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一生一緒。  作者: ハスダ
11/17

11 高1×大3

夏休み中は相沢から電話がかかってくることはなかった。それは想定内だったし、俺にも心の準備が必要なのでニ学期になって学校で会えたら相沢にきちんと俺の気持ちを伝えようと思った。

そして待ちに待った二学期に突入したのだが…。相沢が学校に来ていなかった。相沢の女友達の美嘉に聞いてみたが、体調が悪いから行けないとしか言われなかったという。

どうしたんだろうなぁ…。俺に会いたくないのかな。


それから一週間しても相沢は来なかった。だが…美嘉たちの会話が聞こえた。

「由紀奈、別れたみたいよ。」

「翔祐君と?」

「うん。心配で家に行ったらそう言われて…。話すのも大変そうだったのよ。」

相沢と翔祐…別れた!?

「ちょ、ちょっとどういうこと?」

俺は思わず女子の会話に割って入った。

「どういうことって言われても、私もびっくりしちゃって。昨日の由紀奈を見たらもう学校に来れないんじゃないかと思って…。」

すると美嘉は泣き出してしまった。

「相沢、そんなにやばいのか?」

「そうなの。生気まで失ってる感じ…。」

夏休み中に何があったのだろう?これは早急に会いに行かなければいけない。




放課後に美嘉に案内されて相沢の家まで向かった。チャイムを鳴らすと、母親が出てきた。なんだか疲れた顔をしているように見えた。

「美嘉ちゃん、今日も来てくれたのね。隣の彼は?」

「坂田健二と申します。同じクラスなんです。」

「貴方が坂田君ね。由紀奈からは話を聞いていたのよ。男友達はほとんどいないから覚えてたの。」

部屋に入るように促されたが、美嘉が入りたがらなかった。

「入らないのか?」

「私は無理…。今日はここまでにするから…。」

泣き出してしまったくらいだから、昨日の相沢の様子がよほどショックだったのだろう。俺が会っても平気なのか?

俺は客間に通された。

そして…相沢が入ってきた。

「え…?相沢?どうした?」

最後に会った時とはまるで違う表情だった。

「ご飯食べてんのか?クマもひどいし…。」

「坂田君…。私、別れたの。翔祐君と。」

「な、なんで…。」

「翔祐君から別れようって手紙が来た。」

???

なんでだ…これだと俺と付き合えって言っているようなものだぞ。

「これ見て。」

相沢は手紙を広げた。翔祐から相沢にあてたものだった。


***********************************************************

由紀奈へ

僕は由紀奈を愛しています。だからこそ、この手紙を書きました。

僕はいつも不安でした。由紀奈がいつか離れるんじゃないかって考えていました。でもそれは由紀奈のせいではなく、僕に自信が無いせいです。由紀奈の12歳の誕生日にプロポーズしたこと、津和野で結婚式を挙げたこと、自分たちをツタンカーメンとアンケセナーメンに例えたこと、これはすべて由紀奈が僕から離れないようにする為です。

何かあると由紀奈はいつも「結婚式まで挙げてるのに」って僕を安心させてくれた。本当に嬉しかった。でもそれが逆に僕たちを苦しめていたのだと思います。

だから僕と別れてほしい。

由紀奈なら共に幸せになれる男性に出会えると思います。


お父さん、お母さんへ

土下座までして由紀奈さんと一緒になれたのに約束を守れなくて申し訳ありません。今の僕では由紀奈さんを幸せにできません。2人には本当に感謝しています。きっともう2人のように僕を受け入れてくれる方には出会えないと思います。由紀奈さんと一緒に過ごせた数年間は本当に本当に幸せでした。

