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辺境伯夫人でしたが夫に浮気され捨てられましたので、宮廷画家に成り上がって人生再出発いたします  作者: カヤベミコ


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鏡の間にはそれはそれは大勢の、爵位持ちの貴族たちが集められていた。

公爵、侯爵、伯爵、子爵。もちろん、辺境伯も。



(やはり、来ているわ……)



私は思わず、小さくため息をつく。

予想通り、部屋の中には前夫であるリカルドもいた。

裏口から鏡の間へと入った私は、ショールでそっと顔を隠す。



(あら……ナターシャは今日、一緒ではないのかしら?)



通常、貴族がこのような社交の場に出席する際はパートナーを伴うものだが、リカルドは一人で来ているようだ。

彼は他の貴族たちと、私が描いた国王の肖像画をまじまじと眺めている。



「素晴らしい肖像画ですこと! 色鮮やかでとても美しいわ」


「従来の絵画とは違った、迫力ある斬新な描き方だ。これがモダンアートというものだろうか」



その時、絵を見ていた貴族たちの声が次々と耳に入ってきた。私はハッとなり、リカルドから彼らへと目を移す。



「噂によると、この絵を描いた画家は国王陛下のおかかびとではないそうよ。なら、わたくしの肖像画もお願い出来ないかしら?!」



……良かった。貴族たちの反応は上々のよう。今度はため息ではなく、安堵の息をつく。


後ろを振り返ると、同行してくれているロイドと目が合った。

彼は、「問題なかったでしょう?」と言わんばかりに頷いてくれる。



「皆の者、今日はよく我が邸へと参られた。余が画家に肖像画を描かせたのは実に三十年弱ぶりだ。……愛する妻子が余のもとを去って以来だ」



国王の妻とは、先代女王のこと。国王は公爵家出身で、先代女王のはとこに当たる人物だということは、この王国の誰もが知っていることだ。

先代女王が流行り病で身罷みまかられた後、国王が彼女の後を継いで即位したことも。


国王と先代女王の間には、確か一人娘の王女殿下がいたと聞いたことがあるが、彼女も先代女王と同じ、流行り病で亡くなったのだろうか。



「此度は余の肖像を描いてくれた才ある画家も、この鏡の間に呼んでおるのだが……

これ、アトレイアよ。主役が何故そんな部屋の隅にいるのだ」



王家の人々に想いを馳せていたその時。

突然国王に名前を呼ばれ、私は思わず固まった。



「まあ良い。紹介しよう、彼女がこの素晴らしき絵を描いた画家、アトレイアだ」



国王の目線を追って、貴族たちが一斉にこちらへと視線を投げかけてくる。



「描かれた絵画は色鮮やかで大胆、だかとても繊細で細部まで抜かりがない。それに耳を澄ますと、キャンバスの中からモチーフの息遣いが聞こえてくるような、なんとも不思議な感覚さえ味わえる」



国王は私と肖像画を交互に見やりながら、深く深く頷いている。



「彼女の才能は其方がたも認める通り。

余は今後、このアトレイアを王国の宮廷画家に任命したいと思うておる」


「?!」



さすがに驚いて、今度は肩が跳ね上がってしまった。

実家に疎まれ、前夫にも捨てられ、そして今や下町の洗濯屋に勤める、ただの一庶民。

そんな私が、まさか王家の専用画家に指名される日が来るなんて。


私は再びロイドへと目を向ける。



「アトレイア殿。戸惑われていることと思いますが、陛下は貴女の絵を、そして何より貴女とミカエルの誠実さを、とても高く買われています。

今後は宮廷画家として、我が王国の生き様を後世に伝える手助けをしていただけませんか?」



私が不安な面持ちをしてしまっているせいか、ロイドはこちらへと歩みを寄せると、本日何度目かの柔い笑みを見せてくれる。



(……私の絵が、王国の未来に役立てるのなら)



手のひらをぎゅっと握りしめ、一度深呼吸をする。そして。



「謹んで、お受けいたします」



そう答えると、鏡の間にいた貴族たちが歓声を上げた。



「素晴らしい宮廷画家の誕生だ!」


「ええ! でも、アトレイア様が王家の専属になられる前に、わたくしの肖像画も是非描いていただきたかったわ……!」


「そうね。……あら! でも、彼女が以前に描かれた他の絵が残っているかもしれなくてよ! もしあれば是非とも購入したいわ!」


「私もだ!」

「わたくしも!」



次々とこちらに押し寄せてくる貴族たちを、ロイドを始め、部屋の見張りをしていた騎士団員たちが慌てて止めている。



「落ち着くのだ、皆の者。アトレイアが宮廷画家になるという承諾を得られたところでもう一つ、披露したいことがあるのだ」



国王の言葉に、今度は少し怪訝そうにざわつき始める貴族たち。



「ではロイド、頼んだぞ」


「はっ! では第一部隊、この鏡の間を "真の姿" に変えよ!」



国王の命令にロイドがそう呼応すると、騎士団員たちが鏡の間の壁となっている、幾枚の鏡の片側押し始める。すると……



(?! 鏡が白い壁に変わった……!)



壁に貼り付けられた鏡たちが、まるで回転扉のようにくるりと周り、次々と白い壁になり変わっていく。しかも。



(絵……? 全て肖像画だわ)



その白壁には所狭しと、さまざまな人物像の絵画が飾られていた。しかも、描かれている人々はどう見ても……



「この肖像画のモデルたちは全て、我が王家の血筋の者たちだ」



やはり。私は納得しつつも、その肖像画たちを見回した。

絵具が少々劣化している古いものから、色味が鮮明に残る比較的新しい絵画まで、さまざまなものがある。


……だが。その中に掲げられた、"とある一枚の肖像画" を見つけた途端、私は目を大きく見開くこととなる。



「アトレイア。其方が今、目を奪われている絵はこれかな?」



国王が静かに、そして迷うことなく、ある絵画のもとへと歩いていく。



「白銀の髪に深紫こきむらさきの瞳。だが顔立ちは……アトレイア、其方によく似ているであろう?



この肖像画の女性は、我が亡き妻。クルール王国の……先代女王だ」


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