56、兄のためだったはずなのに
テオドール視点です。
ずっと探していた君をやっとの思いで見つけた。
最初は、兄上の代わりに元気にしていることを確認したかっただけだった。
——なのに。
いつから、彼女自身を求めるようになったのだろう。
◇
やっとの思いで留学までこぎつけ、留学先での王太子の誕生日パーティーに招待された。
運が良ければ、ここでリアを見つけることができるかもしれない、とは確かに思ってはいた。
周囲に視線を走らせながらも、一緒に来た宰相とともに挨拶をして回っていた時。
会場の中心近くにいる子にふと目がいった。
「っ!!」
──衝撃に息が止まるかと思った。
遠目からでもわかる美貌。
華奢な体つきにすっと伸びた背筋。
一つ一つが美しい立ち居振る舞い。
凛としてそこに存在する彼女は、醸し出す雰囲気からして周りとはまるで違っていた。
柔らかな青色のドレスには金色の薔薇の刺繍が施されており、身動きするたびに光を受けてきらきらと輝いていた。
ピンク色の背中まであるウェーブがかった長い髪が、彼女をさらに彩っていた。
ほうっとため息をつき、そこで初めて自分が彼女に見惚れていたことに気が付いた。
今までそんな経験はしたことはなく、自分自身に驚く。
しかしそこで、兄上から聞いていたリアの特徴と全く同じことにも気が付いた。
……さすがに距離があって瞳に金冠があるのかまではわからないが。
そして挨拶の途中だったことも思い出し、談笑に戻ったのも束の間。
視線を感じて振り返ると、先ほどのリアと思われる女の子が私をみて目を見開いていることが分かった。
(やっぱりそうか──)
この時ほどいるとは思っていなかった神に感謝したことはないかもしれない。
宰相に耳打ちし、徐々に彼女に近づき、不自然にならないよう気を付けながらできるだけ丁寧に挨拶をした。
そして彼女の金冠がある、空色の綺麗な瞳と目があい、心臓がドクンと跳ねた気がした。
戸惑ったように挨拶を返す彼女を、可愛いと思ってしまった。
隣にエスパーダ公爵令息がいたことにも気づかないくらい、彼女に夢中になっていたことに後になってから気づいた。
そして何とか彼女と2人で話す機会を得ることができた。
「では、こちらなら大丈夫かと思いますので、どうぞ。お兄様が入場されるまであまり時間もありませんし……」
渋る彼を何とか説得してくれたことに少しの優越感を持ちつつも、話せることに心底安堵した。
兄上を理由にすれば、彼女は拒絶しない。
そんな打算が、自分の中にあることに気づいていた。
「ありがとうございます、ルーナリア王女殿下。それでは単刀直入に話に入らせていただきます。私のことは、よろしければテオドールとお呼びください。もしくはテオとでも」
「……ありがとうございます。ではどうぞ私のこともルーナリアと」
「ルーナリア。もしよければ敬語もなくしてもよろしいでしょうか。君も敬語はなくしてほしいのですが」
一方的にではあるが、昔から知っている彼女との距離を縮めたかった。
兄上のように自然には呼べない。
それでも、いつか自分だけの「リア」になってほしいと思った。
「わかったわ」
「ついでに、リアと呼んでもいいかな?」
「……ええ」
「早速だけれど……君は、テオバルト…テオ兄のことは覚えているだろうか」
「もちろんよ。……覚えているに決まっているわ」
「テオバルトは僕の双子の兄なんだ。兄上からの手紙で君のことは知っていた。だからか今日初めてあったけど、初めて会ったとは思えないな。双子だからか、見た目は同じようなものだろう?」
そんな話をしながらも、彼女の表情を観察すると、やはり兄上がもういないことはわかっているようだった。
表情に出さないようにはしているが、辛そうな顔にみえる。
「ええ……そっくりで驚いたわ……こんなに同じ顔の人がいるのねって」
「ふふっよく言われてた。ずっと、探していたんだ。でもあの孤児院は今はもうなくて、子供たちもほかの孤児院に散り散りになっていた。ましてや隣国とはいえ休戦中の他国のことをそう簡単に調べることができなかったんだ」
「そ、うだったの……」
「うん。兄上に聞いていた話をもとに、魔力があって魔法が使えるなら、と思っていたけれど……まさか本当に王女様だったなんて。今日、話せてよかったよ。これからよろしくね。僕のこと、テオ兄って呼んでくれてもいいんだよ?」
「さすがに王太子様にそのようなこと、できないわ」
彼女の口から愛称で呼んでもらいたいという気持ちもあったが、まだ時間はあるからと一旦引くことにした。
「そうかい?そうそう、今度から僕もシュクール王立学園に留学することになったんだ。君を探すために来る予定だったんだけど、留学前に見つけることができちゃったね。本当は新学期のタイミングでの予定だったんだけど……手続きに手違いがあったのか手間取ってしまってね。続きはまだこれから話す機会があるだろうから、おいおい話そう」
そのとき、彼が迎えに来た。
どちらにしても時間がないので大人しく引き下がることにする。
学園で一緒になれば、おのずと一緒にいらる時間もできるだろうと、そのときは楽観視していた。
先ほどから飛ばされている殺気で、彼が彼女のことを特別に思っているのは明らかだった。
止められる前にと膝を折り、手の甲に口づけた。
彼の様子をちらっと盗み見ると、無表情ながらも殺気だけはひしひしと感じる。
それを背中に受けながらもその場を後にした。
しかしこの後。
学園に通うようになってから、思うようにリアと距離を縮められなかった。
声をかけた時から、ルーナはある程度俺に好意的だったように思う。
それでもなぜかある程度までしか親しくなれない。
それ以上に踏み込もうとすると、見えない壁に阻まれるような感覚を覚える。
話しかけると特に嫌な顔はしないのに、決して自分からは近づいてこない。
嫌われているわけではないとは思う。
けれど。
(これは……拒絶なのか……?)
兄上と瓜二つということもあって、話を聞いていた通りならリアのほうから近寄ってきてくれると思っていたのだが。
婚約者候補の彼に遠慮でもしているのか。
調べてみると、彼は婚約者ではなく、正確には婚約者候補だった。
なんで候補のままなのかはいくら調べてもわからなかったが、候補であるなら自分にもまだ可能性はあるだろう。
そして何よりも。
平和条約の象徴として婚姻を結ぶのも有用でないか。
昔からよくある、政略結婚の相手としても申し分ない。
そんなことにはしたくないが。
途中、ディアマンテ公爵令嬢とのもつれで階段上から降ってきたときには驚いたが、たまたま近くにいてよかったと思う。
僕と関わりたくないのかと思えば、困った状況になる前に助けてくれる。
近づいたように感じても、肝心の彼女の心の奥底が見えない。
やっぱり、嫌われているわけではないと思う。
だけど、彼女に好意を伝えて、答えてもらえるとも思えない。
そしてそれから演習とか一緒になり、彼女と話す機会に恵まれても、彼女が僕のことをどう思っているのか、何を考えているのかは依然としてわからなかった。
気づけば、兄上のためではなく。
俺自身が、彼女を求めていた。
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