************************************************************


翔祐、何を考えているんだ?しかも何だこのツタンカーメンとアンケセナーメンって…。

そしてもう1つ、俺には疑問が残った。

「翔祐さんって隣の家だろ?なんで手紙なんだ?」

「家出したの。だからもう隣には住んでいないの…。」

家出までするなんて…。確かに別れを選んだなら物理的に距離を置いたほうがいいが、とにかく別れた理由が全く分からない。

ふと俺は相沢の腕に気づいた。リストバンドで隠していたが、内側には包帯を巻いている。

「腕、どうしたんだよ?」

「これ?リストカットだよ。」

「な、なんでそんなこと…。」

「だって…翔祐君からフラれたら生きる意味なんてないんだもん…。もういつ死んでもいいや。」

「や、やめろ!相沢がいなくなったら悲しむ奴がどれだけいると思ってるんだ!」

こんなことを言われたら美嘉がショックで泣き出したのもうなずける。

「悲しいって思ってくれるんだね…。でもね、私は翔祐君無しで生きれる気がしないの。小学生の時から好きで一緒にいたのに急にいなくなられたらもう生きる希望なんかないよ。翔祐君がいたから嫌いだった勉強も頑張れたのに。家事もできるようになったし親に代わって弟のお世話だってできたし、愛があれば変われるんだよ。それなのにこんな形で裏切られるなんて…。」

相沢は淡々と説明した。きっともう泣きつくした後なのだろう。だからこうして冷静になっているんだ。

「で、でも翔祐さんは相沢のことを愛してるって書いてるじゃん。それならまた会いに行ってみようよ。」

だが、相沢はやはり生気のない顔だった。

「会ったところで今までの笑顔は向けてくれないし、頭も撫でてくれないし、抱きしめてももらえないよ。余計に悲しくなるだけだよ。」

「そんな…結婚式まで挙げたってあんなに自慢してたのに…。」

「あの結婚式の写真、ビリビリにやぶいちゃったよ。指輪も捨てたし。すっきりするかと思ったけど全然だね。」

翔祐…一体何を考えているんだ…。相沢はまったく幸せになっていないのに、何故こんな選択をしたのか。




本当にどうしたらいいのかわからないので今日は帰ることにした。

「坂田君、ごめんね。まさかこんなことになるなんて思わなくて…。」

玄関では母親が見送ってくれた。

「いえ、いいんです。誰だって同じ目にあったらこうなるだろうし…。」

「翔祐?」

話していると、小さい男の子が走ってきた。相沢の弟だ。

「雅史、翔祐君じゃないよ。健二君って言うのよ。久しぶりに男の人が来たから翔祐君と思ったのね。」

弟の雅史は寂しそうな顔をしていた。

「お姉ちゃんも翔祐も遊んでくれなくなっちゃった…。健二君と遊びたい!」

「雅史、健二君はそこまでは出来ないのよ…。」

「大丈夫です。また来ます。だから俺と遊ぼう。」

「わーい!また来てね!」

翔祐はここまでなついていた弟まで悲しませるのか…。もし会えたら殴ってやりたい気分だ。



俺は家に帰ってから茉梨に電話した。

「相沢と翔祐さん、別れたみたいですね…。家出もしたし。」

「うん。実は私も9月に入ってから聞いたのよ。健二君は由紀奈ちゃんから聞いたの?」

「はい、今さっき聞いてきたんです。相沢、大変なことになってて。」

「大変?」

「学校も来れてないし…自殺未遂までしちゃってて。」

茉梨は黙っていた。電話なのでどんな表情なのかわからない。

「そこまで思いつめたのね…。」

それ以上何も言えず、また話そうと言われて通話を終了した。


まさかここまで酷いことになるなんて思っていなかった…。俺が邪魔したから、2人が別れることになってしまった。そして相沢は自殺まで考えて…。俺のせいだ。最初から近づいてはいけない2人だったんだ。




