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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
最終章

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57、テオドールの回想②

テオドール視点続きます。



 そして演習のときに少し探ってみようと思ったところで、あの女が現れた。


 1日も忘れたことはない。

 兄上の仇であるあの女だけは。

 殺す勢いで攻撃を仕掛けるも、簡単にいなされてしまう。


 そしてとうとう押され気味の相打ちになり、逃げられたところで、リアの異変に気付いた。


 (まさか、忘却魔法が解けた……?)


 その可能性がないわけではない。でもそれは兄上も望んでいないこと。どうするべきか。


 リアは眠り続けている。

 仕方なくリアのことをよくわかっている、エスパーダ公爵令息に相談するしかないという結論に至った。


 そして途中でリアの侍女が来た。走りだしたエスパーダ公爵令息についていったが、部屋にはさすがに入るわけにはいかない、と待っていると国王まで来て。


 そしてやっとでてきたエスパーダ公爵令息の顔は、無表情ながらも真っ青なことがわかる。


 リアの記憶が戻ったことを悟った。


 そしてリアがいなくなり、戻ってきたところで自国からの使いが来たことを知った。

『急ぎ帰ってくるように。帰ってこない場合は見捨てる』の言葉の意味を正しく理解した。


(これ以上、リアを危険にさらすわけにはいかない……!)


 急いで帰る支度をし、兄上から預かった手紙だけでも渡したいとリアに会いに行った。


 あらかじめ聞いていた通り、リアはあまり表情もなく元気もなかったが、こんなときでも綺麗だった。 


 手紙を渡して、長年の使命を果たしたとほっとしたところで、思っていたことを冗談まじりに聞いてみた。


「やっと渡せてよかった。リア、僕のこと避けてたでしょ?」

「そんな、つもりは……いえ、避けて、いたわ……ごめんなさい。どうしても、テオ兄……テオバルト殿下が、亡くなったことを……受け入れられなくて……わかっては、いたのに……」



 その言葉で、やっぱり僕自身に問題があるわけでも、嫌われているというわけでもなかったことに安堵した。

 そして手紙を読む間は一緒にいてほしい、というお願いにもすぐに承諾した。

 必要とされているようで嬉しかった。


 こういってはいけないのかもしれないけれど。


 リアは泣き顔でさえも綺麗だった──


 手紙の内容はわからないけれど、こんなに思われている兄上が心底羨ましいと思った。


 でもこんなとき、自分の無力さを思い知る。

 ハンカチを渡すくらいしかできなった。


 そしてひとしきり落ち着いたころには、リアはどこかすっきりした顔をしていた。

 


「……どうして、国に戻るの?あ、言えないことなら大丈夫なのだけれど……」



 その言葉で現実に帰ってきた。

 リアも戻ってきたばかりで知らないのだろう。

 リア自身にも関わることなので、理由は伝えたほうがいいだろう。


 そして僕は何があっても、君を。リアを守る──


 そう伝えると、リアの顔色が変わった。

 きっと僕が何をしようとしているか、気づいたのだろう。


(僕の気持ちとかには鈍感なのに、どうしてこういうところは……)


