13 高2×大4
由紀奈視点に戻ります。
坂田君のことは本当にいい人だと思ってる。だけど、男として好きになれるかどうかは別だ。曖昧に友達関係を続けている方が駄目だと思ったからはっきりと告白を断ったのだ。坂田君は達也君と同じ台詞を言った。だからきっと、これから素敵な人と出会って幸せになれると思う。
私は、佐々木君と出会ってから休み時間に1年生の教室がある1階に行って話すことが増えた。さすがに先輩だらけの階には来にくいと思ったからそうしている。それ以前に私が会いたいからなんだけど。
「昨日テレビCMで見たんですけど、今、古代エジプト展やってるらしいですよ。一緒に行きませんか?」
「え?そうなの?行きたい!」
「俺、エジプトはピラミッドがあることしか知らないんですけど、ツタンカーメンとアンケセナーメンの話に感動したんで興味が湧いてきたんです。」
「私も実はそこまで詳しくないんだけど…。佐々木君が興味が湧いたなら一緒に行こ。」
どこに行くにも翔祐君とだったから、佐々木君と行けばちょっとは辛い気持ちも消せるんじゃないかって思った。
当日は一緒に美術館に向かった。翔祐君と行った時とは別のところで開催していた。
「ピラミッド作るのって楽しみながら作ってたんですね。嫌々だったらあそこまでデカいの作れないですよね。」
ピラミッドは奴隷たちによって作られたものと思われていたのだが、栄養のある食べ物をみんなで食べながら働いて建てられたらしい。その光景を思い浮かべるだけで私は安心した。
以前、翔祐君と行った時はわけが分からず見ていたが、今回はじっくり観察しながら見ることが出来た。佐々木君も知らないことが多いから興味津々の様子だ。
ツタンカーメンとアンケセナーメンの話をした時、あそこまで感動してくれたのは嬉しかった。身近な男子にはいつも変な目で見られていたので佐々木君も同じだと思っていたのだけど、彼は全く違っていた。翔祐君みたいに色々と知っているわけではないけど、馬鹿にせずに知ろうと努力してくれるのが魅力的に見えた。
「ミイラの作り方って!見てみましょうよ!」
アニメ動画でミイラの作り方が観れるスペースがあった。なんだか気持ち悪く感じたが、佐々木君が知りたがっていたので見てみることにした。
ミイラは何もせずに数年間放置したら勝手にできるものと思っていたが、手間がかなりかかるようだ。臓器を抜いたり腐らないように液体を塗ったりとかなり作業工程が多い。こんな古い時代にここまでの工程をどうやって思いついたのだろう?
「何もない時代かと思ってたのに、みんな試行錯誤しながら頑張ってたんですね。」
佐々木君も感動していた。翔祐君は何でもクールに受け止めていたけど、佐々木君みたいに感受性が強いのも悪いことではない。彼が年下だからこう思うのかな…。
古代エジプト展は1時間くらいかけて廻った。ちょうどお昼ご飯の時間帯に差し掛かっていたので2人で飲食店に入った。
「歴史の勉強したんでお腹空きました!」
佐々木君はトンカツをご飯大盛りで頼んでいた。私もお腹は空いていたが、普通の量にした。
「そういえば、坂田さんにもツタンカーメンとアンケセナーメンのこと話してたんですね。俺、感動したから部活の時間にみんなに話しちゃって。」
そういえば話したっけ…?記憶にないけど、美嘉ちゃんや他の女友達には話したし、隠すことでもないから坂田君が知っててもおかしくはない。正直、坂田君に話しても翔祐君が私を縛りつける為だとかそんなことしか言わない気がする。
「俺は本当に感動したんですけど、みんな反応が薄いんですよ。こんな素敵な例えをされたら、俺が女ならすぐ惚れますよ。」
「翔祐君の考えは独特だから、受け入れられるのは私だけだったのよ。だから翔祐君、去年あんなに怒って…。」
『俺に由紀奈の代わりはいない』って叫んでいたのを思い出した。坂田君が私を好きだったから不安で不安で仕方なかったんだろうな。なんで私、気づいてあげられなかったんだろ?絶対に不安にさせないって決心したのに…。
「相沢さん…?」
あの時のことを思い出して涙が出た。