後悔でしばらく何もできずにいたが、相沢の弟にまた来てねと言われたことを思い出した。小さい子供との約束は守らないといけない。

いるかはわからないが、様子だけ見ようと思って相沢の家に行ってみた。

すると、俺より先に来ていた友人たちがちょうど出てきた。

「あら、由紀奈の友達?」

大人っぽい女、茉梨と似ている女、気の強そうな男がいた。

「へえ、由紀奈、俺以外に男友達がいたんだ。」

気の強そうな男は俺を見て嬉しそうにしていた。翔祐とは全然違う雰囲気の男だ。

「坂田君、どうしたの?」

相沢はこの前よりは身なりはきちんとしていたが、まだまだ立ち直れていない様子だった。

「この前来た時に弟に遊ぼうって言われたから、その約束を果たしにきた。」

「そうなの…。でもまだ幼稚園から帰ってきていないの。」

ちょっと早かったか。

「ごめん、ちょっと眠くなってきたからまた今度話そう。」

たぶん眠る時間が不安定になっているんだな…。

「由紀奈、体が一番だからね。無理して学校に行ったら駄目だよ。」

大人っぽい女が言った。

「うん、ありがとう。」

そう言って玄関を閉めた。




3人は相沢と小学校からの友人だそうだ。男の名前は小山達也、大人っぽい女が手嶋礼子、茉梨と似た女は木村佑梨という名前で茉梨の妹だった。

「お姉ちゃんが坂田君のこと話してたから知ってたの。」

どこまで知っているのかわからないが、達也と礼子もいるので今は何も聞かなかった。

「坂田君…。よかったら一緒に来てくれない?」

「どこに?」

「翔祐君の実家。」

佑梨はそう言って指をさした。あれが翔祐の家か。

「行ってどうするんだ?」

「翔祐君が別れを選択した理由を家族の人に聞き出すの。由紀奈、ショックで何も話せてないみたいだから。由紀奈には内緒で聞くんだけどね。」

家族に聞いたところでわかるのかどうか…。でも、少しでも何か分かるなら行くしかない。









翔祐の家に行くと、母親らしき人が出てきた。

「はじめまして。あの、私達は由紀奈の友達で…。」

「翔祐のことを聞きに来たのね?」

母親は用件を聞く前に気付いた。わざわざここまで来るのにはその用事以外に無いと思ったのだろう。

「翔祐君、なんで別れることにしたんでしょうか?あんなに仲良しだったのに…。」

礼子が切り出した。

「息子はずっと不安がってたのよ。いつまでも自分のところには居てくれないって言ってて。その不安が爆発してしまったの。それに、あの子は由紀奈ちゃんをずっと縛ってきたのよ。由紀奈ちゃんから恋愛の自由を奪って自分のことしか見れないようにしたの。でもそれを反省したから別れを切り出した。このままじゃ由紀奈ちゃんは幸せになれないって悟って…。」

母親は涙ながらに答えた。

「幸せになれないって…。今の由紀奈が幸せそうに見えるんですか!?自殺まで考えたんですよ!?」

達也が声を荒げる。

「私だってこんなことは望んでなかった。だけど、もう私にはどうしようもないの…。やっぱり2人の関係が分かった時点で引き離すべきだった。強引に引っ越せばよかったんだわ…。」

翔祐の母親が平気なわけがない。俺達の何倍も何十倍もショックを受けているはずだ。親までこんな気持ちにさせて…俺はどうやって責任を取ればいいのか…。









「俺が相沢を奪おうとしたからこうなったんだ…。」

翔祐の母親と話した帰り道で3人に話した。俺が相沢に近づいたから不安が爆発して、翔祐はこんな行動に出たんだ…。

「坂田君……由紀奈が好きなら、貴方が幸せにして!」

??

礼子はそう言った。俺は当然責められるものと思っていたので言葉が出なかった。

「由紀奈は充分に翔祐君を愛してたのに、翔祐君はずっと不安だったなんて信じられない。きっといつかはこうなってたのよ…。だから今由紀奈を好きな坂田君が幸せにしてあげてほしい。」

「そうだよ坂田。俺、本気なら応援するよ。由紀奈にあの翔祐がついてないんだぞ?今がチャンスじゃん。」

「私も応援するよ。由紀奈は手強いから何年かかるかわからないけどね。」

俺はその時、ようやく自分の考えが甘かったことに気付いた…。


俺が奪おうとした、なんて言ってもこの3人からしたら俺は翔祐のライバルでも何でも無い。きっと俺じゃなくてもこうなっていたのだ。何かきっかけさえあればこうなってしまう運命だった。そして俺は名前も無い、一瞬だけ現れて消えていくだけの脇役なのだ…。そう思うと、俺のせいで2人が引き裂かれたんだと恨まれる方がマシだった。2人の別れには俺程度では何の影響も無かったんだ。

「俺…相沢のこと本気で行くよ。もう遠慮はしない。みんなから恨まれる覚悟で奪いに行ってやる。」

3人とも安心したように笑っていた。きっとみんな元気のない相沢を見たくないのだ。俺が…俺が幸せにする。翔祐を忘れさせてやるんだ。





数日後、まだ相沢は学校には復帰できていないので美嘉と一緒に家へ向かった。美嘉に相沢と連絡を取ってもらったので弟の雅史も既に帰ってきている時刻だというのは分かっていた。

