5 小学校卒業〜秘密の結婚式〜
あれから小学校最後の学校行事を全て終え、3月の卒業式となった。練習期間は長かったけど、卒業式も無事に終わってみんなでアルバムに寄せ書きをたくさん書き合った。中学校はほとんど同じ小学校からのメンバーが進むので淋しくはなかった。
「由紀奈、卒業おめでとう。」
「ありがとう、翔祐君。」
家に帰ってから翔祐君に卒業証書を見せた。
「立派な証書だ。」
私は、小学校を卒業したらやりたいことがあった。
「翔祐君、提案があるんだけど…。」
「どうした?」
「結婚式ごっこしない?家の中でだけど。」
「お、いいじゃん!どんな感じでやる?」
「牧師さんの動画を流しながらやろうと思ってるんだけどどうかな?この前見つけたの。」
「そんなのあるんだ。それなら服装もキッチリしないとな。俺はジャケットでも羽織るかな。」
「ベールは100円ショップの布で作れそうなの。だからすぐに出来るよ。」
あれこれ話し合っていると、翔祐君が何か思いついた様子。
「せっかくだから教会でやらない?」
「教会?そんな大がかりのつもりはなかったんだけど…。」
教会と言われると過去に参加した結婚式の会場みたいに大きい建物しかイメージ出来なかった。
「神社みたいに誰でも行ける所があるんだよ。ついでに由紀奈の卒業祝いで日帰り旅行が出来たらと思ってるんだけど。」
「どこに行きたいの?」
「津和野に行かない?子供の時に一度行ったきりなんだけど、また誰かと行きたいと思ってたんだ。」
津和野って言われてもピンとこない。
でも翔祐君と行けるなら行ってみたいな。
翔祐君と一緒に両親に相談したが、2人は乗り気ではなかった。
「都会ならいいけど、津和野となるとかなりの田舎になるし、電車がほとんどないからなぁ。不便だし、帰れなくなったらどうにもできないよ?」
「それに、教会ならたぶん他にもあるよ。」
たしかに、元々は結婚式ごっこをしようとしてただけだから、津和野じゃなくてもいいかもしれない。翔祐君だって子供の時の懐かしさで行きたいだけだったみたいだし。
「やっぱ難しいですよね…。人が少ないから邪魔されないかと思ったんですけど。他にもあるはずだから当たってみますね。」
「でも、せっかくの卒業旅行だもんねえ…。行きたいところがいいよね。」
パパとママは頭を悩ませてた。
するとパパが提案した。
「そろそろ雅史も連れてどこか行きたいと話してたし、車で一緒に行くのはどうかな?現地で別行動なら問題ない。」
「そうよね。そうしようかしら。雅史も車は慣れてきたから。」
すると翔祐君は頭を下げた。
「お願いします。一緒にいる時間は雅史君の面倒みます。」
私も一緒に頭を下げた。
「それなら行ってみようか。」
「ありがとう!!」
さすがパパとママ。
翔祐君のお母さんも誘ったが、仕事が忙しいのと私たちのデートを邪魔したらいけないから今回は行かないと言われた。別に邪魔だなんて思わないのに…。
「看護師は夜勤もあって大変だからね。いつか親孝行で連れて行くよ。」
翔祐君のお母さんはいつも元気に働いててすごいなぁ。私は大人になったらあんなにしっかり働けるのだろうか?