翔祐君、今どうしてるのかな?もちろん気になってはいるけど、自ら会いに行く勇気がなかった。不安にさせた私がまた会いたいなんて言っても断られる気がしたから。坂田君が翔祐君はまた私にプロポーズしに来ると言っていたけど、全く信じられなかった。坂田君だから、ではなく、きっと誰に言われても信じられなかった。
「相沢さん…俺じゃ駄目ですか?」
佐々木君は私の目を真っすぐに見て言った。
「俺、相沢さんのこと好きになったんです。最初はただの可愛い先輩と思ってたけど、翔祐さんとの話を聞いたらもっと素敵に見えてきちゃって。だから、俺と新しい思い出を作りませんか?」
私は、佐々木君を初めて見た時に彼の顔さえ見れたらいいと思っていた。だから知り合った次の日も佐々木君のことを見ようと思って登校してくるのを待ってた。本当に見るだけでよかったのに…。まさか彼の方から私に近づいてくると思わなかった。
翔祐君のことは私から全て話した。もちろん津和野の結婚式の写真も見せた。ツタンカーメンとアンケセナーメンのことも話した。さすがに死のうとしたことは言えなかったが…。
そして大抵の男子は私には引いてしまうのだけど…。
「みんなガキなんですよ。ここまで愛し合ってて何が駄目なんですか!俺、翔祐さんの身代わりでもいいです。俺と相沢さんが出会えたのはきっと運命なんです!神様が相沢さんのことを助けろって言ってるんですよ。」
彼が翔祐君の代わりでもいいと言っていても、私には怖かった。佐々木君自身を好きになれるか分からなかったから…。やっぱりまだ、翔祐君を忘れられていない。
「相沢さん、今決めなくてもいいですから。俺は全力で振り向かせますけど。」
全力だとか死ぬ気だとかみんな簡単に言っちゃうの…。坂田君だって死ぬ気で振り向かせるって言ったけど、結局は私の翔祐君への愛に負けて折れてしまった。私の愛は重すぎてみんな疲れてしまうんだと思う。
「えー?なら坂田君のことは振ったの?」
「うん、そうなの…。」
別の日に礼子ちゃん、佑梨ちゃんに話した。佐々木君のことを話す前に、坂田君からの告白はきっぱりと断ったことを話した。
「坂田君、メンタル強そうだし意地でも由紀奈を引っ張ってくれそうだったのに。だから坂田君に幸せにしてってお願いしたのに…。由紀奈のほうが無理だったかぁ。」
「私、由紀奈は手強いから何年もかかるって忠告したのよ?1年も経ってないじゃない。坂田君はモテそうだから翔祐君みたいな必死さが足りなかったのね。」
「でもね、感謝は本当にしてるんだよ。不登校の時に家にまで来て、雅史との約束も守ってくれたし、本当にいい人だと思ってるの。」
雅史はたまに坂田君の名前を出すので、私は戸惑っているくらいだ。
「そうなると、由紀奈はやっぱり翔祐君を諦めきれないってこと?もうあんな男忘れた方がいいよ。いつも不安だったなんて、一体翔祐君は由紀奈の何を見てたのよ…。」
礼子ちゃんは翔祐君からの手紙を見てかなり怒っていたのだ。こんな弱い人だと思わなかった、とショックも受けていた。
「実はね…好きになりそうな人ができたの。後輩の男子で佐々木君ていうんだけど。すごく素直で、私と翔祐君の思い出も全部受け入れてくれる人なんだよ。ツタンカーメンとアンケセナーメンの話にもすごく感動してくれたの。私、彼ならいいかなって思ってる。」
2人ともすごく嬉しそうな顔になった。
「よかったじゃん!その人の写真ないの??」
私は古代エジプト展に一緒に行った時に撮ったツーショット写真を見せた。展示会のポスターの前で撮ったのだ。見せると2人はかなり驚いていた。
「どういうこと?翔祐君にそっくりだけど…。」
「うん。だから最初は顔だけ見れたらいいって思っていたら、彼の方から私に近づいてきて…。翔祐君と顔が似てることも全部話してるの。そしたら彼は、私と出会えたのは運命だ、神様が助けろって言ってるんだ、って言ってくれたの。」
あの迷いのないまっすぐな目がすごく嬉しかったんだ。
「私は由紀奈が幸せになれたらそれでいいの。由紀奈にとって好きなタイプがその顔なのよ。由紀奈は翔祐君しか付き合ったことがないからわからないだけで、人間なんていつも同じような人しか好きにならないのよ。ね、佑梨?」