「由紀奈、だいぶ顔色が良くなってきたね。安心したよ。」

美嘉は相沢と会うのを怖がっていたが、自分が行かなければ学校に復帰しづらくなると考えて、勇気を出して再び来たのだ。

俺は雅史との約束があったので一緒に遊ぶことにした。

「ブロックで遊ぼー!」

ブロックは久々だったので何もわからなかったが、雅史は年上の俺が何も知らないのを見て勝ち気になり、俺にブロック遊びを教えてくれた。

「坂田君、雅史君のお兄ちゃんみたいだね。」

「そうだね…。これなら翔祐君がいなくても何とかなるかも…。」

「弟の為ならいつでも来てやるよ。俺が翔祐の代わりになるから。」

相沢はそれを聞いてちょっと切なそうな表情になったが、安堵も混ざった顔になっていた。このまま彼氏としても代わりになれたらいいんだけど…。







「坂田君!由紀奈は明日から来れるって!」

数日後、美嘉が嬉しそうに俺に報告しに来た。よかった…ようやく来れるのか。

「それでね、勉強が遅れてるからノートとか見せてほしいって言われたんだけど、協力してもらってもいいかな?」

「俺のでいいなら全然構わないよ。」

正直、俺の板書なんて参考にならないと思うけど、何もないよりマシだろう。

「あ、あのさ!俺もノート見せるくらいなら出来るから、困ったら言ってね。」

「理来…。いいのか?」

理来は相沢と関わりたくないものと思ってたが、さすがに不登校にまでなったので心配しているようだ。

「俺さ、相沢さんのことを変な人だと思ってたんだけど、この年齢でここまで1人のことを好きになれる人ってなかなかいないと思うんだよね。だから悪く思ってたのを反省してるんだ…。別に俺は何の迷惑もかけられてないし、クラスメイトが困ってたら手助けはしないといけない。」

「頼もしいね!お願いね!」

美嘉もかなり喜んでいた。理来が考えを変えてくれて助かった。



そして翌日、美嘉と一緒に相沢が登校してきたのだが…。

「由紀奈、可愛いじゃん!」

久々に会えて女子たちが喜んでいた。俺もそれは同じだが、長かった髪をバッサリと切ってショートにしていたのだ。

「相沢、よく頑張ったな。」

「ありがとう。坂田君やみんなに励まされたおかげだよ。」

髪を切って、背負っていたものが無くなったように見えた。


「なんで髪切ったの?気分転換?」

俺は休み時間に相沢に聞いた。

「私、翔祐君に大人っぽく見られたかったからロングにしてたの。そうじゃないと一緒にいれないと思ったから。でも、もうその考えは断ち切らないといけないと思ったから切ることにしたの。」

「それなら翔祐さんのことはもう諦めがついたのか?」

すると相沢は自信たっぷりの笑顔で答えた。

「そんなわけないじゃん。いつかまた会えた時には全力で取り戻しに行くよ。」

翔祐のことを諦めて、別の奴との出会いを探すと思ってたのに。

「私、やっぱり翔祐君以外考えられないから…。きっと今までの私の愛が足らなかったから翔祐君は不安になったの。だから私は強い女になって、今度は自分からプロポーズしに行くの。」

相沢…ますます他の男が入る隙がなくなったな。本当に俺は死ぬ気でアプローチしにいかないといけない。



相沢はしばらくは勉強に専念する為、一学期の時みたいにゆっくり話す時間はまだ取れなさそうだった。でも、前向きな待ちだからか苦には感じなかった。

「相沢さん、ますます彼氏のことしか見れなくなったみたいだね。あ、正確には元彼か。」

部活中、理来が言った。

「そうだな。俺はたぶん相手にされないと思うけど。」

「でもさぁ、健二だって支えてたじゃん?ちょっとくらい振り向く可能性もあるんじゃないか?何も言ってないから意識しないだけだよ。」

何も言ってないから…。そうなんだよな、まだ俺は一言も好きと伝えてないし、片思い中の年上女が架空の人ということも話せていない。早く本当のことを言わなければならない。

