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孤児院育ちの王女は、護衛騎士の重すぎる愛に気づかない  作者: はな
第三章

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45、手紙



「……テオドール殿下が?」

「はい。何やらお急ぎのようで。姫様にお会いできないかと……」


 あれから次に目を覚ますと、もう朝だった。

 

 寝たのは昼過ぎだったはずなのにと驚いたが、体は驚くほど軽くなっており、熱は下がったようだった。


 そして医者の診察も終え、今日は1日安静にするように、告げられたのがつい先ほど。


(テオドール殿下が急ぎで、というならよっぽどのことね……)


 まだ心の準備ができていなかったが、いつ準備ができるかわからない。

 こういうことは、勢いも必要かもしれない。


「……私の状態を伝えて、それでもよければと伝えてもらえる?」

「かしこまりました。急ぎ行ってまいります」


(どちらにしても、テオドール殿下とも話をしなければと思っていたから……)


 この格好でということだけが気になるが、急ぎなのであればそうも言っていられないのだろう。


 程なくしてテオドール殿下を伴って、ナタリーが帰ってきた。


「体調がよくないときに申し訳ないね。起き上がって大丈夫?」

「もう大丈夫よ。ベッドの上からで申し訳ないけれど……」

「それは全然、かまわないよ。急いで国に戻らなければいけなくなってしまってね……」

「そうなの……せっかく来たばかりなのに、残念ね」


 話しながらもナタリーがベッドの横にさっと椅子を置いて、話が聞こえないよう壁際まで下がった。


 つい先日留学にきたばかりだというのに。

 まだ2か月も経っていないのではないか。


「帰る前に……これを、渡したくて」


 そう言って私に差し出したのは一通の手紙だった。


 綺麗な状態ではあるがところどころ擦り切れそうになっており、少し古いものに見える。


 不思議に思いながらも、宛名の私の名前をみて、心臓がドクンっと音を立てた。


 よほど急いでいたのか、なぐり書きのようなそれは、朧げながらも見覚えのある筆跡だと思った。


 そして差出人の名前を確認したとき納得したものの、私は目を見開いて動けなくなってしまった。


「……兄上が、君を助けに行く前に書いた手紙。……もう、記憶は戻ったのだろう?」

「ええ……」


 テオ兄が私に忘却魔法をかけたことは、帰り道にレイに聞いていた。


 手紙を受け取った手が震えてしまう。


 その震える指でそっと名前をなぞる。


「やっと渡せてよかった。リア、僕のこと避けてたでしょ?」

「そんな、つもりは……いえ、避けていたわ……ごめんなさい。どうしても、テオ兄……テオバルト殿下が、亡くなったことを……受け入れられなくて……わかっては、いたのに……」


 冗談っぽく言うテオドール殿下に、だんだんと申し訳なくなってきて、素直に話してしまう。


「いや、冗談だよ。ごめんね。……僕でもリアの立場だったら、そうしていたかもしれないし。気にしないで」

「……本当に、ごめんなさい」

「いいって。せめてこれが渡せてよかったよ」

「今……読んでも、いいですか?」

「もちろん。僕も内容は知らないんだ。でも、読むなら僕は出たほうが……」

「いえ、いてくださいませんか。……1人だと、読む決心が鈍ってしまいそうで……」

「……わかった」

「ありがとう、ございます」


 テオドール殿下は出ていこうとしたが、引き留めてしまった。


 改めて1人で読むということが、できるか自信がなかった。

 今この勢いのまま読まなければ、きっとまた逃げてしまう気がした。


 だから、テオ兄の弟であるテオドール殿下の前で読みたかった。


 しばらく手紙を眺めた後に覚悟を決めて、ゆっくり手紙を開封した。

 文章はやはり急いでいたのか短めで、普段見ていた字よりは乱れていた。



◇◇◇◇


 リアへ


 この手紙をリアが読んでいるということは、僕に何があったのかもしれない。

 でも僕は何があっても後悔はしていないよ。それだけは断言できる。

 だからリアも、後悔しないよう自分の選んだ道を信じて進むんだ。


 あと『笑っていて』って言ったけど、無理してまで笑わなくていいからね。

 笑いたい時には笑って、泣きたい時には泣けばいいと、僕は思う。

 リアは素直だから、きっと頑張りすぎてしまうと思ってた。


 リアはいつまでもずっと、僕の大切な妹で、大切な人。それを忘れないで。


 僕をテオ兄と呼んでくれて、慕ってくれてありがとう。


          テオバルト



◇◇◇◇



 懐かしい筆跡に視界がぼやけて、最後まで読むのもやっとだった。

 気づけばぼろぼろと涙が溢れ出していた。


「……っ……う、……」


(うん、うん……テオ兄、私、頑張るから)


 ——私の、お兄ちゃん。


 もちろんセオドアお兄様もお兄様だけれど。

 私にとってテオ兄も、間違いなく兄だった。


 たった一年。


 テオ兄と過ごした日々は、私にとってかけがえのない時間で、記憶で、生きる原動力だった。


 テオ兄は大切な人。

 今も昔も──そしてこれからも。


 それは変わらない。

 変わることはないと強く思った時。


 彼との記憶だった全てが、思い出に変わった気がした。

 でもそれは、恐れていたようなものではなくて。


 テオドール殿下は困ったような表情を浮かべ、そっとハンカチを差し出してくれた。

 お礼を言いながら受け取り涙を拭うも、あとからあとから涙が溢れて止まらない。


 手紙を読んだことで、どうしようもなく心が軽くなっていくのを感じていた。


『笑っていて』


 テオ兄の言葉が、いつも心のどこかで私を縛り付けていたのかもしれない。

 笑っていなければならないと、ずっと思っていた。


 それが自分で思っていた以上に、重荷になっていたのかもしれない。


 ようやく本当の意味で前を向ける。

 そんな気がした。


 テオドール殿下は子供みたいに泣きじゃくる私のために、急いでいるはずなのに落ち着くまでそばにいてくれた。



 テオドール殿下には失礼かもしれないけど、何故だか無性にレイに会いたくなった。




読んでいただきありがとうございます!

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