「たしかに、私も今好きな人は前の彼と雰囲気が似てるからそんなものかもね。」
「え?佑梨ちゃん好きな人いるの?」
もちろん私だけでなく、みんな同じように恋愛をしている。私はいつも浮いていたが、今は歳の近い人を好きになっているのでようやく平等に会話ができるようになった。
私と佐々木君の仲は学校のみんなにも徐々に知られる様になっていった。坂田君と話していた時は女子からの目がキツかったけど、佐々木君と私だと幸せそうに見守られている気がした。
佐々木君の部活の無い日は一緒に帰っていた。私はある日、佐々木君をカフェに誘った。今日ここできちんと返事をしようと思ったのだ。
「俺、こんな可愛いお店に入ったの初めてです。相沢さん以外にデートしたことないから。」
佐々木君はとても喜んでくれた。翔祐君はこういうデートの定番のお店は知らなかったし、坂田君は女子とのデートに慣れていた様子だったから佐々木君の反応はいつも新鮮だ。
「佐々木君…。今日は大事な話をしたくて。」
「なんですか?」
心臓の音がうるさい…。
「あのね…私と付き合ってほしい。私も佐々木君のこと好きになったの。佐々木君が翔祐君のことも全部知った上で私と一緒にいたいのなら、私も前を向いて佐々木君との思い出を作りたいの。」
伝えると、とても嬉しそうな顔になった。
「よかった!断られたら、ストーカーになるところでした。」
言いながら笑う佐々木君。
「実は心配してたんですよ。やっぱり翔祐さんみたいに何年も付き合ってきた人の代わりなんて無理だと思ってたから。翔祐さんは頭も良さそうだしクールな人って聞いてたから、相沢さんが俺みたいに馬鹿な男を選んでくれるなんて思わなかったです。」
「佐々木君は素敵な人だよ。知らないことがあっても頑張って理解しようとしてくれるし、この前の古代エジプト展だってすごく楽しかったんだよ。翔祐君と行ったときとは別の感動があったの。」
小学生の時の自分を思い出した。何も知らないなら勉強すればいいって言って母と一緒に恋愛のための勉強をした。その時の私と佐々木君は似ている。それに、片方が相手を追いかけるだけでは無く、2人で一緒に勉強する方が淋しくない。
「そういえば、坂田さんとはクラス違うんでしたっけ?なんかすごく相沢さんのこと心配してるんですよね。」
坂田君…もう気にかけてくれなくていいのに。
私は佐々木君と付き合うなら坂田君のことも話しておかないといけないと思った。
「実は坂田君に去年告白されたの。私のことが好きだったのよ。断ったけど。」
「え!?そうだったんですか?なんであんないい男の告白断ったんですか!?」
佐々木君はかなり驚いていて目が飛び出そうなくらいだった。
「いくらいい男の人でも好きになれるかどうかは別なの。それに、坂田君は佐々木君みたいに真っすぐなじゃないんだもの。仲良くなったきっかけも坂田君が嘘ついたからなの。」
「どんな嘘ですか?」
「年上の女の人に片思いをしているから相談に乗ってくれって言われたの。でも、その人は架空の人だったのよ。そうでもしないと私に相手にされないと思ったらしいの。そこまでしなくたって私はいくらでも友達になったのに。」
「坂田さん、男が憧れる男だと思ってたんですけど恋愛になると不器用なんですね…。モテるから、自分から女に近づいたことないのかも。」
モテたからこそ気が狂うほど1人を好きになったことがないのかもなぁ。
「でも、モテる坂田さんより俺を選んでくれたのは嬉しいです。これからが楽しみです。」
佐々木君は本当に幸せそうな顔になった。その表情は翔祐君とそっくりだった。
今まで相沢さん、佐々木君と呼び合っていたけど、由紀奈、周矢と呼び合うようになった。周矢から由紀奈と呼ばれると翔祐君のことを思い出しそうになったけど、周矢には『俺は翔祐さんの代わりなんだからいくらでも思い出してくれていい』と言われた。その心の広さに胸が苦しくなった。
私は部屋に飾っていた翔祐君との結婚式の写真を引き出しの中に閉まった。失恋した時にビリビリに破いたけど、立ち直った時にまた印刷して飾っていたのだ。だけど、周矢と幸せに過ごしたいから翔祐君の顔を見るわけにはいかない。次は、周矢と一緒に津和野に行きたい。
