表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
辺境伯夫人でしたが夫に浮気され捨てられましたので、宮廷画家に成り上がって人生再出発いたします  作者: カヤベミコ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
5/7

5

鏡の間に突然現れた、歴代王族の肖像画の数々。その中の とある一枚の絵画を見た時、私は今まで生きてきた中で最も衝撃を受けることとなった。



「白銀の髪に深紫こきむらさきの瞳。だが顔立ちは……アトレイア、君によく似ているだろう?

この肖像画の女性は、我が亡き妻。クルール王国の……先代女王だ」



だが同時に、国王のこの言葉に全てのピースが当てはまった気がした。


このキャンバスに描かれている女性は、実母に瓜二つ。そして髪色と瞳の色は、誰よりも愛してやまない我が子、ミカエルそのものだったから。



「驚かせてすまない。其方とミカエルを見つけ出すのが遅れたことも……其方の母親を守りきれなかったことも、本当に悔いている」



国王は目を伏せながら、過去の王家に何が起きたのかを話し始めた。


流行り病で先代女王が身罷みまかられた後、後継者を巡って内乱が起きたそうだ。

本来なら王位継承権・第一順位だった先代女王の一人娘、つまり王女殿下が新たな女王として即位するのだが、彼女を暗殺しようとする対立派の動きが活発になりすぎていたらしい。

そこで、当時王国騎士団の団長も兼任していた現国王が、懇意にしていた伯爵家に彼女を匿わせた。


王宮内には王女は先代女王と同じ流行り病で亡くなったと虚偽の話を流し、隙をついて対立派を弾圧した後、自身が国王に即位したそうだ。



「これで案ずるものは何もないと、我が娘を迎えに行ったのだが……あの子は伯爵家の跡取りと恋に落ちていた」



愛する娘がこの先平穏に暮らせるのならと、その身分違いの結婚を承諾し、陰から見守ってきたとのこと。

アトレイアが生まれたことももちろん知っているし、しばらくして王女が別の流行り病で亡くなったことも聞いていたのだそう。


だが、彼女の夫が別の女性と再婚したあたりから、伯爵家が連絡を寄越すのを渋るようになったらしい。



「其方の祖母も母親も、既に神に召されてしまった。今はもう、アトレイアとミカエルだけが……余の唯一の家族なのだ」



国王の白髪にはほんの少し、褐色の毛が入り混じっている。そして、彼の瞳は薄い翠緑色。


私は胸元にあるロケットペンダントに、そっと手を当てる。

実母と私は、この人の "色" を受け継いだのだ。



「……素晴らしい。実に素晴らしい!!」



だが。国王の穏やかな声をかき消すように、どこか興奮したような、高揚的な声が鏡の間に響いた。



「ああ、アトレイア……! やはり陛下の肖像画を描いたという画家は君だったのか! この絵を見た瞬間、すぐにピンときた。

君の素晴らしい絵の才能は、僕が誰よりも知っていたからね。


それに、僕の "妻" がこんなにも高貴な生まれだったとは……! ああ、どうか過去の愚かな過ちを許しておくれ、アトレイア!」



驚いたのも束の間。突然、押し寄せていた貴族たちの中からリカルドが飛び出し、私の腕を掴んできた。



「アトレイア……いや、王女殿下! 僕の愛する妻……!!」



彼は頬を紅潮させながら、ぐいぐいと身体をこちらへ近付けてくる。

不意の出来事に、私はさっと血の気が引いた。



「アトレイア殿から手を離せ! この方はお前のような人間が触れていい相手ではない!!」



だが、すぐにロイドが私とリカルドの間に入り、彼の手を引き離そうとしてくれる。



「お母さん!」



するとその時、鏡の間の扉がバンッ!と音を立てて開き、息子であるミカエルが飛び込んできた。



「お母さん、大丈夫?! お屋敷の中が急に騒がしくなって、なんだか胸騒ぎがして……って、おい! 僕のお母さんに何してるんだ!!」



この光景を目にしたミカエルは、すぐにこちらへと走ってきた。



「誰だよ、あんた! お母さんに何の用だ!」


「きっ、君は……」



ミカエルの登場に驚いたリカルドが、咄嗟に私の腕を離す。



「お母さん大丈夫?! 腕にあざが……」


「大丈夫よ、ミカエル。何も心配しないで。ロイド様も……お見苦しい所をお見せしてしまい、申し訳ありません」



ミカエルとロイドが心配そうな面持ちで私を見つめる。



「は……ははは! ミカエル、君がミカエルか! この僕にそっくりじゃないか……!!」



だがこちらの様子などまるで気にすることもなく、リカルドが高笑いをする。



「アトレイア……! どうして身籠っていることを教えてくれなかったんだい?!

