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孤児院育ちの王女は、護衛騎士の重すぎる愛に気づかない  作者: はな
最終章

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57、涙越しに知った、君の恋

テオドール視点続きます。



 そして演習のときに少し探ってみようと思ったところで、あの女が現れた。


 一日たりとも忘れたことはない。

 兄上を奪った、あの女だけは。


 殺す勢いで攻撃を仕掛けるも、簡単にいなされてしまう。


 そしてとうとう押され気味の相打ちになり、逃げられたところで、リアの異変に気付いた。


(まさか、忘却魔法が解けた……?)


 その可能性がないわけではない。

 でもそれは兄上も望んでいないこと。

 どうするべきか。


 リアは眠り続けている。

 仕方なくリアのことをよくわかっている、エスパーダ公爵令息に相談するしかないという結論に至った。


 そして途中でリアの侍女が来た。

 走りだしたエスパーダ公爵令息についていったが、部屋にはさすがに入るわけにはいかない、と待っていると国王まで来て。


 そしてやっとでてきたエスパーダ公爵令息の顔は、無表情ながらも真っ青なことがわかる。


 ——リアの記憶が戻ったか。


 そしてリアがいなくなり、戻ってきたところで自国からの使いが来たことを知った。


『急ぎ帰ってくるように。帰ってこない場合は見捨てる』の言葉の意味を正しく理解した。


(これ以上、リアを危険にさらすわけにはいかない……!)


 急いで帰る支度をし、兄上から預かった手紙だけでも渡したいとリアに会いに行った。


 あらかじめ聞いていた通り、リアはあまり表情もなく元気もなかったが、こんなときでも綺麗だった。 


 手紙を渡して、長年の使命を果たしたとほっとしたところで、思っていたことを冗談まじりに聞いてみた。


「やっと渡せてよかった。リア、僕のこと避けてたでしょ?」

「そんな、つもりは……いえ、避けて、いたわ……ごめんなさい。どうしても、テオ兄……テオバルト殿下が、亡くなったことを……受け入れられなくて……わかっては、いたのに……」


 その言葉で、やっぱり僕自身に問題があるわけでも、嫌われているというわけでもなかったことに安堵した。


 そして手紙を読む間は一緒にいてほしい、というお願いにもすぐに承諾した。

 必要とされているようで嬉しかったから。


 こういってはいけないのかもしれないけれど。


 リアは泣き顔でさえも綺麗だった──


 泣いているのに、目を離せなかった。

 そんな自分に、戸惑った。


 手紙の内容はわからないけれど、こんなに思われている兄上が心底羨ましいと思った。


 でもこんなとき、自分の無力さを思い知る。

 ハンカチを渡すくらいしかできなかった。


 そしてひとしきり落ち着いたころには、リアはどこかすっきりした顔をしていた。

 

「……どうして、国に戻るの?あ、言えないことなら大丈夫なのだけれど……」


 その言葉で現実に帰ってきた。

 リアも戻ってきたばかりで知らないのだろう。

 リア自身にも関わることなので、理由は伝えたほうがいいだろう。


 そして僕は何があっても、君を。


 リアを守る──


 そう伝えると、リアの顔色が変わった。

 きっと僕が何をしようとしているか、気づいたのだろう。


(僕の気持ちとかには鈍感なのに、どうしてこういうところは……)


