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辺境伯夫人でしたが夫に浮気され捨てられましたので、宮廷画家に成り上がって人生再出発いたします  作者: カヤベミコ


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こうしてあっという間に半年が過ぎた。

油絵のためかなり時間がかかってしまったが、国王の肖像画は私的にもとても満足出来る一枚に仕上がった。



「アトレイア殿、陛下がお呼びです。鏡の間には既に、大勢の貴族たちが集まっております」


「……分かりました」




宮殿の中庭にあるテラスで、ロイドからそのように声をかけられた私。


有り難いことに、国王は私が描いた肖像画をとても気に入って下さった。

そのため、爵位を持っている王立派の貴族たちを招き、近々絵のお披露目をしたいと言われていたのだ。


……だが、本来は私のような素人が国王の肖像画を描くなどとても烏滸がましいこと。

さらにいえば、辺境伯夫人時代の知り合いが訪れている可能性も大いにある。



「お越しになった方々が良いお顔をなされない場合はどうぞ絵を破棄して下さいと、陛下にはお伝え下さいませ」



急な不安に襲われ、思わず俯いてしまった。

もし誹謗中傷などがあれば国王の顔に泥を塗ることになる上、私を連れてきたロイドも責任を問われてしまうかもしれない。



「アトレイア殿、顔を上げて下さい。

陛下も俺も、貴女の描く絵はとても素晴らしいものだと確信しています。ミカエルも大好きだと言っていたでしょう?」


「……そうでしたわね。ありがとうございます」


「今日は陛下より、騎士団長である俺が貴女の護衛を言い使っています。ミカエルには副団長のシオンが付いておりますので、ご心配なきよう。どうか心安らかにして下さい」



そう言って、彼はいつものように柔く微笑んでくれる。



「ミカエルと言えば、彼は本当に馬が好きですね。馬たちに敬意を払うことを常に忘れない。そのためか乗馬もめきめきと上達しています。ここ半年で背も大幅に伸びたためか、最近ではほぼ一人であぶみに足をかけ、馬に跨ることが出来ています。子供の成長とは本当に早いですね」



そして、今度はミカエルの姿を脳内に思い浮かべているのか、目を瞑ってうんうんと首を縦に振っている。



「それと、剣の腕も良いですね。もともと運動神経が良いためか、太刀筋が随分と整ってきました。初めは部下たちとのチャンバラごっこでしたが……しばらくすると本格的に剣術を習いたいと俺に志願してきたくらいですから、こちらも鍛えがいがあります。

まだ幼いというのに、大した男ですよ彼は」



ミカエルもまた、ロイドにとてもよく懐いている。最近では乗馬や剣の稽古の後、二人で銭湯に行ったりするくらいだ。

そして、ロイドやシオンの計らいもあってか、騎士団の他の団員の人たちにもとても可愛がってもらっている。



「ミカエルにも良くして下さって……本当に感謝しています」


「とんでもありません。彼は、女手一つで育ててくれている母親の貴女を、これからは自分がしっかりと守れるようになりたいと、そうも言っていました。

彼の心根の強さと優しさを見ていると、我々もまだまだ精進せねばと、そんな風に思えます」



……いつからだろう。

ロイドの姿勢、そして言葉1つ1つに、これほど安心感を覚えるようになったのは。



「アトレイア殿が真剣に絵を描かれている姿を、そして楽しんでおられる様子を、ミカエルはしっかりと見ています。

それに何より、貴女からたくさんの愛情を受けて育っている。


ミカエルと過ごせばすぐに分かりました。彼の強さと優しさは、貴女から受け継がれたものだと」



私はぐっと、唇を結んだ。力を込めないと、涙が溢れてしまいそうだったから。


私たち母子に親切に接してくれる人たちは、これまでにもたくさんいた。

ハゼル町の洗濯屋の同僚たちや家のご近所さん、そして絵を購入してくれる貴族の人々。


でも、言葉にしてこうもはっきりと伝えてくれたのはロイドが初めてだった。



胸にうずき始めたこの感情を知らない訳ではない。

でも、今や一庶民であり、さらには子供を持つ身がこんな想いを持って良いはずもない。

彼は前途有望な、この王国の騎士団長なのだ。



「……お言葉、本当に嬉しく存じます、ロイド様」



ほんの少し、かげりそうな表情を押し殺しながら、私は彼へと精一杯の笑みを向けた。



「……うっ!」



だが次の瞬間、何故だか唐突に彼が自身の顔面を片手で覆った。



「……? ロイド様、どうかなさましたか?」


「…………いえ」



彼はコホンと咳払いをした後、顔からゆっくり手を離した。



「お顔が少し赤いようですが、テラスは暑いですか? そろそろお部屋へ移動しましょう」



外気が暑くて気分が悪くなったのだろうか、彼は唇を一文字に結んでいる。



「……申し訳ありません。それでは鏡の間へ移りましょう、アトレイア殿」


「はい」



隣に並んだ彼の横顔はまだ少し赤みを帯びてはいたが、いつも通りの精悍さを取り戻していた。


私の心内にはまだ鈍く苦しいものが残っているけれど、鏡の間へ向かううちに彼の体調は随分と回復したようで、ひとまずはほっとした。




だが。

その心を撫で下ろしたのも束の間。


案内された鏡の間には、私を心から驚愕させる 、とある "出会い" が待ち受けていたのだ。


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