「大丈夫だよ。由紀奈だってちゃんと家事したり雅史の面倒見たりしてるんだから。」
「ありがとう。これからも頑張るからね。」
翔祐君がいるから頑張れるんだよ。
津和野旅行の当日は朝早くから車で出かけた。
車の中では雅史がたまに泣いていたが、そのたびに翔祐君と私で宥めていた。
津和野に着くと、田舎だからか人はほとんどいなかった。でも駅は綺麗に掃除されていたし、蒸気機関車も見栄えがあって記念写真を撮るのにはちょうどよかった。雅史は機関車を見て嬉しそうにしていた。
先に5人で写真を撮ってから別行動することにした。パパたちは小京都と言われる通りに向かっていったが、私達は教会のある乙女峠に向かった。登った先に小さな教会があるらしい。
実際に行ってみるとかなりキツい坂道を登ることになったので、汗まみれで結婚式ごっこをやるのかと不安になってしまった。
「ごめんね。俺は何ともないんだけど由紀奈はキツかったね。」
登りきったところで息を整えるために休憩した。そこはマリア像があり、隣に小さい檻もあった。その中にはしゃがんだ像が入っていてちょっと怖くなったが、今はそれよりも結婚式ごっこの方に気が行っていた。
小屋のような教会があったので、2人でその中に入った。とても本番の結婚式を挙げられる場所ではなかったが、ごっこにはちょうどよかった。
翔祐君はジャケットを羽織り、私は100円ショップの材料で作ったおもちゃのベールを被り、造花の花束を持った。そして牧師さんの動画を流そうとしたのだけど、何故か見つからなかった。
「もしかしたら投稿主が消しちゃったのかも…。」
せっかく見つけたのにと落ち込んでいたが、翔祐君は気にしていなかった。
「とりあえず記念写真を撮ろうよ。」
タイマーをセットして写真を撮ろうとすると、教会の扉が開いた。
「あれ?もしかして結婚式!?」
他の観光客だった。人が少ないと言っても一人もいないわけではない。数人の話し声が聞こえるので友達が外にいるのだろう。
「翔祐君、どうしよう?」
「そうだ、写真お願いしようか。」
翔祐君は写真を撮ってほしいとお願いしにいった。
「由紀奈、写真撮ってくれるよ。」
女4人の大学生のグループだった。
「撮りますよ、はいチーズ!」
よかった。無事に写真に残せた。翔祐君はパパたちに写真を送っていた。
「結婚式ごっこってことは、愛の誓いはしたの??」
「いえそれが、牧師さんの動画を流そうとしてたら動画が消えちゃってて出来なくて…。」
「それならさ、私が牧師さんやるよ!」
「え?いいんですか?」
まさかここまでしてくれるなんて。
「それなら私は動画を取るね。」
「なら私達2人は招待客ね。」
4人とも乗り気で私たちの結婚式を手伝ってくれた。
「新郎、貴方は健やかなる時も病める時も、新婦を愛することを誓いますか?」
「はい、誓います。」
「新婦、貴方は健やかなる時も病める時も、新郎を愛することを誓いますか?」
「はい、誓います!」
「では誓いのキスを。」
ベールを上げて、翔祐君にキスをされた。招待客役の2人は歓声を上げて拍手をした。2人だけでいいと思ってたけど、牧師さんと招待客がいると本当の結婚式みたいだ…。
「そういえば、2人は何歳なの?」
「僕が17歳でこの子が12歳なんです。」
「え?12歳?」
やはりみんな驚いていた。
「12歳でもう巡り会えてるなんて…。」
「いいなあ、私なんて彼氏もいないのに。」
「2人とも、幸せになってね。」
みんな私達の関係に口出しをすることはなく、素直に祝ってくれた。
無事に結婚式ごっこを終えたから、乙女峠をじっくりと観察してみた。子供向けの場所ではない気がした。正直、何故こんな坂道をわざわざ登った先に観光地があるのかが分からなかった。
「ここは明治時代にキリスト教の信者が迫害された場所なんだよ。」
「あ!そういえば、歴史の授業で習った。」
昔の日本はキリスト教は禁止されていたんだ。あまり興味のない内容だったから忘れていたけど。
「でもね、周りに反対されても信仰をやめなかったんだよ。」
「なんでやめなかったんだろ?」
最初に目についたマリア像と小さい檻。立つことも出来ないくらいの檻の中に迫害されたであろう人の像。いくらマリア様が励ましてくれたからって現実の辛さには勝てないはずなのに。
「由紀奈、もしこれから出会う人たちに俺と付き合うことを反対されたらどうする?」
「え…?」
「別れる?」
「…嫌だよ。絶対に別れない。」
そっか…キリスト教の信仰をやめなかった理由は、私が翔祐君を好きな気持ちと一緒なんだ。
「それが聞けてよかった。これから中学に進んだらどんな奴がいるかわからないから。」
最初はお互いの親に反対された。でも、どうしても一緒にいたかったから私達は親と話し合ったり勉強をしたりして付き合うことを諦めなかった。
「教会で挙げようと提案したのは、これからの決意の為なんだよ。俺からしたら今日はごっこ遊びじゃない、本当の結婚式のつもりだったんだよ。運よく観光客も手伝ってくれたし、ここまで上手くいったなら将来は絶対に結婚できるよ。」
「翔祐君…。」
翔祐君、そんなに本気だったんだ。結婚式「ごっこ」と主張してたのを申し訳なく思った。
翔祐君はいつもみたいに私の頭を撫でてから、キスした。