「それならもう周矢君と前を向くってことか…。」
周矢と付き合い始めてから久々に早希ちゃんに会いに行った。早希ちゃんは今でも豊君と付き合っている。
「翔祐さんと由紀奈がいたから私達は今もこうして一緒にいるの。2人は私の憧れだったけど、由紀奈が決めたことなら文句は言えないや。」
早希ちゃんと豊君は私たちが別れた時、とてもショックを受けていた。特に豊君は、津和野まで行って周りに反対されても一緒にいるって誓ったのに、なんで自ら離れたんだって怒っていた。
「そういえばあのイケメンの男友達はどうしたの?」
「あのイケメン?誰のこと?」
「ほらあの、年上の女に片思いしてる人よ。」
坂田君のことか…。
「実は坂田君は私のことが好きだったみたいで…。私に近付くために年上の女の人が好きって嘘を付いて共通の話題を作っただけみたいなの。告白はきっぱりと断ったから大丈夫。」
「はぁ…やっぱりね。」
何がやっぱり?早希ちゃんはため息をついて話し始めた。
「私はたぶんそんなことだろうと思ったのよ。高校生になれば好きな人が年上ってことは珍しくないじゃない。だからわざわざ異性に相談してる時点でおかしいのよ。」
そうなんだ…。翔祐君は茉梨ちゃんに全部話してたから何とも思わなかった。私たちもそんな関係になれたと思っていたのだ。
「まぁでも由紀奈があんなモテそうな男にふらっと行かなかったのは安心だけどね。」
「坂田君はいい人だけど、翔祐君のことを悪く言うから受け入れられなかったの…。だけど、周矢は何を言っても素敵な人だねって褒めてくれるし、翔祐君の身代わりでもいいって言ってくれたの。だから周矢なら大丈夫って思えたんだよ。」
早希ちゃんにももちろん周矢の写真を見せた。顔は翔祐君に似てるけど、翔祐君みたいな大人っぽさは無いねと言われた。
しばらくは一緒に帰ったり休日にデートしたりと、本当に普通のカップルになっていた。翔祐君の時は変な目で見られることが多かったけど、今は歳が近いから何も言われないし、知らない人からの視線も感じないので一緒にいて心地がよかった。
「由紀奈、そろそろ家族に紹介したいんだけど、家に来れる?」
一緒に帰っている時に言われた。翔祐君の時は親に紹介なんてわざわざしなかったもんなぁ。相手の親に会うってかなり緊張することなんだって気付いた…。
「うん、会ってみたい。」
周矢は私が初めてだからかワクワクしているように見えた。
私は、まだ両親に周矢のことは話していない。翔祐君と別れてから恋愛の話は家では避けていたし、両親からも触れてこなかった。
「ただいまー!」
元気に家に入る周矢。周矢には弟と妹がいて、ちょうど2人とも家にいた。
「お兄ちゃん、おかえり…。え!?誰?」
2人とも驚いている。
「俺の彼女だよ。」
「えー!?お兄ちゃんに彼女!?お兄ちゃん彼女いるんだって!!」
2人ともリビングに入って騒いでいた。
「ごめん、両親には言ったんだけど弟と妹にはまだだったから…。」
周矢はこんなに驚かれると思わなかったみたいで困った顔をしていた。
「可愛い2人だね。」
私達もリビングに入った。
「あら、こんにちは。周矢、自分はモテないなんて言ってたのに、こんなに可愛い彼女さんがいたなんてねぇ。もう私嬉しくって。」
「周矢、幸せそうだな。」
お父さんとお母さんは私を見て喜んでくれた。みんなよく喋るし家の中はとても騒がしいけど、だからこそ周矢は明るくて素直に育ったのだろうと思った。
「周矢は由紀奈さんと出会ってようやく勉強も頑張るようになったからホッとしてるのよ。この前だって古代エジプト展に行く、なんて言われて驚いたのよ。そんな難しそうな展示会なんて行ったことなかったのに。」
「だって展示会って何が楽しいのか分からなかったから。由紀奈のツタンカーメンとアンケセナーメンの話がすごくよかったから興味を持てたんだよ。」
それを話してるってことは翔祐君のことも話してるんじゃ…。
「由紀奈さん、本当に周矢でいいの?前の彼氏さんがすごい人って周矢が言ってたから、なんで付き合うことにしたのか気になったのよね。」