 ……肝心なことには、全然気づいてくれないのに。


 きっとエスパーダ公爵令息の気持ちにも気づいてない。


 すると、僕のことをまっすぐに見つめる。

 その視線にどきっとしたのはしょうがないと思う。


「テオドール殿下、私は——ネージュラパン王国に嫁ぎます」


 その言葉に一瞬頭が真っ白になる。

 言葉を理解するうちに。それだけはダメだと、止めなければと思った。


「だめだ!普通の政略結婚とはわけが違う!殺されるかもしれないんだよ!」

「それでも。それで戦争が防げるのであれば。大勢の人が不必要な傷を負うことがないのであれば、これは私の役目です」


 そうきっぱり言い切った彼女は、ただの年下の可愛い女の子でも、妹でもなく。


 ——ひとりの王女だった。


「それでも……」

「私はこれから……議会に行ってこの旨を伝えます。だから……テオドール殿下が今無理をしてまで行動を起こす必要はありません」

「そんな……」


 きっぱりとそう言いきったルーナは、意志を曲げるつもりはないと目で訴えてくる。


 こんな強い目に懐かしさを感じる。

 その瞳はいつかの兄上を彷彿とさせた。


 反論する言葉が見つからない。

 こういう目をした人には、何を言っても意味をなさないことを知っている。


「それに……簡単に、やられるつもりはありません」


 にっこり笑って見てくれた彼女は、こんな状況でも輝いていて。


 本当は止めたい。

 それでも彼女の覚悟を踏みにじれない。


 ——それなら、僕も僕のすべきことを。


 そして彼女は侍女に指示を出し、手早く準備をし始めたので部屋を出た。


 客室に戻り、多くない荷物を整理しながら、その少なさを目の当たりにする。


 大切なものは意図的に作らないようにしていた。


 兄上のときのような思いは、もうしたくなかった。

 それでも、溢れてくる想いがあることを初めて知った。


(……せめて、最後に想いを伝えることは許されるだろうか)


 どう転ぶかわからないが、気持ちだけは伝えたいと思った。

 僕が生きていたことを誰かに覚えていてもらいたい。


 そう思ったのは初めてだった。


 兄上を亡くしてしまってからは、兄上が治るはずだった国をせめて守りたかった。

 兄上が最期まで守ろうとしたリアを守りたかった。


 ——ただそのために生きてきたんだ。


 まだ戻ってきていないかもしれないが、もう一度会いたい。


 その思いで先ほどのリアの部屋の近くまで来た時。


『ルーナ!考え直せ!』


 エスパーダ公爵令息と話しているところに遭遇し、咄嗟に身を隠した。

 いつものエスパーダ公爵令息なら気づいていただろうが、今はそれどころではないのか。


 物陰から様子を伺うと、先ほどのことで喧嘩しているのか。

 しかしリアの本心がわからない。


『それでも俺は、ルーナが好きだ。何があっても、それは変わらない』


 何故だか、エスパーダ公爵令息のその告白がとても眩しいものに感じた。


 あんなふうに真っ直ぐ想いをぶつけられることが、少し羨ましかった。


 僕も気持ちがあるのは、間違いない。


 でも──


 自分の気持ちに戸惑っているうちに、エスパーダ公爵令息は去っていった。


 もうでてもいいか、そう思った時。


「……レイ、大好きよ」


 その言葉に思わずリアの顔を見ると、涙を流していた。

 先ほどの涙とは違うことがわかるその表情を見て。


 ——ああ。


 どれだけ想っても、彼女の心はもう決まっているのだと理解した。


 しばらくその顔を見つめてしまったが、僕はそっと立ち去るしかなかった。


(……僕の気持ちは、リアの迷惑になってしまうのではないか)


 その気持ちが強くなり、まとまらない考えの中戻るために歩く。

 するとそこには、会って話をしなければと思っていたエスパーダ公爵令息とフェリシア嬢がいた。


 そして、エスパーダ公爵令息から提案してくれたことで、話はトントン拍子で進んで行った。


 途中、国王と王太子が来た時にはどうなることかと思ったが、うまくまとまってよかった。


 反乱を起こすときの最大の懸念事項は黒の魔女だろう。

 何をしてくるかわからない。

 正直、あの国王は今は魔法も碌に使っていないだろうから、どうとでもなる気がする。


 そしてその予想通り、あっさりと反乱は成功した。

 反乱という名前が大層なものに感じるほどに。


 しかし黒の魔女がもうすでにいなかったことが、今後どう出るか。


 リアに何かあってからでは遅い。

 そのため早々に、残ってくれたエスパーダ公爵令息を返したほうがいい、という結論になった。


 リアのことを想うと、胸を刺されるような痛みを覚える。


 それでも——僕がリアのためにできることは。


 別れ際、少しエスパーダ公爵令息に発破をかけたが——いい方向に転がればいい。


 自分の感情を押し付けて、政略だなんだと無理やり彼女を僕に縛りつけるのは正しいとは、思えない。


 リアは涙を流す姿さえも綺麗だったけど。


 やっぱり笑顔が一番よく似合うから。


読んでいただきありがとうございます!

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