とにかくテストまでは勉強に専念させたほうがいいと思ったので、二学期の中間テストが終わったら話しがあると相沢に伝えた。相沢は俺の片想いの進捗状況だと思った様子。









「テストはどうだった?」

中間テストが終わってから、ようやく2人で話す時間が取れた。

「みんなのおかげで何とか間に合ったよ。本当にありがとう。まさか鳥居君も協力してくれるなんて思わなかった。」

鳥居君とは理来のことだ。

「相沢の一途さに負けたんだよ。ここまで1人のことを好きになれる人はなかなかいないってね。」

そういう理来はまだ恋愛する気配は無いのだけど。

「ところで、話って何かな?片想いの女の人のことだよね?ずっと聞けてなくてごめんね。」

「いや、いいんだ。実はその人は…存在しない人なんだ。」

「え…?どういうこと?」

相沢はやはり驚いていた。

「俺はその…ずっと相沢のことを騙してたんだ。俺が好きなのは、相沢なんだよ。」

相沢はやはり驚いた顔で黙っていた。

「こういう嘘でもつかないと相手にしてもらえないと思ったんだ。相沢、本当に翔祐さんのことしか見えていなかったから、共通の話題を作って近づいたんだ。」

「そ、そうだったの…。私本当に気付かなくて…。翔祐君は気付いてたってことよね。だからあんなに怒ったのね。」

「ごめんね。俺だってこうなると思わなかったから、悪かったと思ってるんだ。」

「でも…今まで私にも翔祐君にも近付いてくる人はいたのよ。だけどそれくらいは全部跳ね飛ばせてたから、坂田君のせいでは無いよ。タイミングが悪かっただけなの。」

やっぱり、俺では何の影響もなかったんだな。

「坂田君、ごめんなさい!貴方の気持ちには答えられない。本当にごめんなさい。」

「わかってるよ。だから俺は正々堂々と戦うって決めたんだよ。俺、これから死ぬ気でいくから。」

「死ぬ気って大げさだよ。」

相沢は笑っていたが、自分だって翔祐を死ぬほど愛していたのだからわかってくれるはずだ。それに、佑梨が相沢は手強いから何年もかかると言っていたのでそれはとっくに覚悟していた。




告白したら避けられるかと思ったが、相沢はそれからもいつも通りに接してくれた。寧ろ本当のことを話したからか、俺達は以前よりも会話が弾むようになっていた。他にも、理来が相沢を受け入れるようになってから他の男子生徒とも以前より話すようになっていたので、変な女というイメージは次第になくなっていった。



ある日の休日に本屋へ行くと、見覚えのある顔を見つけた。

「翔祐さん…?」

「坂田…。」

棚に本を補充していた。

翔祐のバイト先は実家の近くの本屋と聞いていたが、ここは翔祐の実家からは電車に乗らないと来れない距離だ。さすがに引っ越しと同時にバイト先も変えてたのか。

表情は最後に会った時よりも穏やかに見えた。

「由紀奈は元気?直接話す勇気がなくて別れは手紙にしちゃったけど…。」

「そりゃ今は元気になりましたけど、貴方のせいで夏休み明けは大変だったんですよ。学校にも来れてなかったんです。」

「まぁ…茉梨さんからちょっと聞いてたんだけどね…。帰って抱きしめてやりたかったけど、全部俺のせいだったもんね。」

たぶんだが、ようやく翔祐は相沢が自分しか見えていかなかったことを自覚したのだろう。別れた後に気付いても遅い。

「翔祐さん…後でちょっと話せないですか?聞きたいことがあるんです。」

「もう由紀奈とは別れてるし、君にイライラしてるわけでもないからいいよ。」

バイトはあと2時間だという。翔祐と話す為ならそれくらい待てる。


「それで、聞きたいことって何なの?俺だって聞きたいことはあるけどね。」

2時間後、バイトを終えた翔祐と飲食店で向かい合って話した。

「相沢と別れた理由を聞きたいんです。」

母親にも聞いたが、やはり本人から聞かないと納得は出来なかった。

「由紀奈を幸せにする自信がなかったんだよ。君と話した時、俺みたいに不安がってる奴よりも自分を犠牲にしてでも由紀奈の幸せを考えてる奴と一緒にいた方がいいって考えたんだ。俺は縛り付け過ぎたんだよ。プロポーズもして結婚式も挙げて、自分たちをツタンカーメンとアンケセナーメンに例えたりして、10代の女の子にここまでしたのはキツかったかもね。」