やっぱり話してるよね…。
「周矢君は前の彼のことも含めて私を好きになってくれたし、知らないことがあったら必死になって知ろうとしてくれるんです。すごく素直だし、いつも明るいから一緒にいたいって思ったんです。たしかに前の彼はすごかったけど、周矢君だって充分素敵です。」
周矢はとても照れた表情になった。
「まさかそんなふうに言ってもらえるとは…。」
「良かったなあ、初めての彼女がこんなにいい人で。」
私の存在が周矢をいい方向に変えてるんだね。私みたいな重い女なんて相手の家族は受け入れてくれてないと思ってたけど、心配なんてする必要は全くなかったんだ。
私は周矢の家族に会わせてもらったから、次は私の家族に会わせよう。そろそろ前に進むために両親に話さないといけない。
「お父さん、お母さん、大事な話があるの。」
翔祐君と別れた後からパパママ呼びをやめた。少しでも大人にならないといけないと思ったから。
「どうした?」
私の眼差しを見て、別のことをしていた両親は手を止めた。
「彼氏できたの。同じ高校の後輩なんだけど。」
2人とも何も言わなかった。
「今度連れてくるから、ちょっと話してもらえないかな?すごく話しやすい男の子なの。」
「由紀奈……よかった。」
母は安心した表情になり、涙を流した。
「もう由紀奈は恋愛しないと思ってたの…。翔祐君と別れてから、由紀奈の笑顔なんて見れないと思ってたから、本当に本当に良かった。」
「父さんも安心したよ。由紀奈が一生翔祐君のことを引きずったらどうしようかと思ってたんだ。」
やっぱり2人とも心配してたんだね…。
「どんな人なの?もしかして坂田君だったりして。」
「いやいや、坂田君は同い年だから別の人だろ?」
「実はその…翔祐君と顔が似てるの。でもね、性格は全然違うんだよ。これ、この前一緒に出かけたときの写真だよ。」
写真を見せると、やはり驚かれた。
「本当…翔祐君と似てるね。無邪気さのある翔祐君って感じ。」
「好きなタイプがその顔なんだろ。父さんだって昔の彼女は母さんと似てたぞ。」
「昔の女の話はしないでよ。」
なんだか2人とも、楽しそうに見える。私がようやく前を向けたから、肩の荷が下りたのかも。
「あの…ごめんね、心配かけちゃって。去年はショックであんなことになっちゃったけど、私には優しい友達がたくさんいるし、今の彼氏もいるからもう全然平気だよ。」
「由紀奈…きっと由紀奈がみんなを大切にしてきたからよ。だから今の彼にも出会えたのよ。会えるの楽しみにしてるね。」
両親に話せてホッとした。会えたらどんな反応になるか楽しみだ。
周矢のことは休日のデートのときに連れて行った。
「はー、緊張する…。俺、変なやつだと思われたらどうしよう?」
「大丈夫だよ、いつも通りにしてればいいから。」
周矢はずっと緊張していたが、やがて家に着いた。
「あ!翔祐だ!ママー、翔祐が来た!」
玄関に入った途端に雅史が待っていた。雅史は完全に翔祐君だと思っているみたい…。
「周矢君、はじめまして。」
両親が出迎えに来た。
「は、はじめまして。佐々木周矢といいます。」
周矢がお辞儀するところなんて初めて見た。
「あれ?翔祐じゃないの?」
「雅史、翔祐君じゃないのよ。この人は周矢君っていうから覚えてね。」
「周矢君?一緒にあそぼー!」
雅史は誰か連れてくるといつも遊びたがるんだから…。きっと翔祐君がいつも遊んでくれてたからこうなったんだろうな。
周矢は雅史としばらく遊んでくれていたが、そのうち雅史が眠たいと言って周矢に寄りかかって寝てしまった。
「可愛いね。弟と妹の面倒見てたのを思い出すよ。」
周矢は雅史を抱っこして布団に寝かせてくれた。その何でもない仕草を見て翔祐君を思い出してしまった。翔祐君とは家の中で過ごした思い出が多いし、雅史のお世話と家事を一緒にしながらお互いに成長していったから、もうあの日々を過ごせないのかと思うと本当に悲しい。
あの時に戻りたい…。両親に反対されてもめげなかったあの時に…。
「由紀奈?大丈夫か?」
「う、うん…。」
気付けば目に涙が溜まっていた。周矢がいるのに、なんでこんなに淋しく感じるのだろう?
