に、私は目を丸くする。
伝えたいこと? 彼が、私に?
「……陛下はお気付きでしたか」
「とっくの昔にな」
すると、ロイドが決まりが悪そうに小さく息をつく。
「ですが、アトレイア殿は我がクルール王国の王女です。だから、俺がもっと武功を立てるまではと控えていたのですが……」
「ロイド。其方、戦場では我先にと率先して突撃してゆく潔さがあるというのに、こういったことにはめっぽう引き気味であるな」
「…………」
「アトレイアは聡く美しい。しかも、今後は宮廷画家として多くの貴族たちの目に留まることとなる。
ああ……そうなればこの子はきっと、次から次へとさまざまな色男から求愛されることに、」
「陛下、是非この場をお貸し下さい!」
ロイドが食い気味に国王の言葉を遮った。
私は困惑し、国王を見上げる。だが、彼はとても楽しそうにくつくつと笑っている。
「アトレイア殿!」
「は、はい」
ロイドがこちらへと歩いてくるので、それに合わせて私も彼へと歩み寄る。
「アトレイア殿、単刀直入に申し上げます。
どうか俺と……結婚を前提にお付き合いをしていただけませんか?」
「?!」
彼が私の前で片膝を着く。
「分かっています。貴女は王女で、俺は男爵家の二男、そして戦争孤児の身。
ですが十歳の頃に陛下に拾われ、本日まで王国騎士団で……」
「ロイド、ロイド。そんな前置きは後で良い。肝心なのは、其方がどれほどアトレイアのことを想うておるかだぞ」
背後から、国王がそう野次を飛ばしてくる。
ロイドは「くっ」と、再び決まりが悪そうな顔をしているが、私の方も驚きと緊張で心臓が爆発寸前である。
「アトレイア殿。貴女に初めてお会いした日を、俺は今でも鮮明に覚えています。……一年半前のことです」
「一年半前……?」
私は心臓を抑えつつも、思いを巡らせる。
忘れるはずもない。ロイドと出会ったのはハゼル町を一望出来る、あの小高い丘の上。私が絵を描くためによく訪れていた、お気に入りの場所だ。
けれど、あれは半年前のこと。
「あの丘の上で、アトレイア殿と言葉を交わした以前から、俺は貴女のことを知っていたのです」
「えっ……」
ロイドは話を続ける。
「一年半前。俺はシオンに連れられ、初めてハゼル町を訪れました。その時偶然、洗濯屋の前でたくさんの者たちに囲まれながら絵を描いているアトレイア殿を見かけたのです」
下町にいた頃。私は同僚たちにお願いされ、洗濯屋で使わなくなった古布と小さく砕いた木炭を使って、よくお絵描きをしていた。
同僚たちはそれをとても嬉しそうに受け取ってくれるものだから、こちらも描き甲斐があったし、何より本当に楽しかった。
「彼らと和気藹々《わきあいあい》と話しながらも真剣に絵を描くアトレイア殿の姿が、表情が、本当に美しくて……一目で心を奪われました」
ロイドはその後、私には息子がいること、そして、元夫に理不尽な離縁をされたこと、さらには王家の血を引いていることも知ったそうだが、気持ちは変わらなかったと言ってくれる。
「アトレイア殿の絵を描くことへの情熱、そしてミカエルを包む愛情の深さを、本当に尊敬しています。
この先はどうか、俺に貴女とミカエルを守らせて下さい。
お二人のことを、心から愛おしく思っています」
ロイドはそう言うと、片方の手を私へと差し出す。
「貴女が俺の思いを受けて下さるのなら……この手を取って下さい」
数時間前までの私は、あれこれと理由を付けてロイドへの思いを胸に仕舞い込もうとしていた。
一庶民が、とか、子供を持つ身が、とか。
けれど国王が言った通り、自身の心に忠実になることも、時には必要なのかもしれない。
彼が愛おしい。
そして、彼とミカエルが二人で笑い合う姿を見ることが、何より好きだ。
溢れる感情をなんとか抑えながら、私は差し出された手を取った。
「私も、貴方のことをお慕いしています。
……ありがとうございます、ロイド様」
そう言うと、ロイドは先ほどのように顔や耳を赤くしながら、唇を一文字にぎゅっと結んだ。
そして私の手に優しくキスを落とす。
「よし。では、愚息の恋も実ったところで、今日はお開きとしようかのう」
「お母さん、ロイドさんと結婚するの?! ということは、ロイドさんが僕のお父さんになってくれるってこと?!」
私とロイドはしばらくの間お互いを見つめ合っていたが、くつくつと笑い出す国王と、興奮冷めやらぬ様子で次々と質問を投げかけてくるミカエルの様子にはっとなり、二人揃ってさらに顔を赤く染めたのだった。




