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孤児院育ちの王女は、護衛騎士の重すぎる愛に気づかない  作者: はな
第三章

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47、私にしかできないこと


 ナタリーに身支度をお願いし、最初は体調も戻ってないのだからと反対されたものの、私の顔を見て何かを感じ取ったのか。


 事情もテオドール殿下の様子だと知らなさそうだったけれど、そのあとは何も聞かずに手伝ってくれた。


 今も会議は続いていると聞いた。

 おそらく意見が割れているだろうことは想像に難くない。


「……終わりました」


 ナタリーから声をかけられて、下がっていた視線を上げて鏡を見ると、覚悟を決めた顔をした私が映っている。


 先ほど泣いたせいで腫れていた目元は、ナタリーの素晴らしいケアとお化粧技術によって何事もなくなっている。


 頬を軽く叩いて、気合を入れる。

 まだ少し痛むけれど、その痛みが逆に意識をはっきりさせた。


(さぁ、行くわよ!)


 私が頬を叩いたことでビクッと驚いていたナタリーも、難しい顔をしてついて来る。


 やがてたどり着いた、議会が行われている部屋の前。


 中からは何やら言い争っているような声が聞こえる。


 もう、後戻りはできない。

 でも、私は覚悟を決めた。


 何よりも——私はみんなを、そしてレイを守りたい。


 幸い、今の私には立派な立場と若干の権力がある。

 ただ守られて泣いているだけだった、あのころとは違う。


 あとは最高権力者であるお父様とお兄様に、折れてもらうだけ。


(レイも、反対するだろうけど……)


 私は深呼吸を一つして、思い切り扉を開け放った。


 喧騒に包まれていたであろう空間には静寂が落ちた。


 議会に出席していた人たちの、驚きの視線が突き刺さる。


 前は視線を向けられるのも怖かった。

 笑顔を張り付けて、気づかないふりをしていたけれど。


(それも不思議と、今はもう怖くない……)


 お父様も、お兄様もレイもそのほかの人たちも目を丸くして私を見つめる。


「……私が、行きます」


 会議室は変わらず静寂に包まれているため、私の声は響いた。


 ——と思ったのだが。


 しかししばらく待っても誰も反応してくれない。


 そのため聞こえなかったのか、私の言ったことが伝わらなかったのかと思い、もう一度口を開いた。


「……私が、ネージュラパン王国国王の、側妃として、嫁ぎます」


 誰が聞いてもわかるように、区切りながら言ってみた。


 するとお父様がハッと我に返ったのか、慌てて叫んだ。


「だ、だめだ!何を言っている!!お前をそんな……!!」

「……でも、お父様……いえ、国王陛下。それが国に被害が少なく、確実だと思います。何より……私が嫁ぐことで、この国の民が……何事もなく無事なのであれば。それに越したことはありません」

「しかし……!!」


 それでもお父様はまだ何か言おうとしているが、そのときパチパチパチと1人分の拍手が響いた。


 音のする方をみると、アンゲロス伯爵がいやらしい笑みを浮かべてわざとらしく声をだした。


「いやぁ、なんとも。非常に国想いの王女殿下ですな。素晴らしい。本人もこうおっしゃっているのに、何を反対することがありますかな?」


 アンゲロス伯爵は元側妃のジャネット様の実家である。

 ジャネット様の所業は独断によるものだと、発覚早々あの侯爵家(現伯爵家)は彼女を切り捨てたと聞いている


 この人の狙いはわからない。


 ——それでも。


「……ご賛同ありがとう、アンゲロス伯爵」

「いえいえ、ご立派になられましたな。あんなに小さかったのに……美しく成長なさいました」


 そう言いながら下卑た笑いを浮かべ、私の全身を舐めるように見つめる。


 気持ち悪さを感じていたそのとき、いつの間に来たのか。

 レイが私の前に立ち、私を隠してアンゲロス伯爵を睨みつけた。


「それぐらいにしたらどうだ。下品で不愉快極まりない」


(……何度、この背中に守られただろう)


 レイの背中を見つめて思うのは、そんなことで。

 自覚してしまったからか、こんな状況で、向けられたのが背中でも、どうしても愛おしさが湧き上がってくる。


 それでも——私は守りたいと、守ると決めた。


 その決意は鈍らない。


「……下がりなさい。エスパーダ公爵令息」

「……ルーナ……?」

「下がりなさいと言ったのよ。いくら婚約者候補だからといって、私の前に立たないでちょうだい」


 私の毅然とした拒絶の声に驚いたのか、小さな声で私のことを呼ぶレイに追い打ちをかける。


 本当は怖い。


 それでも——


 レイの前にでて、部屋全体に聞こえるように宣言する。


「私はこの国の第一王女、ルーナリア・シュルーク。私は私の国のために身をささげることに否やはありません。この国のためになるのなら、本望。そのために私はいるのです」


 後ろにいるレイの表情はわからない。

 けれど、お父様もお兄様も、信じられないものを見る目で私をみている。


 今までの私ならしなかった行動だし、今の私は表情作ることが出来ていないから、それも仕方がないと思う。


「どんな噂があろうとも。どのような扱いになるのか目に見えていても。私にしかできないことがあるのなら、喜んでこの身を捧げましょう」


 するとアンゲロス伯爵を筆頭に拍手が沸き上がる。

 小さかったそれは、アンゲロス伯爵の視線を受けた人から増え、だんだんと大きなものになっていった。


(この人の何かしらの企みに便乗するのは、とても気が引けるけど……)


 今はこうでもしないと議会で承認は下りないと思ったのだ。

 こういった経験があまりないから、ほかにも方法があったのかもしれないが、思いつかなかった。


「……これで議会で承認が下りたということでよろしいわね?あとは先方にその旨を早速伝えてちょうだい」

「……は、はい。かしこまり、ました……」


 フェリシアのお父様で宰相でもある、コラソン公爵に視線を送り、無理やり了承させた。


 コラソン公爵はしきりにお父様へ視線を送っているが、お父様は呆然としているのか視線が合うことはなく。


 お兄様も最初は驚いていたが、今は険しい顔をして私を見つめている。


 そして——怖くてレイのほうを見ることも出来ない私は、最高権力者でもあるお父様がまた何か異を唱える前にその場を後にした。




読んでいただきありがとうございます!

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