この子は僕たちの愛の結晶だろう! そうだろう?!」


「……ナターシャはどうしたのですか」


「はっ、あんな女……!」



ナターシャのことを聞けば、リカルドの口からは次から次へと愚痴が溢れ始めた。


彼女は、私たち夫婦を嵌めるために妊娠を偽っていたそうだ。しかも辺境伯家へ入った後はやりたい放題に贅沢をしつくし、家の財産の底がつくまで食い物にしたとのこと。

結果、怒り狂ったリカルドと義父母により、貧民街へと放り出されたそうだ。

噂によると、現在は貧民街の一角で娼婦をさせられているという。



「僕が悪かった、アトレイア、ミカエル! もう一度、家族三人でやり直そう! 

……妻子がまさか、王家の血を引いていたなんて……ああっ、僕はなんて幸運な男なんだろう!!」



だが、リカルドがそう言葉を放った瞬間。



「言いたいことはそれだけか?」



ロイドが、リカルドの頬を拳で殴った。 

リカルドはその場から数メートル吹っ飛び、床へと倒れる。



「なっ……! 先ほどから何なのだ、君は! 僕はアトレイア王女の夫で、ミカエル王子の父親なんだぞ!」


「ほう、まだ戯言を言う元気があるのか。一発では足りなかったか?」



そう言ってロイドがリカルドに近付くと、彼は「ひぃっ」と小さく悲鳴を上げる。



「何か勘違いしているようだが、もうお前はアトレイア殿の夫ではない上、ミカエルとも何の関係もない。離縁は九年も前に既に成立している。


調べさせてもらったぞ。お前はすぐに頭に血が上る性格で、婚姻中は度々物に当たりアトレイア殿をおびえさせていたそうだな。


万が一、お前の投げつけた花瓶がミカエルを身籠る彼女に当たっていたとしたら? 

お前は王女殿下と王子殿下に……取り返しのつかない過ちを犯していたかもしれないんだぞ」



ロイドの地をうような低い声色と軽蔑の言葉に、リカルドの顔がみるみると青くなる。



「陛下、ご命令を」


「ふむ、では命を下す。騎士団員たちはすぐさま、この男を捕らえよ。

今後二度と、アトレイアとミカエルには近付けさせぬ!」



国王の厳格な声が鏡の間に響き渡ると、部屋はしんと静まり返った。



「この男の身辺は、アトレイアやミカエルのことがなくとも取り調べをさせるつもりであった。


辺境伯よ。其方はナターシャとかいう針子が作った莫大な借金を返済するため、自身の領民から随分と横暴な搾取を行なっていたらしいな。


彼らが嘆いていたぞ。アトレイアが其方に離縁され領地を去った後は、領民に充分な資金が回らず、貧しい生活を余儀なくされる者が多くなったと」


「領民たちはアトレイア殿の、領主の妻としての仕事に対する姿勢、倹約家ぶり、そして彼らへの配慮の数々を称賛していた。

ああ、言い忘れていたが、お前がここに滞在している間に領主の交代は終わっているぞ。今後はお前の従兄弟に当たる者が家を取り仕切るそうだ」



国王に続き、ロイドが言葉を足す。



「そして、領民たちよりアトレイア殿には言伝ことづてを預かっています。

どうか今度こそ、愛する方々と幸せになって下さい、と」



私は目頭が熱くなった。

辺境伯夫人だった頃、領地の女主人としての仕事は多く、責任が重かったのは事実だ。

それでも、家人や領民に助けられながら何とかやってきた。



「……いつか、彼らにもう一度会いたいものです」


「良いですね。その時は俺がお供します」



ロイドが軽く右手を上げると、騎士団員たちがリカルドの両脇を掴んだ。

項垂れていた彼は騎士団員たちに抱えられながら、鏡の間を後にしたのだった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