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孤児院育ちの王女は、護衛騎士の重すぎる愛に気づかない  作者: はな
第三章

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42、告白と夜明け



「……好き……?」


(好きって……どういうこと?)


 レイの言っていることが、理解できない。

 こんな私の何を好きと言っているかもわからない。


 大切に想っている人を死に追いやるような、ひどい人間に。

 そしてそのことを忘れているような、薄情な人間に。


「もちろん、友人としてじゃない」


 レイの声は、震えるほど真剣だった。


「1人の女性として。この世の何よりも、誰よりも……愛してる」

「な、何を……言って……」

「ルーナと初めて会った日、俺はルーナに救われた。あの日から俺の想いは変わらない。ずっとルーナのそばにいたいし、ずっとそばにいてほしい」

「私……私は……」

「知ってる……ルーナが今でもテオ兄を想っていることは。それでも……テオ兄を想っているところも、すべてひっくるめてルーナが好きなんだ」


(愛って何?テオ兄を想っている私もすべて……?)


 意味がわからない。

 そんなこと、あるわけない。


 でも、レイの声は真剣そのもので。


 あまりにも信じられなくて、理解できなくて、言葉が出てこない。


 黙ってわけもわからず考えていると、レイの私を抱きしめる腕の力がきゅっと強くなる。


「でも、俺の想いとは別に。みんなルーナを待ってる。ナタリーも、フェリシアも、テオドール殿下も、もちろん国王陛下もセオドア殿下も」

「……なんで?私のことなんて……」


 なんとか声を振り絞る。

 これ以上にもっと聞きたいことはあった気がするけれど、混乱していて他に出てこなかった。


 レイはそっと体を離したかと思うと、私の両肩を掴んで、至近距離で私の目を覗き込んだ。


「俺のことで、混乱させてしまったのかもしれないけど……本当に、わからないか?」

「……っ!」


 ——本当は、わかってる。わかってた。


 見て見ぬふり、鈍感なふりをして気づかないフリをしていた。


 みんなが——私を大切にしてくれてるってわかってた。


 でも——


 テオ兄を忘れるなんて、できなくて。

 それはひどい裏切りではないかと思って。


 それは記憶が戻ったことで、より強く思うようになった。


 そんなことを考える自分が、一番みんなを傷つけているかもしれない。

 それでも私はテオ兄を裏切ることなんて、できなかった。


 テオ兄にもう一度会う——会いたい。


 ずっと、ずっと。

 それだけを心の支えにやってきたのに。


 気づけばみんな。

 私の大切なかけがえのない人になっていた。


 もう、気づかないふりなんてできないほど、その存在は大きくて。


 ——これ以上、思い出したらだめだ。



「だめ……お願い。これ以上……私に優しくしないで。私に関わらないで……お願いだから」

「それは、無理なお願いだな」

「なんで……ずっと、ずっと。テオ兄に会うことだけを考えて生きてきた。自分のためだけに……自分の欲望のために、周りを巻き込んで……」

「巻き込んでいた自覚はあるんだな。……でも俺は、ルーナに巻き込まれるのなら本望だ」

「本望、なんて……そんなわけ……」

「本望だ。俺はルーナのそばにいられるならなんだって……ルーナのために死ねというのなら、受け入れるくらいには」

「──は」


(死ぬ……?レイが、死ぬ……?)


 そんなこと受け入れられるわけない。

 レイがいなくなるなんて。


 ガバっとうつむいていた顔を上げて、思わずレイを見つめてしまう。


「……そんな顔をするな。たとえ話だ」

「……ど、して……そんな顔をするの……?」


 レイはにやけるのを堪えるような顔をしている。


 今の話のどこがレイをこの表情にさせているのかわからない。

 そう聞くと、ばつが悪そうに視線をお泳がせた。


 しかし、私が視線を外さないため観念したのか、渋々ながらも口を開いた。


「……こんな状況なのに、俺のことを……どんな形であれ、想っていてくれて嬉しいと、思ってしまったんだ……」

「……馬鹿じゃ、ないの……」

「……ルーナからなら悪口を言われても、俺にはご褒美だな」


 私は困惑しかしなかったが、レイは嬉しそうに笑った。

 そして、何も言えなくなった私をじっと見ている。


「……うぬぼれている部分もあるかもしれないが。ルーナが今、俺に対して思ってくれたように、ルーナのことを想ってくれている人がたくさんいるってこと。覚えていてほしい」

「でも、テオ兄が……私を、待って……」


 レイのまっすぐな瞳と目があい、それ以上レイの顔を見ていられなくて、サッと顔を背ける。


 私の頭の中にはみんなと過ごした日常の光景が、交わした言葉がぐるぐると渦巻いていた。


 もう、否定できなかった。


 私は、みんなが、大切で好きなんだ──


 認めてしまえば、簡単だった。


 何度も気づかないふりして、見ないふりして、誤魔化していたけれど。

 結局いつまでも、誤魔化し続けられるわけがなかったんだ。


 この自分の気持ちには嘘はつけなくて、つきたくなくて再び視界がぼやけていく。


 それでも、どうしても、ひかかってしまうのは──


「いいのかな……私が……。テオ兄を、死なせてしまった私が……生きたいと……思ってしまっても……」

「……むしろ……テオ兄は、ルーナに生きていてほしいと、そう思っているから守りたかったんだろう。だから、テオ兄の分も、ルーナは生きなきゃだめなんだよ」

「テオ兄の、分も……?」

「うん。だから、帰ろう。みんなルーナを待ってるよ」

「……っ……う、……」


 ——本当は怖かった。


 テオ兄が待っていてくれるとはいえ、死ぬなんて。

 レイの言葉で、もう気持ちを抑えることなんて、できなくて。


 いろいろな気持ちが涙とともに溢れてきて、止まらなくなってしまう。


 レイはそんな私を引き寄せてぎゅっと優しく、でもきつく抱きしめた。

 そしてやっぱりぎこちないけれど、子供をあやすように優しく、私の頭を撫でてくれた。


 気づけば私は子供みたいに声をあげて泣いていた。


 レイの胸の鼓動が、驚くほど速くて、あたたかくて。

 彼もまた、私を失う恐怖と戦っていたのだと知った。


 ──ずっとずっと、我慢していた。


 私は大切な人を作っちゃいけない。

 本心から楽しんではいけない。


 テオ兄が待っているから。

 どうせ最後には、全部置いていくもの。


 記憶が戻ってからは、テオ兄が享受するはずだったものを、私なんかがもらっちゃいけない。


 ——そう思っていた。


『……リアの未来が、たくさんの嬉しいこと、幸せなことで、いっぱいに、なりますように』


 ——テオ兄は最期まで、私の幸せを願ってくれていたのに。


「ルーナ、もう一度言う。俺が、ずっとそばにいる。テオ兄の分も。それに、ルーナのことを大切に思っている人もたくさんいる。みんな、待ってる……だから、帰ろう」


 気づけば私は、こくんと何度もうなずいていた。

 

 星空は、もう夜明けに溶けかけていた。

 だんだん夜が明けてきたのか、辺りは明るくなってきていた。







読んでいただきありがとうございます!

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