「由紀奈…ちょっと自分の部屋に行ってなさい。」
「え?なんで…?」
「いいから。私達は周矢君と話したいことがあるから時間をちょうだい。」
両親に促されて渋々自分の部屋へ入った。私無しで何を話すのだろう?
翔祐君と私の関係がバレた時も私はこうして部屋で待ってた。あの時は子供だったからリビングの前でこっそり聞いたが、今はもうそんなことはしない。きっと、私のことをよろしく、とかそんなことを言いたいのだと思う。
しばらくして、周矢が私の部屋に入ってきた。
「お疲れ様。気が張って大変だったでしょ。」
すると、周矢に抱きしめられた。
「周矢…?」
「由紀奈…俺が由紀奈のこと守るからね。本当に辛かったね。」
?
「何を聞いたの?」
「その…腕はもう大丈夫?まさか死のうとしてたなんて。」
その話をしたのか…。自分の口からは言えなかったことだ。私はあの時リストカットした腕を見せた。もう傷はほとんど分からなくなってる。
「私、本当に馬鹿なことをしたと思ってるの。親にも友達にも心配かけて。彼氏にフラれただけで死のうとするなんて大袈裟よね。」
「大袈裟じゃないよ!それだけ愛してたってことだよ。だから俺、お父さんとお母さんに約束したんだ。絶対に由紀奈を1人にしないって。」
告白してきた時みたいに真っすぐな目をしていた。その顔は翔祐君には見えなかった。この真っすぐさは周矢からしか感じない。
「ねえ周矢…頭撫でてほしいな。」
「頭?」
「うん。」
周矢はよくわからないまま頭を撫でてくれた。
「もしかして、翔祐さんからやってもらってた?」
「そうなの…。私の好きな翔祐君の仕草だったの。頭を撫でられると安心するの…。」
すると周矢はスケジュール帳を取り出した。
「全部メモしとくから、俺にしてほしいことを全部言ってほしい。出来る限り実行するから。翔祐さんからじゃなくて、俺がしたことにしていきたいんだ。まずは頭を撫でることね。」
周矢は早速メモしている。他には花火大会、水族館、イルミネーションに行く、お互いの誕生日を祝うことをメモしてもらった。
「あともう1つは…家事をすること。」
「家事?自分の家の?」
「うん。翔祐君は私と一緒にいる為に雅史のお世話と家事を手伝ってくれてたの。そのうち自分の家のこともやるようになったみたいで、翔祐君のお母さんがすごく喜んでたからやってほしいの。」
「俺、母さんと妹に任せきりにしてるからな…。男もやる時代だもんね。翔祐さん、こんなことまでやってたなんてやっぱりすごい人だね。これは自分の為にもやるよ。」
家事って言ったら嫌な顔をされると思ったけど、全くそんな顔をせずに周矢はメモをした。
そして私もメモ用紙を出した。
「私も周矢のしてほしいことを書くから言ってよ。」
「そうだなぁ…。水族館とかは俺も行きたいからそれを入れるとして…。些細だけど、手繋ぐのはどう?」
周矢は照れながら言った。私はすぐにメモした。他にはお揃いのものを買う、一緒にテスト勉強をする、等だった。
「それから…1年続いたら、津和野に行こうよ。そこで俺との結婚式をやるんだ。それが出来たらきっと翔祐さんのことは忘れられると思う。」
「津和野まで行ってくれるの?」
「当たり前だよ。観光地だし、少ないけど電車は走ってるから。」
スケジュール帳には、電車代と所要時間が書かれていた。周矢、調べてくれたんだ…。それに、結婚式「ごっこ」と言われなかったことが私は嬉しかった。
「実は坂田さんから言われたんだ。あれは結婚式ごっこじゃない、本気の結婚式だから絶対にごっこなんて言うなって。由紀奈はいつも本気だから軽い気持ちで付き合ったら許さないって言われたんだ。もちろん軽い気持ちでなんて付き合ってないけどね。」
坂田君…。ようやく私の気持ちをわかってくれたんだね。私を好きになったのが坂田君でよかったと思った。
「よし、夏休みが近いからまずは水族館と花火大会の予定をたてないとね!」
周矢はいつもに増してワクワクした様子だった。これからが楽しみだ。