そういえば手紙にもツタンカーメンの事が書いてあったな。

「そのツタンカーメンとアンケセナーメンって何ですか?ツタンカーメンはもちろんわかるんですけど。」

「アンケセナーメンはツタンカーメンの奥さんなんだよ。彼は生涯でアンケセナーメンしか愛さなかった。残された絵も、2人は同じ大きさで描かれてるんだ。通常はファラオの奥さんはファラオよりも小さく描かれるんだよ。だけどアンケセナーメンはそうじゃないから特別な存在なんだ。」

津和野の話もそうだが、翔祐が注目する箇所は独特だ。たぶんこの考えに追いつける女が相沢しかいないのだ。翔祐に近付く女がいたとしても、こんな話をされたら勝手に離れていってしまうだろう。

「そういえば由紀奈に告白できた?君みたいな男なら女には困らないだろうね。由紀奈が変な男に掴まるよりは君と付き合う方が安心だけど。」

なんだか翔祐に好かれているのか嫌われているのか分からない。

「もちろん告白はしましたよ。でも迷いなく振られました。だからこれから死ぬ気で手に入れにいきます。」

「へえ、君でも駄目だったんだ。由紀奈らしいけどね。」

「翔祐さんのことを忘れられないからですよ!どんないい男でも相沢のことを振り向かせるのは大変ですよ。翔祐さんさえいなかったら俺と付き合ってたかもしれないのに…。」

そこまで言うと、翔祐は寂しそうな顔をした。

「君の言う通り、由紀奈は本当に俺のことしか見えてなかったんだね。なんで俺、もっと自信が持てなかったかなぁ…。」

翔祐は涙目になっていた。

「やっぱりまだ忘れられてないですよね?相沢のこと。」

「当たり前だよ。親に土下座までして手に入れた女だからね。それに、別れたって愛してはいるから幸せは願ってるよ。たぶん爺さんになっても忘れないと思う。」

翔祐の頬には涙が流れた。

「そんなに好きなら、別れなければよかったのに…。」

「これはもう避けて通れなかったんだよ。俺は君のせいにしたけど、たぶんどんな男が寄ってきてもあの時の俺は嫉妬に狂ってたはずだよ。あんなに嫉妬を向けたのは悪かった。ごめん。」

頭を下げられた。きっとこの翔祐がいつもの翔祐なのだ。俺と出会った時にこの翔祐だったらたぶん奪う気にはならなかった。

「いいんです。1人の女を気が狂うほど愛した結果です。」

俺も死ぬ気で相沢を手に入れようとは思っているが、正直、翔祐の気持ちの強さに勝てる気がしなかった。



「そういえば、実家に帰ったりしないんですか?いくら相沢と別れても親は翔祐さんに会いたいんじゃないですか?」

ご飯を食べながら何気なく雑談をした。誠実そうな母親だったから俺がちょっと心配したのだ。

「わざわざ帰る理由は今は無いからなぁ。母親も帰ってこいなんて今は言えないだろうし。看護師で忙しいから1人になって逆に気が楽かもね。」

「1人?」

「うん。離婚してるからね。」

離婚か…。夏に会った時に翔祐に向かって『このまま結婚してもいずれ離婚する』なんて言ってしまったのを後悔した。

「俺は由紀奈と付き合う為に努力をしたんだよ。由紀奈の家の家事を手伝ってるうちに自分の家の家事もやるようになったし、由紀奈の弟のお世話だってした。そうやって頑張る俺を見て、母さんは全部父さんに話してたらしいんだ。父さんは家のことを何もしなかったから『俺に似なくてよかったな』なんて言ってたみたい。」

確かに息子が家事をするなんて母親からしたら喜びしかないだろう。俺だって家事はほとんどしないからな…。

「それで由紀奈と別れた後に久々に父さんに会いに行ったよ。父さんは気が狂うほど母さんを愛したから別れたんだろって言ったんだ。そしたらさ、幻滅することを言われたんだよ。」

