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孤児院育ちの王女は、護衛騎士の重すぎる愛に気づかない  作者: はな
第三章

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44、笑えなくても

レイモンド視点です



『レイ……私ね、テオ兄の後を追うことは、やめようと思うの……』


 帰り道、馬を軽く走らせながらルーナがそういった。


『でも……まだ、笑えないの……。“笑っていて”っていう約束、守れそうになくて……』


 ルーナは両手で顔を覆った。

 泣きそうな声だが、泣いてはいないようで。

 泣いていないことにホッとしつつも、俺の気持ちも伝える。


『今は、それでいいと思う。少なくとも俺の前では、無理に笑おうとしなくていい。……正直、あの仮面のような顔は、もうしばらく見たくない』

『仮面……』


 ルーナも病み上がりのうえ、馬を走らせ続けて湖に浸ってたんだ。

 体力の限界だったのだろう。


 最初は躊躇っていた相乗りも、今では俺に完全に身を委ねていた。

 会話をしていたときに表情はなかったが。


 ルーナと出会って8年ほど。

 今まで怒ったところも、嬉し涙ではない泣き顔も見たことがなく、今回初めて見た。


 少しでも間違えれば、ルーナを失うかもしれない。


 その思いで、必死だったけど。

 一緒に帰れていることに心底安堵している自分もいるけど。


 あんなルーナを見れたことが、少し嬉しいと思っている自分もいて。


 ——やっと、本当の感情を見せてくれた気がした。


(俺も大概だな……)


『なんか、レイ……遠慮が、なくなった……?』

『アピールしているつもりだったが、全然伝わっていなかったことがわかったから。少しの遠慮もしないことにしたんだ』

『そ、そう……?』


 やはり全然伝わっていなかったらしい。


 ルーナはここまで言ってもよくわかってないみたいだから、今後身をもって知ってもらうとして。


 まず今のルーナには休養が必要だ。


 急いで城に帰ると、泣きそうな顔をした面々が出迎えたが、ルーナを叱ろうとは思っていたようで。


 しかしそれもルーナが発熱していることがわかったことで、すぐに終わった。


 俺もシャワーを浴びて着替え、普段の護衛業務に戻った。

 扉のところで立っていると、ナタリーが涙を堪えられなかったようで出てきた。


 ナタリーの気持ちもわかる。


 だがそのとき、背後の扉が静かに少しだけ開いた。

 淡いピンクの髪が見えている。


 ——体調が悪いのだから、寝ていればいいものを。


 でもある意味チャンスかと思い、ナタリーを適当な理由で追いやった。


 扉を開けると案の定、ルーナが倒れ込んできた。

 抱き留めるも、やはり体温が高いのか熱い。


 すぐにベッドに寝かせなければと、横抱きにすると、驚いたのか首に腕を回してきた。


 まさかそうくるとは思わず、体が反応してしまった。

 幸い、ギリギリのところで顔には出さずに済んだと思う。


 横目でみるルーナは表情は少し苦しげながらも、熱のせいか瞳は若干潤み、目元はうっすらと赤くなっている。


 高熱でつらいのだろうが、普段は見せない無防備な姿は、妙に色気があった。


 庇護欲がそそられるとはこういうことだろう。


(これではまるで拷問のようだ……)


 チャンスと思ったのも束の間。

 返り討ちにあった気分になった。


 ルーナからの視線を感じたが、気づいていないふりをしてそっとベッドに下ろした。


 今のルーナの姿は目に毒のためすぐに掛け布をかけて視界から追いやり、ナタリーのことでショックを受けてるらしいルーナを寝かしつけることにする。


 強制的に瞳を閉じたら、やはり体調は悪いのかすぐに眠ってくれた。


 ルーナが眠ったことを確認し、離れ難く思いながらも立ち上がる。

 できるのならば、ずっと眺めていたいのだが。


 これから会議がある。

 それに出席しなければならない。


『ルーナの耳にこの話が入る前に、議会で結論をださなければならない。お前も出席しろ』


 先ほどセオドア殿下から耳打ちされた。

 緊急会議がこれから開かれる。


 ——それにエスパーダ公爵代理として出席する。


(ルーナ……すまない)


 ずっとそばにいると言っておきながら、少し離れることになるかもしれない。


 本当は、一瞬たりとも目を離したくないのに。


 最後に寝顔を目に焼き付けて、頬を撫でてから部屋を出た。


  ◇◇◇



 議会は予想以上に紛糾し、長引いている。

 昨日の夕方から始まったその会議は、結論が出ずに持ち越しになり、今朝からまた始まった。


 元側妃のジャネット様の実家である侯爵家は、今は伯爵家へ降格しているが、今なお勢力が強い。


 コラソン公爵の情報からだと、弱みを握られている貴族が多いとか。


 最終的に、ここまま結論が出ない場合は公爵家と王家の会議で結論が出ることになるが、その前に結論が出るほうが望ましいそうだ。


「まぁ、陛下が王女殿下を大切に想っていることは知っておりますが……。立場というものもございますからな。そこは弁えていただきたいものです」

「笑えない冗談だな。貴殿こそ、ルーナリア王女殿下がその後どうなるか、想像がつくだろう」

「それはこの和平条約のためのものなのだから、丁重に扱ってくれるだろうさ」

「貴様……まさか本気でそんなことを思っているなんて言わないだろうな?」


 かれこれこの論争も何度目になるか。


 自分のことしか考えていない、ルーナを駒としか思っていない人間に殺意しか湧かない。


 それでも今はまだ、黙っているしかない。

 

 もどかしく思いながらも、なかなか結論がでずにいたとき。


 会議室の扉がバンっ!という音を立てて勢いよく開いた。


 みなが驚き、一斉に扉の方を向いた。


(……どうして、ここに……)


 そこに立っていたのは、公の場では常に柔らかな微笑みを浮かべていた、この国の王女。


 けれど今、その顔に笑みはない。


 まっすぐ前を見据えるその姿は、今まで誰も見たことがない——まさしく、“王女”だった。



読んでいただきありがとうございます!

申し訳ありませんが、体調崩したため夕方の更新はお休みします。

明日はまた更新しますのでよろしくお願いします!

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