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3、テオ兄と約束



 ほっと息を吐き出したところでテオバルトは再度問いかけてきた。



「僕、最近ここに来たんだけど、初めて会った気がするな。いつも何してたの?」

「あ……私、最近体調が悪くて……掃除の時間以外、寝ていることが多かったから……」

「そっか。今は大丈夫?」

「う、うん。あんまりよくはないけど、掃除は……できる、と思う」

「そっか。僕はもう終わってるから、さっさとやっちゃおう」


 そう言ってテオバルトは私の掃除を手伝ってくれた。

 それからというもの、テオバルトは私と一緒にいることが多くなった。


 他の子達に遠巻きに見られていることは変わらないが、一部の女の子からの視線は厳しくなったように感じる。

 それでも、1人でいるのが心細かった私はテオバルトのことをテオ兄と呼んで慕っていた。



「リア、体調はどう?」

「だ、大丈夫……だよ」

「無理しないで。顔色が悪い。ほら、横になって」

「あ、ありがとう……」



 そんなことはしょっちゅうで、あまり体調が良くなることはない。


 そんなある日のこと。



「リア、これに力を…うーん気持ち?を込めてみてくれる?」

「……きもち?」



 そう言ってどこから持ってきたのか、赤い綺麗な石を私に差し出した。



「うん。説明が難しいな……自分の体に意識を向けて……何か感じるものはある?」

「うーん……?」



 よくわからないものの、いつも私のことを助けてくれるテオ兄の言ってることだ。やらないという選択肢はない。


 ひとまず力や気持ちを込めてみようと、受け取った赤い石をそっと両手でにぎり意識を集中する。


 しばらくそうしていると、ここしばらく感じていた倦怠感が消え、不思議と体が軽くなったような気がした。


 手を開いて石をみていると、その綺麗な赤色の石はキラキラと光り輝いていた。



「きれい……」



 石に見入っているとテオ兄は何か納得したのか、頷きながら石を見つめている。



「やっぱり……リア、君は魔力があるね?」

「ま、りょく……?」



 そう言われて思い出すのは以前、魔法みたいな力を使ったこと。

 それがバレたらテオ兄も、みんなと同じ目でわたしを見るかもしれない。テオ兄に嫌われるかもしれない。


 顔から血の気が引いていく。それでもテオ兄に嘘をつきたくない。


 そんなことを考えていたら何も言えなくなり、その結果黙ってしまう。

 ただ体は正直で、嫌な想像をしたせいか後ずさっていた。


 テオ兄は私の様子に気づいたのか焦ったように言った。



「あ、大丈夫だよリア。僕も魔力があるんだ」

「……え?」

「ほら、みてて」



 そう言って手のひらを上に向けた。少し手のひらから離れたそこに小さな火の玉が浮かび上がった。



「ね。僕はリアと一緒だよ。大丈夫」

「ほ、んとうに…?」



 心から安堵したと同時に涙が溢れてくる。



「多分リアの体調不良は、魔力の循環が滞っているからだと思う」

「魔力が…とどこおってる?」

「そう。その石にこれから毎日魔力を込めてごらん。そうしたらきっと体調もよくなるよ」

「うん……わかった」



 それからは徐々に、テオ兄の言った通り体調も良くなっていった。


 そしてテオ兄から少しずつ魔法の使い方を教えてもらうことになった。

 いじめは変わらず続いていてテオ兄が守ってくれたけど、テオ兄がいないときを見計らってくる子たちもいた。


 それでも、もう1人じゃない。私にはテオ兄がいると思えば耐えられた。


 そんな日々を過ごし、ある日テオ兄は私に字を教えてくれながら絵本を読んでくれた。

 それは大魔法使いが魔王を倒して世界が平和になる物話だった。


 私は同じ魔法が使える存在で、すごいことが出来るというところがとても好きになった。


 文字もスムーズに読めるようになったころには、テオ兄と会ってから1年ほど経っていた。


 少し肌寒いなと思って起床したある日の朝。

 孤児院全体がバタバタしていた。

 何かあったのかと様子を見に行くと、いつもシャツにズボンという服しか与えられていないのに、テオ兄だけ綺麗な服装をしていた。



 ──それは子供達がどこかに引き取られるときだけ与えられる服だった。



 その姿にショックを受けてしまった。もう、テオ兄は私のそばからいなくなってしまう。


 テオ兄が引き取られるなら、家族ができるなら、一緒に喜ばなきゃ。そう、頭ではわかってはいるのに。


 ショックの方が大きかった私は、その姿のテオ兄を見て動けなくなってしまった。


 すると、私に気づいたテオ兄が近づいてくる。


「……リア」

「テ、テオ兄……ここから、いなくなるの…?」

「……うん、そうみたい。僕を、引き取ると言ってくれている人がいて……」

「うっうぅ……いや、嫌だよ……テオ兄がいなくなる、なんて……い、行かないで……」


 

 私は無力で、どうすることもできないこともわかってはいるのに。


 叶わないとわかっていても願ってしまう。目からは涙がぽろぽろと溢れてきて止まらない。またあのテオ兄がいない日々に戻るなんて。

 そう思っただけで心が壊れてしまいそうだった。



「……僕も、リアと離れ離れになるのは、寂しい。だから、お互いに約束しよう」

「ぐすっ…や、約束……?」

「うん。リア、約束して。次に会うときまでに、夢に近づいてるって...そして笑っていて。そしたら必ずまた、会えるから」

「……夢?」

「うん。この間、大きくなったら大魔法使いになりたいって、言っていただろう?この国は身分に関わらず、実力があるものが評価される国だから……きっと、大丈夫。それに多分リアは……いや、なんでもない」

「テオ兄は……?」

「うーん、僕は…王子…うん、君の……リアの王子様になるよ」

「……王子様?」

「うん。絵本で大魔法使いと一緒に魔王を倒していただろう?リアを何ものからも守れる力を得たら迎えにいくから」

「……本当に?」

「うん、本当だよ。だからそれまで……僕はリアの笑顔が大好きだから、笑顔で。お互い別の場所でだけど、頑張ろう?」

「うん……!うん!私……私、頑張る!また、テオ兄に会うために……!!」

「うん、僕も頑張るよ。あと……それはリアが持っていて。それは、僕が作ったものだから、僕そのものだよ。僕だと思って持っていて。あとこれも。つけてて」



 そう言って私が前にテオ兄からもらってからずっと肌身離さず持っている赤い綺麗な石を指差した。 そのあといつもテオ兄が「他の人には内緒」といって身に着けていた、赤い石のペンダントを首にかけてくれた。そしてすぐに服の中に隠した。

 テオ兄が大切にしていたペンダントをもらえたことで嬉しくなる。



「うん!持ってる!大事にする!」

「ふふっありがとう。……ずっとずっと僕がリアを大切に想っているってこと、忘れないで」

「うん!私も!私もテオ兄が大切で大好きだよ!ずっと……ずっとずっと!」



 お互い泣いてしまったが、最後には笑顔で。その会話を最後に、テオ兄は孤児院を去っていった。




読んでいただきありがとうございます!

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