 きっとエスパーダ公爵令息の気持ちにも気づいてないだろうに。


 すると、僕のことをまっすぐに見つめる。その視線にどきっとしたのはしょうがないと思う。



「テオドール殿下、私は……ネージュラパン王国に嫁ぎます」



 その言葉に一瞬頭が真っ白になる。

 言葉を理解するうちにそれだけはダメだと、止めなければと思った。



「だめだ!普通の政略結婚とはわけが違う!殺されるかもしれないんだよ!」

「それでも。それで戦争が防げるのであれば。大勢の人が不必要な傷を負うことがないのであれば、これは私の役目です」



 そうきっぱり言い切った彼女は、年下の可愛い女の子でも、妹でもなく。


 ひとりの王女だった。


「それでも……」

「私はこれから……議会に行ってこの旨を伝えます。だから……テオドール殿下が今無理をしてまで行動を起こす必要はありません」

「そんな……」



 きっぱりとそう言いきったルーナは、意志を曲げるつもりはないと目で訴えてくる。


 こんな強い目に懐かしさを感じる。その瞳はいつかの兄上を彷彿とさせた。


 反論する言葉が見つからない。こういう目をした人には、何を言っても意味をなさないことを知っている。



「それに……簡単に、やられるつもりはありません」



 にっこり笑って見てくれた彼女は、こんな状況でも輝いていて。


 それなら。僕も僕のすべきことを──



 そして彼女は侍女に指示を出して手速く準備をし始めたので部屋を出た。



 自分の客室に戻り、多くない荷物を整理したところで。自分の荷物の少なさを目の当たりにする。


 大切なものは意図的に作らないようにしていた。


 兄上のときのような思いはもうしたくなかった。それでも、溢れてくる想いがあることを初めて知った。


(……せめて、最後に思いを伝えることは許されるだろうか)


 どう転ぶかわからないが、気持ちだけは伝えたいと思った。僕が生きていたことを誰かに覚えていてもらいたい。そう思ったのは初めてだった。


 兄上を亡くしてしまってからは、兄上が治るはずだった国をせめて守りたかった。兄上が最期まで守ろうとしたリアを守りたかった。


 ただそのために生きてきたんだ。


 まだ戻ってきていないかもしれないが、もう一度会いたい。


 その思いで先ほどのリアの部屋の近くまで来た時。



『ルーナ!考え直せ!』


 エスパーダ公爵令息と話しているところに遭遇し、咄嗟に身を隠した。

 いつものエスパーダ公爵令息なら気づいていただろうが、今はそれどころではないのか。


 物陰から様子を伺うと、先ほどのことで喧嘩しているのか。しかしリアの本心がわからない。



『それでも俺は、ルーナが好きだ。何があっても、それは変わらない』



 何故だか、エスパーダ公爵令息のその告白がとても眩しいものに感じた。

 僕も気持ちがあるのは、間違いない。でも──


 自分の気持ちに戸惑っているうちに、エスパーダ公爵令息は去っていった。


 もうでてもいいか、そう思った時。



「……レイ、大好きよ」



 その言葉に思わずリアの顔を見ると、涙を流していた。先ほどの涙とは違うことがわかるその表情を見て。

 しばらくその顔を見つめてしまったが、僕はそっと立ち去るしかなかった。


(……僕の気持ちは、リアの迷惑になってしまうのではないか)


 その気持ちが強くなり、まとまらない考えの中戻るために歩いていると、どちらにしても会って話をしなくては、と思っていたエスパーダ公爵令息とフェリシア嬢がいた。


 そして、エスパーダ公爵令息から提案してくれて、話はトントン拍子で進んで行った。


 途中、国王と王太子が来た時にはどうなることかと思ったが、うまくまとまってよかった。


 反乱を起こすときの最大の懸念事項は黒の魔女だろう。何をしてくるかわからかい。

 正直、あの国王は今は魔法も碌に使っていないだろうから、どうとでもなる気がする。


 そしてその予想通り、あっさりと反乱は成功した。反乱という名前が大層なものに感じるほどに。


 しかし黒の魔女がもうすでにいなかったことが、今後どう出るか。


 リアに何かあってからでは遅い。

 そのため早々に、残ってくれたエスパーダ公爵令息を返したほうがいい、という結論になった。



 リアのことを想うと、胸を刺されるような痛みを覚える。それでも。僕がリアのためにできることは。


 別れ際。少しエスパーダ公爵令息に発破をかけたがいい方向に転がればいい。


 自分の感情を押し付けて、政略だなんだと無理やり彼女を僕に縛りつけるのは正しいとは、思えない。


 リアは涙を流す姿さえも綺麗だったけど。

 やっぱり笑顔が一番よく似合うから。


読んでいただきありがとうございます!

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