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夢に向かって猪突猛進な『不遇』王女には事情がある!?〜孤児院出身の王女は愛されることには慣れていません〜  作者: はな
第三章

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46、自覚と覚悟




 そしてひとしきり涙を流して、気分は些かスッキリしたところで。


 テオドール殿下は何故急いで国に戻らなければならなくなったのかと、ふと疑問に思った。



「……どうして、国に戻るの?あ、言えないことなら大丈夫なのだけれど……」

「ああ、そうか。まだ聞いていないよね……。まあ、リアにも関わる話だから教えるけど……」



 そう言いながら、テオドール殿下はちらっとナタリーのほうをみて小声で話し出した。



「……今、僕の国と休戦中なのはわかっていると思うけど……ネージュラパン王国の国王が休戦協定の破棄を宣言したんだ」

「……え!!??」



 そのときふと、黒の魔女の言葉を思い出した。


『急ぎ帰ってくるように。帰ってこない場合は見捨てる』


 このことだったのか、と納得する。



「……でも、逆に休戦協定の破棄をせずに、そのまま平和条約を結ぶ準備もあると……」

「えぇ?」



 先ほどのことと逆のことを言っていることに困惑する。何か条件があるのか。そう聞くと、テオドール殿下は本当に申し訳なさそうに答えた。



「それが、リア。君をネージュラパン国王の側妃として差し出せ、という内容だったんだ」

「……私を、側妃……」

「でもそんなの許せるはずもない。そもそも側妃なんて口実で、狙いはおそらく君の魔力だ。僕はそれを阻止するために戻ることにしたんだ。……だから、安心して」



 テオドール殿下は決意を固めた顔をしてそう言い切ると、私を見て優しく笑った。


 阻止すると、口では簡単に言っているが、国としての決定に否を唱えるのは、相当厳しいだろう。たとえ王太子でも。

 それにネージュラパン王国は国王の独裁政権で、そもそも否と言える人もいなくなったと聞いている。


 まさに、否を唱えるのは命懸けの──


 そこまで考えて、ハッとしてテオドール殿下を見つめた。


 私の顔を見てテオドール殿下も、私が辿り着いた答えを悟ったのか。眉尻を下げて、困ったように微笑むテオドール殿下と視線が絡んだ。



「……リアのためだけじゃないよ。遅かれ早かれ、こうする予定だったんだ。……予定より、少し早まっただけだよ」

「そんな……」

「おそらく、今シュルーク王国側でもこの件について議論されていると思う。おそらく君の父上……国王陛下は君を渡すという選択はしないだろう。だから、僕は早く戻らなければいけない。手遅れになる前に。バタバタして申し訳ないけど……リアはうまくいくように、祈っていて」



 私のためだけじゃないとは言っているが、半分以上は私のためだろう。予定より早まったと言うことは、まだ準備も十分にできていないはず。


 その状態で臨むのは、果たして勝算がどれほどあるのか。



「……だめ」

「え?」

「だめよ、そんなこと……」

「……うまくいけば、戦争をしなくて済む。それに、君には……幸せになってほしいんだ」

「幸せ……?」



 みんなして、私に幸せになってほしいという。私にそんな価値があるのか、いまだにわからない。けど。


 守られてばかりの自分が悔しくてやるせなくて、きつく唇を噛み締めた。



「……それは、私も同じよ」

「……リア?」

「みんな、私に幸せになってほしいと言うの。でも……どうしてみんな、私の幸せにはみんなが幸せでなければならないと思わないの……?」

「……?ごめん、声が小さくてよく聞こえない……」



 ──私だって大好きな人達を守りたい。



 無意識に俯いていた顔を上げて、真っ直ぐにテオドール殿下を見据える。

 私と目があったテオドール殿下は目を見開いている。



「テオドール殿下の、意向はわかりました」



 お父様やお兄様も、私を守るために私を側妃として差し出すのではなく、戦争を選択するだろうことが容易く想像できてしまう。側妃して嫁いでも、まともな待遇など期待できないのは間違いないだろう。



 そしておそらく。戦争になると先頭の指揮に立つのはお兄様で。最前線にはレイが行くことになるだろう。


『俺はルーナのそばにいられるならなんだって……ルーナのために死ねというのなら、受け入れるくらいには』


 つい昨日の会話が蘇ってくる。あれは冗談じゃなくて本気だと、もう私はわかっている。


 レイが死ぬかもしれない。もちろんすぐにそんなことになるとは思っていない。でも、何が起きるかわからないのが戦争だ。

 そして心優しいレイは、きっと何の罪もない人達を殺めてしまうことに苦しむだろう。


 そのとき、絶対に彼を失いたくない、苦しむようなことはしてほしくないと思った。もちろん、ナタリーやお兄様、フェリシアたちもそうなのだけど。


 レイだけは──



 その時、すとんと胸の中に落ちた。



(……あぁ、そっか。……そうなのね)



 自分でも、とっくにこの気持ちに気づいていたのかもしれない。けれど、私は約束を果たすことを優先して、ずっと気づかないフリをしていた。



 『知ってる……ルーナが今でもテオ兄を想っていることは』とレイが言っていたから、自分でもそうなのかと思っていたけれど──


 テオ兄のことが、私は好き。もちろん大好きだけれど。

 『僕の大切な妹』という手紙に書いてあったことに対して感じたのは。私にとっても、とても大切なお兄様だ、という気持ちだった。


 レイに向ける気持ちとは違う。


 どうして気づかなかったのか。シャルロットと話しているのを見るだけでもやもやして。レイの幸せのために婚約解消しなければと思っても、したくなくて。他の子がレイに絡むのを見るのが嫌だった。


 レイが笑ってくれると嬉しくて。レイの声が聞こえるとすぐにわかって。レイが私を見捨てずにいてくれると安心して。レイの隣にいると心臓が甘く高鳴った。

 これからもずっと一緒なのだと、無意識に思っていた。


 いつも当たり前にそばに居すぎて、気づかなかったのもあるのかもしれない。

 

 それでももう──


 気付かないフリは出来ないくらいに、私の中でこの感情は育ってしまっていた。それが、いつからなのかはわからないけれど。


(私はとっくに、レイの事が好きだったのね……)



 どうして今、このタイミングで自覚してしまったのか。自分のあまりの鈍さと、タイミングの悪さに嫌気がさしつつも、私のすることは決まった。



「テオドール殿下、私は──」





読んでいただきありがとうございます!

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