「幻滅?なんて言われたんですか?」

翔祐は父親と会った時の会話を俺に説明し始めた。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

「父さんは気が狂うほど母さんを愛したから別れたんだろ?」

俺はそうだと言ってほしかったのだ。でも父さんの反応は違った。

「本当にお前は俺には顔しか似なかったな。気が狂うほど愛したら別れるわけないだろ。俺が愛想つかされたんだよ。俺が家事も子供の世話も出来ないから…。」

息子の俺が話しているのに酒を飲みながらだった。夜だし父さんの家だから仕方ないが、せめて俺と話す時は手を止めてほしかった。こういうところも含めて母さんの方が無理になったのだろう。

「そういえば翔祐、彼女と教会で結婚式ごっこしたんだって?お前が愛した年下の彼女と。俺は年下の女なんて興味なかったから、女の好みも似なかったんだな。まさか俺の息子がロリコンだなんて思わなかったなぁ。」

「あれはごっこじゃない、本気だったんだ!それに、俺は由紀奈しか愛せないんだからロリコンじゃない!」

由紀奈のお父さんにも同じことを言ったのを思い出した。世の父親はみんな最初はこの反応なのだろう。

「まぁ待て。ロリコンと言ったのは謝る。だけどさ、なんでわざわざ教会に行ったんだ?しかも津和野ってキリスト信者が迫害に遭って死んだ場所だろ?俺なら彼女をそんな暗い場所には連れていけないけどな。」

父さんに分かるわけないと思ったが、信者が反対されてもキリストの信仰をやめなかったことに習って、自分たちも別れないことを誓う為だと話した。別れてしまった後に言っても説得力は無いが…。

「なるほどねぇ。そんな独特な考えに賛同してくれる彼女だったのか。大人びてんだな。でもさ、キリスト教の結婚式なんてそんなあてにならないぞ。」

「どういうことだよ?」

「キリスト信者に事実婚が多い理由って知ってるか?」

「キリスト信者の多い外国は入籍が手間だからだろ。日本と違って紙一枚じゃ済まないから。」

書かないといけない書類が多くて大変だから事実婚になってしまうと聞いたことがある。

「それもあるだろうな。けど、キリスト教の考えはもっと厳しいんだ。キリストの前で愛を誓ってしまったら離婚することが許されないんだ。だからみんな最初から籍を入れないんだ。」

「………。」

俺は自分が発した坂田への発言を思い出した。神の前で愛を誓ってる、離れることは許されない、と…。本当に神は許してくれないんだ…。前の俺なら由紀奈が俺から離れないから安心だなんて思ってたかもしれないが、今みたいに愛したが故に別れを選択するということも許されないのか。

「だからむやみやたらに愛を誓うってのもまずいんだよ。人間なんてそんな強くないんだから。だから翔祐は苦しめられたんだよ。年下の彼女のことなんか忘れて明るい所に遊びに行けばいい。」

最後は励ますように言われた。こんな父親でも一応心配はしてくれるんだな。

「でも、俺は諦めない。自分に自信をつけたらまた由紀奈の所に戻ってプロポーズするつもりだよ。何年先になるか分からないけど。」

「そうか。幸いにもお前は俺に似てないからなんとかなるかもな。家事も小さい子の世話もできるし、無理とは言えねえなぁ。」

あはは、と笑う父さん。似てないと主張しまくってるから、嬉しいのか悲しいのかはよくわからなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「外国って事実婚が多いんですね…。」

翔祐の父親のことには触れないようにした。事実婚が多いということも俺は知らなかったので素直に驚いたのもあったが。

「そうなんだよ。いくら愛を誓っても守れないんだよ。たしかに俺も守れなかったけど。」

「キリスト信者じゃなくてよかったと思いました。」

離婚したら駄目だなんて、人間の弱いところを見ないようにしているだけだ。

「でも翔祐さん、やっぱり相沢と結婚する気はあるんですね。」

「もちろんあるよ。由紀奈が受け入れてくれたらだけどね。社会人になって稼げるようにならないと本当の意味では相手を守れないから、まだ先にはなるけど。」

受け入れるに決まってる…。そしたら本当に俺が入る余地は無い。だから今日翔祐と会えたことは誰にも言わない。翔祐が今でも相沢と結婚する気でいることも勿論言わない。相沢の耳に入ったら今すぐにでも会いに行くだろう。

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